目次
■引用原文(日本語訳)
第一〇章 暴力(ダンダヴァッガ)第135偈
牛飼いが棒をもって牛どもを牧場に駆り立てるように、
老いと死とは、生きとし生けるものどもの寿命を駆り立てる。
(『ダンマパダ』第135偈)
■逐語訳
- 牛飼いが棒をもって:牛飼いが長い棒で牛の群れを誘導する様子をたとえにしている。
- 牛どもを牧場に駆り立てるように:牛を次々と牧場(あるいは屠場)へと導いていくように。
- 老いと死とは:人間を含めたすべての生きものに等しく訪れる現象。
- 寿命を駆り立てる:命の時間は、常に「老いと死」という力によって前に押し出され、終わりに近づけられていく。
■用語解説
- 牛飼い(ゴパーラカ):人間が命を支配しているように見える存在として登場するが、ここでは「老いと死」がその役を担う。
- 牧場(ヤーナ):行き着く先(目的地)を意味する。象徴的には「死」や「再生の場(輪廻)」とも解釈できる。
- 寿命を駆り立てる(アーユカン・ニヤンティ):命を終末へと押し進める力、すなわち「時間」「老化」「死」の作用。
■全体の現代語訳(まとめ)
牛飼いが棒を使って牛たちを次々と牧場へ導いていくように、
この世のすべての生きとし生けるものもまた、「老い」と「死」という見えない力に絶えず追い立てられている。
どんな命も、静かに、確実に、寿命の終わりへと進んでいるのである。
■解釈と現代的意義
この偈は、無常観と死生観の核心を描いています。
私たちは日々の忙しさや目の前のことに気を取られ、
「老い」や「死」という根源的な事実から目を背けがちです。
しかし、ブッダはここで「老いと死は、常に我々の背後にある力であり、それを自覚せよ」と語っています。
このたとえは恐怖を煽るものではなく、「限られた命をいかに意義深く生きるか」への呼びかけなのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
時間意識・有限性の自覚 | すべてのプロジェクト・人生には終わりがある。永遠に準備ばかりするのではなく、「今、この一瞬に意味を込める」姿勢が必要。 |
引き継ぎと持続可能性 | 組織の構造も人のキャリアも、いつか変わる。だからこそ、知識や責任の共有・継承を意識した業務設計が重要。 |
個人の成熟と謙虚さ | 自分の命も時間も無限ではないと知ることで、傲慢や慢心から離れ、他者と共に生きようとする謙虚な姿勢が育まれる。 |
■心得まとめ
「老いと死は、私たちを止まらず駆り立てている」
ブッダは、この現実の中にこそ智慧と目覚めがあることを伝えています。
すべての生命は、見えない「時間」という牛飼いによって、静かに終わりへと導かれています。
だからこそ、私たちは**「いつか」ではなく「いま」**を意識して生きねばならないのです。
有限の中にこそ、真の意味と価値が生まれる――それが、この偈に込められたメッセージです。
コメント