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内外作区分はよいか

企業の経営において、内製と外注の区分(内外作区分)は利益や安定性に大きな影響を与える重要な要素である。外注によるコスト削減や効率化を図る一方で、内製化によって柔軟な生産体制を維持したいという企業も多くある。

しかし、外注から内製へ切り替える際には注意が必要である。

N社やT社、W社の事例を通じて、同一業界内での異種技術の進出や自社製造拡大のリスクについて学び、内外作区分の戦略的な考え方の重要性を探る。

目次

セクション 1: 内外作区分の重要性とN社の事例

N社はオートバイの部品加工を行っていた。加工工程は、プレス、溶接、塗装、サブアッセンブリーの順で行われており、このうち塗装工程だけが外注されていた。

ところが、N社長は塗装工程まで内製化すれば、さらに利益が増えると考え込んでしまった。そして決定する前に相談するのではなく、決定してしまってからその可否を私のところに相談に来た。

私の意見は内作移行に反対だった。その理由は、同一業界内、さらに同一取引先の同一商品の異なる技術分野への進出はリスクが高いためである。

同じ業界に依存するリスクはそのままに、さらに異なる技術への挑戦によって新たなリスクが増えるからだ。

もし多額の設備投資をするならば、他業界への進出に資金を使うべきである。

しかし、N社長は決心を変えなかった。内作によるコスト削減への期待が非常に大きかったからである。

やがて、駆逐艦のような大規模な塗装プラントが完成し、塗装作業が始まった。しかし、未経験の技術であったため不良品が続出し、コストを下げるどころか大きな損失が発生した。

この混乱は一年半も続き、ようやくその後に技術をものにすることができた。

「やれやれ、これからようやくコスト削減のメリットが得られるぞ」と喜んだのも束の間、マーケットが変わってしまったのだった。

それまで黒一色だったオートバイはカラー時代に突入し、複数の異なる色を少量ずつ塗り分ける必要が出てきた。常時15~16種類、多い時には20種類以上の色を扱わなければならなくなった。

こうなると、大規模なプラントでは小回りが利かず、ロスが大きくなってしまい、採算が取れず会社の長期的な負担となってしまった。

そこで再び私のもとに相談が来た。私はN社を訪問し、事情を詳しく聞かされたのだった。

同一商品の製造工程に異種の技術を内作で取り入れると、技術習得や設備投資が必要になり、予期せぬコストや不良品が発生するリスクが伴います。たとえば、N社が未経験の塗装工程を内作化しようとした結果、コスト削減どころかロスが発生し、逆に採算が取れなくなった事例が示されています。

セクション 2: 同一業界の異種技術進出のリスク

私は、「カラーは数の多い二〜三種類に絞り、その他は外注に回す。余った設備能力を活用して、一色のみで済む仕事を探すほかに、当面の解決策はない。まずはこの方法で採算ベースに乗せることが先決だ。その上で、将来の方針を改めて検討するのがよい」と勧告した。

この実例には、三つの教訓がある。

  • 一つ目は、同一商品の加工プロセスの中で異種技術に進出することのリスクである。
  • 二つ目は、市場の変化に対応しづらいプラントを持つことのリスクである。
  • 三つ目は、作業効率ばかりに目を向け、有利な内製と外注の区分を見逃してしまう硬直した思考のリスクである。

さらに、このような硬直した思考は、しばしば「能率の亡者」に見られる傾向だ。

いったん能率追求に取り憑かれると、それ以外のことにはほとんどと言っていいほど思考が及ばなくなってしまうようだ。

工程の組み合わせ、つまり「内外作区分」は、その場の都合や単なるコストだけで安易に決定するべきではない。

特に、能率主義者は増加し続ける人件費や経費を、ただ能率を上げることで補おうとしがちであるが、これには注意が必要である。

まず第一の手段は社内加工の能率を上げることであり、第二に外注費の節減がある。

特に、外注費の総額が増えたり外注数量が多くなると、それを内製に切り替えようとする傾向がある。これにより、外注費を節減できるからである。

ここには思わぬ「落とし穴」がある。外注費以外の条件を考慮しないためだ。内外作区分の変更は、単純に外注費の削減だけで判断できるものではなく、経営の基本的な要件に関わる重大な問題である。

N社の失敗は、このことを実証している。

  1. マーケットの変化に対応しづらい

特定の工程を内作化した場合、市場のニーズが変わったときに柔軟に対応するのが難しくなります。N社がカラー需要に対応できず、余分な設備が長期的な負担となった例が典型的です。

セクション 3: 問屋業から製造業への拡大のリスク

内外作区分は、メーカーだけでなく、流通業者にとっても重要な課題である。

衣料品問屋T社の倒産について考えてみよう。T社が倒産に至った要因の一つは、自社で縫製工場を持ったことにある。これは、同一業界内で異なる活動分野に進出した例である。

仕入れ業務だけを行っていた時は、シーズンに間に合うように仕入れを行い、端境期には仕入れ量を減らすことができたうえ、返品が可能な商品もあり、身軽な経営が可能だった。

しかし、一度自社工場を持つと、状況は一変した。衣料品は、夏には冬物、冬には夏物と、半年前から製造を始めなければならず、需要の見込みが外れた場合には、以前のように返品することができず、すべて自社での負担となってしまった。

端境期であっても、工場を遊ばせるわけにはいかず、稼働を続けなければならなかった。この結果、運転資金が増大し、不良在庫も積み上がっていった。こうしてリスクが徐々に蓄積され、最終的には「不渡りリスク」を引き起こすに至ったのである。

これと全く同じケースとして、工具問屋のW社がある。工具を仕入れて販売していた頃は、経営は順調だった。しかし、欲を出して自社で工具の製作を始めたところから問題が生じた。

多額の資金を投入して立ち上げた工具工場は思うように稼働せず、さらに不況の影響で工具の売上が減少し、ついには「資金ショート」を起こしてしまった。

異種技術や慣れない事業に進出する際には、十分な準備と慎重な運営が不可欠であることを忘れてはならない。そうしたリスクを冒さずとも、業績を向上させる方法は他にも存在するのだ。

例えば、T社の場合、製造に手を出さず問屋業に徹し、まずは既存の販売網に載せられる新商品を追加することから始めるのが正しい手順であろう。

W社の場合も、流通業者としての本分を活かし、中小型の機械を取り扱うか、あるいは支店を出すといった方法が、確実性が高く無難な選択と言えるだろう。

メーカーであれ流通業者であれ、内外作区分の決定は、想像以上に会社の将来に大きな影響を与えるものである。

そのため、この決定については、慎重にさまざまな角度から検討する必要があることを、しっかりと心得ておくべきだろう。

資金繰りへの影響

自社での製造を選択すると、多額の設備資金や運転資金が必要になるため、予期しない売上減や不況に対する耐久性が弱くなります。衣料品問屋のT社が自社の縫製工場を持ち始めたことで、見込みが外れた際のリスクが増し、最終的には倒産につながった事例がこれに該当します。

セクション 4: 内外作区分を検討する際のポイント

内外作区分の決定は、単に「間に合わないから」や「コストが安いから」といった理由で行うものではない。そこには重要な戦略的意義があるのだ。

まず第一に、収益性の向上が挙げられる。

多くの社長は、外注には外注費がかかるため収益性が下がると誤解しているが、実際にはその逆で、外注を活用することで固定費の増加を抑えられる。

もしこれを社内で新たに行う場合、設備費だけでなく製造費もかかることになる。この計算方法については、同じく社長学シリーズの『増収増益戦略』で解説しているので、そちらを参照されたい。

  1. 内外作区分を戦略的に考慮する必要性

内作と外注を適切に組み合わせることは、短期的なコスト削減を超えた戦略的な意味を持ちます。具体的には、製造工程を一部外注にすることで固定費の増加を抑えたり、ピーク時の注文にも柔軟に対応できる利点があります。

セクション 5: 長期戦略としての外注の活用

第二に、季節変動のピーク時には多くの会社で対応が間に合わないことが多いが、外注でそれを補うことによって、簡単に市場占有率を向上させることが可能である。

いったんピーク時の需要を外注で間に合わせると、取引先は「あの会社は対応力がある」と感じ、次回のピークに備えて平常時の注文量も増やしてくれることが多い。これは競争に勝つための最も簡単な戦略と言える。

したがって、内外作区分は長期的な戦略として捉え、内作1に対して外作を5(あるいはそれ以上)に保つことが理想である。最低でも内作1対外作2を確保することが必要だ。

これが実現すれば、筆者が「外注は多いほど良い」と主張する理由を、実際に体感できるに違いない。

  1. 収益性とリスク分散のための外注比率の目安

長期的な収益性と柔軟性を確保するため、内作と外作の比率は、一般的に内作1に対して外作5が理想とされ、最低でも内作1に対して外作2を維持することが推奨されています。

まとめ

内外作区分は、単なるコスト削減の問題ではなく、経営戦略としての長期的な視点が求められる決定である。

事例が示すように、内製化や異種技術への進出にはリスクが伴い、季節変動や市場変化に柔軟に対応するためには適切な外注活用が必要である。

外注比率を高め、柔軟な体制を構築することで、収益性の向上や競争力の強化を図ることが可能になる。内外作区分のバランスを戦略的に設定することが、企業の持続的成長につながる重要なカギとなる。

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