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聖賢の道を学んだ者が、ただ“食べるため”に従うとは情けない

孟子は、愛弟子である**楽正子(がくせいし)**に対し、再び厳しく諫める。

「お前が子敖について斉まで来たのは、ただ“餔啜(ほせつ)”――食べさせてもらうためではないか」
「古の道を学んだお前が、まさかそんな行動に出るとは思わなかった」

ここで孟子が言う**「餔啜」**とは、単なる飲食にあずかるだけでなく、
衣食住などの生活の安定のために身を売るような行為を象徴している。


◆ 学問・仕事は「糧のため」だけにあってはならない

孟子は一貫して、

  • 人の行動や働きは「生きるため」以上に、「義(ただしさ)」や「志(こころざし)」が伴うべきであると主張している。
  • 学ぶとは、仁義を身につけて世に尽くすため
  • 仕えるとは、主君の道をただすため

にもかかわらず、楽正子が**孟子が嫌っている子敖(王灌)**に随従したことに対して、

「あの子敖に従って、ただ“食”を得ることが目的なのか?
それならば、古の学びとは何の意味があるのか?」

と痛烈に問い詰めている。


目次

原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)、楽正子(がくせいし)に謂(い)いて曰(いわ)く:

子(し)の子敖(しごう)に従(したが)って来(きた)るは、
徒(ただ)に餔啜(ほせつ)するなり。

我(われ)意(おも)わざりき。
子、古(いにしえ)の道を学んで、
而(しか)も以(もっ)て餔啜せんとは。


注釈

  • 餔啜(ほせつ):食べさせてもらうこと。生活の便宜をはかってもらうこと。転じて、「生活のために節操を曲げること」の象徴。
  • 古の道を学ぶ:仁義・礼楽・王道政治などの聖賢の教えを学ぶこと。
  • 子敖(しごう):孟子が忌み嫌った斉の寵臣・王灌。世俗的な権勢を振り回す人物とされていた。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • do-not-sell-yourself-for-bread(パンのために魂を売るな)
  • true-learning-is-not-for-food(学びは食のために非ず)
  • work-with-purpose-not-hunger(飢えではなく志のために働け)
  • moral-duty-over-material-gain(衣食より義を尊べ)

この章は、孟子の理想主義と実践主義の両面がよく現れている箇所です。
「生きるために仕方なく」という言い訳は、仁義を学んだ者には通用しないという厳しいがまっすぐな姿勢が貫かれています。

“あなたは、何のために働いているのか”
その問いが、2500年を越えて今も私たちの胸に迫ってきます。

原文(『孟子』公孫丑章句より)

孟子謂樂正子曰:「子之從於子敖來,徒餔啜也。我不意子學古之道,而以餔啜也。」


書き下し文

孟子、楽正子に謂(い)いて曰く、
「子の子敖に従って来たるは、徒(いたず)らに餔啜(ほせつ)するのみなり。
我れ意(おも)わざりき。子、古の道を学んで、しかも以て餔啜せんとは。」


現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 孟子は楽正子に言った。
  • 「君が子敖に付き従って斉に来たのは、ただの食事のためだけではないか。
  • 私は思ってもみなかったよ。
  • 君が古代の聖人の道を学びながら、食事のために仕えていたとはね。」

用語解説

用語解説
楽正子(がくせいし)孟子の弟子であり、儒学を修める人物。
子敖(しごう)齊の諸侯・貴族とされる人物。楽正子が仕えていた。
徒(いたずら)に「むなしく」「単に」「~だけ」の意味。
餔啜(ほせつ)「餔(夕食)し、啜(すす)る」=食事を意味し、転じて“食うために仕える”の意。
古の道(いにしえのみち)古代の聖人、堯・舜・孔子らの実践した「仁義・礼智」の道。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子は楽正子にこう言った:

「君が子敖に付き従って斉の国へ来たのは、ただ飯を食うためのようなものだ。
君が聖人たちの教えを学んでいる人間だと私は思っていたのに、
そんな目的で仕えていたとは、思いもよらなかったよ。」


解釈と現代的意義

この章句は、儒学者(=知識人)としての覚悟と矜持を問う場面です。

  • 孟子は、「道を学ぶ者が、単に生活の糧を得るためだけに仕えること」に強い失望を示しています。
  • 「古の道」とは、公義と誠実による為政・奉仕の精神。それが損なわれていることに怒りを感じているのです。
  • つまり孟子は、目的と手段の不一致を批判しているのです。

ビジネスにおける解釈と適用

●「学んだ理念」と「日々の行動」が一致しているか

  • 「理念ある組織に就職した」と言いながら、「ただの給与目当て」で働く人がいると、組織文化は崩れる。
  • 自らが語った“志”に照らして、行動が伴っているか日々問うことが必要。

●信頼を裏切らない働き方が“人材”を創る

  • 「君は志ある人だと思っていたのに」と言われる行動は、信頼を損なう。
  • 志を持つ者が、日々の判断で「損得」でなく「正義・信念」を優先することが、周囲の尊敬を呼ぶ。

ビジネス用心得タイトル

「志なき奉仕は、ただの“飯のため”──理念と行動の一致が信を生む」


孟子の一喝は、今の社会にも深く響きます。
理念・信念を掲げるだけでなく、それを日々の行動で証明できるか──それが、真に「古の道を学ぶ者」に問われる態度です。

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