孟子は、人の世の「評価」や「評判」ほど、あてにならないものはないと喝破する。
「思いもよらない誉れがある。
完璧を求めて努力したのに、かえって非難されることもある」
つまり:
- 評判は、努力の正当な報酬とは限らない
- 誉れも毀(そし)りも、外的要因に左右される
- 自分では「正しくやっている」と思っても、人は別の角度から判断してしまう
孟子は、人の道を歩もうとする者に、**“世間の評”に一喜一憂してはならない”**という心構えを教えている。
目次
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
虞(おもんばか)らざるの誉(ほま)れ有(あ)り。
全(まった)きを求(もと)むるの毀(そし)り有り。
意味・注釈
- 虞らざるの誉れ:予想も期待もしていなかったのに、思いがけず賞賛を受けること。
- 全きを求むるの毀り:自分なりに完全・完璧を目指して努力したのに、かえって非難されること。
この言葉は、表面的な名声や評判に振り回されず、内なる誠をもって判断せよという孟子の根本精神にも通じる。
パーマリンク案(英語スラッグ)
- do-not-chase-reputation(評判を追うな)
- honor-is-not-always-earned(誉れは必ずしも努力の報酬ではない)
- truth-over-praise(称賛より誠実)
- criticism-does-not-always-mean-failure(非難されても失敗とは限らない)
この章は、世間の評価に流されず、信ずる道を静かに歩めという孟子の静かで深い戒めです。
たとえ評価されなくても、本当の価値は自分の中にあるという姿勢が、王道の基礎であると孟子は考えています。
原文と書き下し文
一.
孟子曰、虞不之譽、求全之毀。
→ 孟子曰く、虞(おもんぱか)らざるの誉れ有り。全きを求むるの毀り有り。
二.
孟子曰、人之易其言也、無責耳矣。
→ 孟子曰く、人の其の言を易くするは、責め無きのみ。
現代語訳(逐語/一文ずつ)
一:
- 「考えずに褒めると、かえって過大評価になる」
- 「完全を求めすぎると、かえって貶めることになる」
二:
- 「人が言葉を変えるのは、非難されないようにするために過ぎない」
用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
虞(おもんぱかる) | 先の事を配慮すること、思慮。ここでは「配慮することなく」誉める意。 |
譽(ほまれ) | 評価、名声、称賛。 |
全きを求む | 完全性・理想を過度に要求すること。 |
毀(そしる) | 批判する、貶める。 |
易其言 | 発言を変える、言を翻すこと。 |
無責 | 責めを逃れる、批判されないようにすること。 |
全体の現代語訳(まとめ)
孟子は言う:
- 「思慮なく褒めると、無責任な評価となりうる。逆に、完璧さを求めすぎると、些細な欠点でさえ非難の対象となってしまう」
- 「人が言葉を変えるのは、多くの場合、批判を避けるためである」
解釈と現代的意義
1. 評価は慎重に行うべき
- 表面的な印象だけで褒めれば、誤解や過剰な期待を生む。
- 一方で完璧主義に陥れば、誰も満足させられず、無用な毀誉褒貶が生じる。
2. 言を変える人間の心理
- 発言を変える背景には、「責任を負いたくない」「叩かれたくない」という心情がある。
- これは人間の弱さでもあり、組織内での信頼構築の障害にもなる。
ビジネスにおける解釈と適用
● 無責任な賛辞は危険
- 「よくやった!」と気軽に言ってしまうと、真意が伝わらず混乱を招く。
- 評価には理由・根拠・文脈が必要。
● 完璧主義の罠
- 不備一点で全体を否定する「全否定型マネジメント」は、士気を下げるだけでなく、創造性の芽を摘む。
● 言動一致が信頼を生む
- 方針変更や発言の修正はやむを得ない場合もあるが、**「なぜ変えたか」**を説明することが信頼維持の鍵。
- 言動が一致しないリーダーは、やがて孤立する。
ビジネス用心得タイトル
「誉め過ぎは害、求め過ぎは毀──責任ある言葉が信頼を築く」
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