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■原文(一四)
ところで、この世で食物や飲料を(多く)所有している人は、
たとい悪いことを行なっていても、
かれは(愚かな)人々から尊敬される。
■逐語訳
- この世で:現世・社会一般・世俗社会において。
- 食物や飲料を多く所有している人:豊かな物質的富を持つ者。経済的成功者。
- たとい悪いことを行なっていても:道徳に反する行為をしていたとしても。
- 愚かな人々から尊敬される:分別や真理を知らない者は、外面的な豊かさを見て、その人を称賛する。
■用語解説
- 愚かな人々(無智の衆):仏教では「真理(法)を知らず、表面的・即物的な価値判断をする人々」を指す。
- 所有:単なる持ち物ではなく、「支配している」「誇示している」含みもある。
- 尊敬される:仏教においては「外見の評価」ではなく、「内実への敬意」こそ本当の尊敬。
■全体の現代語訳(まとめ)
現世においては、豊富な食物や飲み物(=物質的富)を持つ者が、たとえ悪事を働いていたとしても――
無知な人々からは、「成功者」として尊敬されてしまう。
つまり、世間はしばしば「富=価値」と誤認し、本当の善悪を見誤るのである。
■解釈と現代的意義
この句は、「真の価値」と「世間的な人気・評価」との乖離を端的に指摘しています。
現代でも、富豪・インフルエンサー・有名人が、倫理を欠いた行動をしても「すごい人」と称賛される場面があります。
それは、「豊かさ」「見栄え」「権力」=正しさという誤った価値観が、社会全体に浸透しているからです。
仏教はそれに対して、「外見ではなく、内面と行いによって人を見よ」と繰り返し教えています。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈・適用 |
---|---|
経営者の姿勢 | 売上や資産だけで評価されることに甘んじず、「道徳的リーダーシップ」を自ら問うべき。 |
採用と評価 | 経歴や肩書ではなく、人格・姿勢・協調性・倫理観を見抜く目が、組織の質を左右する。 |
ブランド価値 | 外見だけの豪華さや話題性に頼るのではなく、「誠実さ」「社会的責任」が持続的な信頼を生む。 |
消費者意識 | 値段や見た目ではなく、「どのような思想・文化・労力によって作られたか」に注目する意識が求められる。 |
■心得まとめ
「富にひれ伏すな、徳に頭を垂れよ」
金銭や贅沢さを持つ者が、自動的に“正しい”“偉い”と見なされてしまう――
それは、真の価値が見えなくなった社会の盲点である。
ビジネスの現場でも、富や数字ではなく、信頼・誠実・倫理によって人を見抜く眼が求められている。
本当に尊敬すべき人とは、外見ではなく、「どう生きているか」で決まる。
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