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己を正し、時に従い、運命に慌てず


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■引用原文(『中庸』第十五章)

君子素其位而行、不願乎其外。
素富貴行乎富貴、素貧賤行乎貧賤、素夷狄行乎夷狄、素患難行乎患難。
君子無入而不自得焉。
在上位不陵下、在下位不援上。正己而不求於人、則無怨。上不怨天、下不尤人。
故君子居易以俟命、小人行険以徼幸。
子曰、射有似乎君子、失諸正、反求諸其身。


■逐語訳

  • 素其位而行、不願乎其外:君子は自分の置かれた地位に応じて行動し、それを越えた立場を望まない。
  • 素富貴行乎富貴…素患難行乎患難:富貴・貧賤・異境・困難、それぞれに応じて、その中で道を守って行動する。
  • 君子無入而不自得焉:君子はどんな状況にあっても、常に道を体得して安定している。
  • 在上位不陵下、在下位不援上:上位にあっても下の者を抑圧せず、下位にあっても上の者にへつらわない。
  • 正己而不求於人、則無怨:自らを正し、他人に求めなければ、心に怨みは生じない。
  • 上不怨天、下不尤人:天に不満を言わず、人を責めることもしない。
  • 君子居易以俟命、小人行険以徼幸:君子は無理のない自然体で運命を待ち、小人は危うい行動でまぐれを狙う。
  • 射有似乎君子、失諸正、反求諸其身:弓の礼法は君子に似ている。的を外したら、原因を自分に求める。

■用語解説

  • 素(そ):面対する、あるがままに対処するの意。境遇を受け入れつつその中で実践する。
  • 自得(じとく):自らの内に道を体得し、安定して揺るがない状態。
  • 援(ひ)く:上位の者の助力を引き出そうとすること。
  • 俟命(しめい):天命を静かに待つこと。
  • 徼幸(ぎょうこう):運を頼りに成功を狙う、いわばまぐれ頼み。
  • 射(しゃ):古代中国の礼法で、弓射の儀式。「的を外したら己に問う」ことが美徳とされる。

■全体の現代語訳(まとめ)

君子とは、自分の置かれた環境や立場に応じてふさわしく振る舞い、それ以上を望まない人である。
富貴でも貧賤でも、異郷でも困難な状況でも、その中で道を見失わず、自分の中に確かな「道」を保ち続ける。

上の立場にあっても人を見下さず、下の立場でも媚びへつらわない。
自らを律し、他人に不満をぶつけるのではなく、あくまで己を正すことに集中する。それゆえに、天にも人にも不平不満を抱かずに済む。

君子は、無理せず安らかに運命を待つ。これに対して小人は、リスクを冒してでもまぐれの幸運を狙おうとする。
まさに弓の礼のように、失敗があればまず自分自身を省みる。それが君子の姿勢なのだ。


■解釈と現代的意義

この章句では、中庸の実践とは「現状を受け入れて誠実に生きること」であり、環境に左右されず、自らを律することが尊いとされます。

  • 運命や地位を嘆かず、その中で自分のすべきことをする姿勢
  • 社会的ポジションに応じた慎ましさと責任感
  • 他責ではなく、自責・内省による成長
  • 無理な成功や成果主義に流されず、正道を地道に歩むことの価値

これは、現代の激しい競争社会やSNS的承認欲求の風潮への静かな警鐘でもあります。


■ビジネスにおける解釈と適用

観点解釈・適用例
リーダーのあり方上司は地位を笠に着ず、部下を抑えず、常に「己を正す」姿勢が信頼を生む。
キャリアと環境適応与えられたポジション・役割に即した貢献を目指す。「今、ここ」でできることに集中。
成長マインドセット失敗の原因を環境や他人のせいにせず、常に「自分に何ができたか」を省みる姿勢。
サステナブルな働き方無理な挑戦や過度な期待で一発を狙うより、着実な努力を重ねる方が結果として継続的成功につながる。

■心得まとめ

「境遇に従い、己を律し、他に求めず。これ、君子の道なり」

成功や立場に囚われることなく、どんな境遇にあっても、その中で自分の道を貫く。
人を責めず、天を怨まず、ただ己のあり方を問い続ける――そこにこそ、中庸の強さがある。
君子とは、自らの人生を自らの手で正し、無理をせずとも尊敬される存在なのです。


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