「前向きの数字」とは、未来に向けた経営計画の中で、目指すべき目標や指針となる具体的な数字のことです。しかし、世の中にはその重要性を軽視し、前向きの数字を作ろうとしない考え方も存在します。その背景には、主に2つの理由があります。
理由1:「未来は予測できない」という考え方
最初の理由は、「先のことは雲をつかむようなもので、予測は不可能だ」という考えです。一見もっともらしいこの主張ですが、本当にそうでしょうか?
たとえば、自社の今後1年間の人件費や経費について考えると、それは過去のデータや現在の状況を基に比較的正確に予測することが可能です。もちろん、未来を完全に予測することはできませんが、全てが「分からない」わけではありません。
未来を見据える際に重要なのは、100%正確であることではなく、予測可能な部分を基に現実的な計画を立てることです。来年の経費や人件費、その翌年以降の数字も、時間が経つにつれ精度は下がるものの、一定の範囲で見通しを立てることができます。
また、収益の予測も全くの未知数ではありません。市場動向や顧客ニーズ、競合の影響を考慮し、適切な基準を設定することが可能です。不確実性に直面することを避けていては、経営の健全性を保つことはできません。
さらに重要なのは、「将来必要とする収益」は、経費や利益目標を基に計算可能であるという点です。これを基準に計画を立てることが、経営の持続性を支える鍵となります。
理由2:「計画通りにいかないから意味がない」という考え方
次に、「計画を立ててもその通りには進まないので無意味だ」という主張を見てみましょう。この考えも、経営においては非常に短絡的です。
実際、計画が初年度から大きく外れることは珍しくありません。しかし、それは計画そのものの価値を否定する理由にはなりません。むしろ、計画を立てることによって得られる洞察や軌道修正が、経営の改善に役立つのです。
事例:Z社の計画と実績のズレ
Z社は、従来の主力商品である水冷式コンプレッサーの需要が減少し、空冷式コンプレッサーの需要が急増する市場の変化に直面しました。当初の計画では水冷式の売上増を期待していましたが、結果は売上減。一方で、空冷式は発売の遅れがありながらも予想を大きく超える売上を記録しました。
この結果、Z社は水冷式の在庫過多と空冷式の供給不足という問題を抱えることになりました。しかし、Z社長はこれを単なる失敗とは見なさず、計画と実績のズレを市場のニーズを読み取るための貴重なデータと捉えました。
この経験から、Z社長は空冷式の新機種開発を大幅に前倒しし、リソースを集中投入する決断を下しました。この迅速な対応により、Z社は市場のニーズに応え、競争優位を確保することができました。
計画通りにいかないからこそ、計画を立てる意義がある
Z社の事例が示すように、計画が外れることは珍しいことではありません。しかし、計画の目的は「その通りに進むこと」ではなく、実績とのズレを分析し、経営の方向性を柔軟に修正することにあります。
計画を立てることで、企業は次の一手を考える出発点を得られます。目標を持たなければ、変化に対応するための基準を失い、行き当たりばったりの経営に陥ってしまいます。計画通りにいかないことを恐れるのではなく、その過程から得られる教訓やデータを活かす姿勢が、経営の成功には欠かせないのです。
前向きの数字を作る理由
前向きの数字とは、単なる予測ではなく、経営の軸として機能するものです。それは、不確実性に向き合い、現実的な計画を立てるための「羅針盤」としての役割を果たします。
未来を完全に見通すことは不可能ですが、予測可能な部分に基づいて計画を立てることで、企業はより確実に成長の道を歩むことができます。不確実性があるからこそ、数字を基にした計画が必要なのです。
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