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善を貫くことが、未来をひらく道となる

― 困難の中でも、為政者は仁を選び、徳を積むのみ

文公が孟子に問うた。
「斉が、我が国の近くにある薛(せつ)を占領して城を築こうとしています。
私はこのことを大いに恐れています。どう対処すべきでしょうか?」

これに対し孟子は、かつて周の大王(文王の祖父)が直面した歴史を引き合いに出して答える。
大王は邠(ひん)という土地にいたが、蛮族の狄(てき)が侵入してきたため、やむなく岐山のふもとへ移った。
それは望んで選んだわけではなく、仕方なく退いた行動であった

しかし、その後、大王の子孫から周の文王、さらには武王という王者が現れることになる。
孟子はここで、目の前の不遇に左右されることなく、「善」を行うことの価値を説く。

「善を為していれば、必ず後の世に王者が現れる」

君子たる者は、今の世で功績を完成させようと焦るのではなく、
未来に続く善の系譜=“統”を垂れ、継がれる事業の基を創るべきである。
成功するかどうかは“天命”に委ねるほかない――
だからこそ、「君ができることは、ただひたすら善をなすことだけなのです」と孟子は断言する。


引用(ふりがな付き)

「文公(ぶんこう)問(と)うて曰(い)く、斉人(せいじん)将(まさ)に薛(せつ)に築(きず)かんとす。
吾(われ)甚(はなは)だ恐(おそ)る。之(これ)を如何(いかん)にせば則(すなわ)ち可(か)ならん。
孟子(もうし)対(こた)えて曰(い)く、昔者(むかし)大王(たいおう)邠(ひん)に居(お)る。狄人(てきじん)之(これ)を侵(おか)す。
去(さ)って岐山(きざん)の下(もと)に之(ゆ)きて居(お)る。択(えら)んで之(これ)を取(と)るに非(あら)ず。已(や)むことを得(え)ざればなり。
苟(たと)い善(ぜん)を為(な)さば、後世(こうせい)子孫(しそん)必(かなら)ず王者(おうじゃ)有(あ)らん。
君子(くんし)業(ぎょう)を創(はじ)め統(とう)を垂(た)れ、継(つ)ぐべきを為(な)す。
夫(そ)れ功(こう)の若(ごと)きは則(すなわ)ち天(てん)なり。
君(きみ)彼(か)を如何(いかん)せんや。彊(つと)めて善(ぜん)を為(な)さんのみ」


注釈

  • 薛(せつ)…文公の国の近隣にあったが、当時斉に奪われようとしていた土地。
  • 邠(ひん)…周の大王が最初にいた地。
  • 岐山(きざん)…その後、移り住んだ地であり、周王朝の起点となった場所。
  • 統を垂れ…事業の流れ(系統)を創り、後世に伝えること。
  • 彊めて(つとめて)…一生懸命に、全力で。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • do-good-regardless(善をなせ、たとえ報われなくとも)
  • virtue-over-victory(勝利よりも徳を)
  • sow-the-seed-of-goodness(善の種をまけ)

この章は、短期的な成果よりも、長期的な徳の積み重ねに重きを置く孟子の哲学を表しています。

1. 原文

文公問曰、齊人將築薛、吾甚懼、如之何則可。
孟子對曰、昔者大王居邠、狄人侵之、去之岐山之下居焉。非擇而取之、不得已也。
苟爲善、後世子孫必有王者矣。君子創業垂統、爲可繼也。若夫成功則天也。君如彼何哉。彊爲善而已矣。


2. 書き下し文

文公、問いて曰く、
「斉人、将に薛に築かんとす。吾甚だ懼る。之を如何にせば則ち可ならん。」

孟子、対えて曰く、
「昔、大王、邠に居り。狄人これを侵す。之を去りて岐山の下に居れり。
これを択びて取れるに非ず。已むを得ざるなり。

苟も善を為さば、後世の子孫、必ず王者有らん。
君子は業を創めて統を垂れ、継ぐべきを為す。

夫の成功の如きは、則ち天なり。君、彼を如何せんや。
彊めて善を為すのみ。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 文公:「斉人が薛の地に築城しようとしています。私は非常に不安です。どうすればよいでしょうか?」
  • 孟子:「昔、大王は邠という土地に住んでいましたが、狄人(異民族)に攻められたため、やむを得ず岐山のふもとに移住しました。
    これは場所を選んだわけではなく、仕方なく移ったのです。

もしもあなたが善を行うのであれば、後の世の子孫は必ずや王者となるでしょう。

君子たるものは、事業を創始し、後の者が受け継げるように道を残すべきです。
成功するかどうかは、天に委ねることです。

あなたにできるのは、ただひたすら善を行うことだけです。」


4. 用語解説

用語解説
築薛(ちくせつ)薛の地に城や拠点を築くこと。軍事的・政治的な脅威の暗示。
大王周の祖先・文王の父とされる古公亶父(ここうたんぽ)を指す。
邠(ひん)古公が住んでいた旧都。狄人の侵略により岐山へ移住。
苟(いやしく)も~ばもしも~であれば。条件節の始まり。
創業垂統事業を創めて(創業)、それを後代に継承させる(垂統)こと。
成功則天也成功できるかどうかは天命による。人の力ではどうにもならない部分。
彊(しい)て善を為す強いてでも善を行う、善を貫き通すという意味。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

文公が「斉人が薛に進出しようとしていて不安だ」と言うと、孟子はこう答えました:

「かつて周の先祖も侵略を受け、やむなく岐山の地へ移住しました。重要なのは場所ではありません。
もしも正しい政治、つまり“善”を貫けば、いずれあなたの子孫は王者となるでしょう。

君子がなすべきは、事業を起こし、その道を後世に伝えること。
成功するかどうかは“天”に任せるしかない。

あなたにできるのは、ただ“善を強いてでも行う”ことなのです。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「不安や恐怖に惑わされず、原理原則に立ち返れ」**という教訓を伝えています。

  • 環境の変化は制御できないが、行動の選択はできる
    斉が薛に築くことは止められないかもしれない。しかし、自らの行動(善政)を選ぶことは常に可能である。
  • 善の継続は未来への贈り物
    孟子は「たとえ今は不利な状況でも、善を積み重ねれば、後世に報われる」と説きます。
    一代で完結する目標ではなく、継続可能な価値を残すことこそが為政者の本分です。
  • 成功は結果ではなく、姿勢から始まる
    「結果がすべて」ではない。まず善を行う姿勢を持てば、成功は“天”が決める。これが儒教的リーダーシップの根幹です。

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「競合他社の動きに惑わされず、自社の“善”を貫け」

他社が近くに拠点を構える、価格を下げる、サービスを拡充する──外部環境の変化に恐れ、迎合するのではなく、
自社が本当に良いと思う価値(善)を顧客と共有し、継続することが信頼につながる。

✅ 「後継者や未来を意識した“継続可能な善”の経営を」

今だけの利益でなく、次の世代が誇りを持って引き継げるような企業文化や倫理の整備こそが、「垂統(すいとう)」すなわち持続可能な組織経営。

✅ 「リーダーに求められるのは“善の実行力”」

最も困難な状況でこそ、善を貫く胆力と覚悟が問われる。
それはマーケットよりも、社内外の“人の心”に響く行動。


8. ビジネス用の心得タイトル

「動揺せず、ただ“善”を守れ──恐れの時こそ、志を貫け」


この章句は、為政者やリーダーが不安に駆られたとき、何をよりどころにすべきかを明示する一節です。
時代や状況がどう変わろうとも、“善を行う”という一点の覚悟が、組織や社会に希望をもたらします。

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