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嫡と庶の秩序こそ、国家安定の礎

――親王は皇太子を越えてはならぬ

褚遂良は、魏王・李泰の王府への支給が皇太子を上回っていることに対し、礼に反するとして太宗に諫言した。
皇太子は天子に次ぐ存在として特別の地位にあり、その待遇は礼によって最も重んじられるべきである。
庶子である親王が、それを上回る待遇を受ければ、自然と人心に疑念が生まれ、やがては国を揺るがす火種となる。

たとえどれほど愛していようとも、皇子たちにはそれぞれの定分があり、そこを越えてはならない。
秩序の上にこそ、忠義も孝行も育つ。優遇するよりも、導き育てることこそが親としての本分である。


引用とふりがな(代表)

「庶子(しょし)を愛すといえども、嫡子(ちゃくし)を超えて特に遇(ぐう)するを得ず」
――愛情も秩序の上に立つべきである

「忠・孝・恭・倹(けん)――義方(ぎほう)これなり」
――子を愛すれば義方を教えよ。忠義と倹約を忘れてはならない


注釈(簡略)

  • 褚遂良(ちょすいりょう):太宗に仕えた忠直な諫臣。書家としても名高い。
  • 嫡子(ちゃくし)と庶子(しょし):嫡子は正室の子で皇太子となる資格を持つ。庶子はそれ以外の子で、原則として皇位継承権は持たない。
  • 梁孝王(りょうこうおう)・淮陽王(わいようおう):ともに漢代の庶子で、過度に優遇された結果、混乱や問題を招いた歴史的事例。
  • 義方(ぎほう):子に教えるべき道理。忠、孝、恭、倹の四徳を指す。
  • 出警入蹕(しゅつけいにゅうひつ):天子と同じく出入りの際に警備隊を従える行動。過剰な権威の象徴。

以下に、『貞観政要』巻一「貞観十三年 諫議大夫褚遂良の諫言」について、ご希望の構成で整理いたします。


目次

『貞観政要』巻一:貞観十三年 褚遂良の上疏(魏王泰への特別待遇に関して)

1. 原文

貞觀十三年、諫議大夫褚遂良以每日特給魏王泰府料物、有逾於皇太子、上疏諫曰、「昔人制禮、嫡卑庶。謂之儲君。亞霄極、甚爲崇重、用物不計、泉貨財帛、與王者共之。庶子體卑、不得爲例、以塞疑之漸、除禍亂之源。而先王必本於人情、然後制法、知有國家、必有嫡庶。然庶子雖愛、不得超越嫡子、正體特須崇。如不能明立定分、將使當親者疏、當貴者卑、則佞巧之徒、承機而動、私恩亂公、惑志亂國。

伏惟陛下功超萬古、道冠百王、發施號令、爲世作法。一日萬機或未盡美、臣職諫諍、無容靜默。伏見儲君料物、不及魏王、野見聞、不以爲是。『傳』曰『臣聞愛子教之以義方』。忠・孝・恭・儉、義方之謂也。昔漢竇太后與景帝並不識義方之理、故驕恣梁孝王、封四十餘城、苑方三百里、大營宮室、複道彌望、積財鉅萬、出警入蹕、小不得意、發病而死。宣帝亦驕恣淮陽王、幾至於敗、賴其輔以直諫之臣、僅乃獲免。

且魏王新出閤。伏願恆存禮訓、妙擇師傅、示其成敗、導敦之以節儉、又勸之以文學。惟忠惟孝、因而獎之、德齊禮備、乃爲良器。此所謂教人之道、不肅而成者也」。
太宗深納其言。


2. 書き下し文

貞観十三年、諫議大夫の褚遂良、魏王泰の府に毎日特別に支給される物資が皇太子を超えていることについて、上疏して諫めた。

「古来、礼を制定するにあたっては、嫡子と庶子の区別を明確にすることが基本であり、皇太子(儲君)は極めて重んじられる地位にある。皇太子の使う物資は王と同等であり、庶子はこれに準ずることは許されない。これにより疑念の芽を断ち、禍乱の原因を防ぐのである。

先王は人情を基に法を制定した。庶子がいかに愛されようとも、嫡子を超えることがあってはならない。もし、地位や立場の区別を明確にしなければ、近しい者は遠ざけられ、尊ぶべき者が卑しめられることとなる。そうなれば、奸佞な者たちが機会を得て、私情によって公正を乱し、国の秩序は壊れる。

陛下は万古を超える功績を有し、天下の模範となるべきお方である。一日万機の中においても、細かな過ちが生じうるため、臣は諫言の職を全うすべく発言する。

皇太子よりも魏王の待遇が勝っているのは、道理に反する。『伝』に曰く『愛子は義方をもって教うべし』と。忠・孝・恭・倹、これが義方である。

昔、漢の竇太后と景帝は義方の理を理解せず、梁孝王を過度に寵愛し、その結果、放縦を極めた梁孝王は病を発して死に至った。宣帝も淮陽王を寵愛したが、忠臣の諫言により、ようやく危機を回避した。

魏王はまだ若く、今こそ礼によって教え、優れた師を選び、節倹と学問を勧め、忠孝の心を育てるべきである。それによって徳と礼が整えば、良き器(人材)となろう。これこそ、厳しさなくして教化が実る道である」。

太宗は深くこの言を納めた。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 「魏王泰への特別待遇が皇太子を上回っていることに対し、諫めた」
  • 「礼法では嫡子(太子)を重んじ、庶子はこれに準じる。これは秩序の基本」
  • 「庶子を過剰に優遇すれば、秩序が乱れ、国を損なう」
  • 「愛するがゆえに、きちんと礼を以って教育せよ、というのが『義方』である」
  • 「歴史上でも、庶子を寵愛して失敗した例(梁孝王・淮陽王)がある」
  • 「魏王泰はまだ若く、今が教育の好機である。節倹と学問を教えるべきだ」
  • 「これを守れば、将来よき人材となるであろう」
  • 「太宗はこの諫言を受け入れた」

4. 用語解説

  • 儲君(ちょくん):皇太子。皇位継承者として正統な地位を持つ。
  • 庶子(しょし):側室の子で、嫡子に比べて地位は劣る。
  • 義方(ぎほう):正しい道徳的な教え。特に忠・孝・恭・倹の四徳。
  • 褚遂良(ちょすいりょう):唐の名臣で、魏徴亡き後に太宗の諫臣として重用された。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

褚遂良は、魏王泰への物資供給が皇太子よりも優遇されていることを問題視し、歴史上の庶子優遇の失敗例を引き合いに出して厳しく諫言した。皇太子の立場を保つことは国家秩序を保つ要であり、庶子を愛するあまりその地位を超えさせれば、結果的に混乱を招くと述べ、若い魏王には礼節と学問を中心とした教育を行うべきだと進言した。太宗はこの意見を真摯に受け止めた。


6. 解釈と現代的意義

この章は、**「公私を明確に区別し、組織秩序を守る」**という統治や組織運営の根幹に関わる教訓を示しています。
また、「愛する者にこそ、厳しく正しく教える」という育成の要諦も示しており、リーダーシップ・教育・人事に通じる普遍的な知恵です。


7. ビジネスにおける解釈と適用

  • 「公私混同の優遇は組織の腐敗を招く」
     → 社長の親族や身内への特別待遇は、他の社員の不満を招き、組織全体の士気と秩序を壊す。
  • 「正当な評価制度こそが秩序と育成を両立させる」
     → 評価や待遇は原則に基づくべきで、能力・責任に応じた「定分」が必要。
  • 「若い人材こそ、節度と学問によって鍛えよ」
     → 次世代リーダー候補への投資は、権限よりもまず教養と道徳教育から。

8. ビジネス用の心得タイトル

「愛ある厳正が人を育てる」


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