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クレーム処理に万全を尽せ

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クレーム対応が生む信頼と失敗の教訓

昭和50年11月、豊橋市にある花田工務店の社長である花田氏と久しぶりに顔を合わせた。セミナー会場でこちらを見つけた花田氏は、足早に近づき、握手を求めてきた。話を聞けば、現在多くの受注を抱え、大変忙しい日々を送っているという。不況の中でそれほどの繁盛ぶりは驚くべきことだ。その理由を尋ねると、自社で手がけた建物に対し、徹底して責任を持つ姿勢が信頼を生み出しているとのことだった。

お客様からのクレーム対応には、社長自らが先頭に立って問題解決にあたるという。特に鉄筋コンクリートの建物における雨漏りは、修理が難しく手間のかかる厄介な問題だ。それでも、雨漏りが完全に止まるまで何度でも修理を繰り返す。その徹底した責任感と粘り強い姿勢が顧客の信頼を勝ち取り、新たな注文が次々と舞い込む理由となっている。

花田社長は私にこう語った。「一倉さん、私も社員も、我が社の繁栄に対して揺るぎない自信を持てるようになりました」と。

八王子市にあるオータカハウスは、木造建売住宅を専門に手がける会社だ。社長の荒井氏もまた、花田氏と同様に、自社の商品に対して最後まで責任を持つ姿勢を貫いている。クレームが発生すれば、社長自らがすぐに現場に駆けつけ対応するのが常だ。

この迅速な対応には、むしろお客様のほうが驚き、「まさかこんなに早く来てくれるとは思わなかった」と言われることも多いという。同社の建売住宅が新聞の折込広告だけで次々と売れていく背景には、単に良心的な商品づくりだけでなく、クレームに対する社長のこうした姿勢が大きく寄与しているのだろう。

L商事を訪問した際、売上の年間推移を確認すると、約1年前に売上が大きく落ち込んでいる時期があった。その理由について尋ねてみると、以下のような事情が明らかになった。

L商事は溶剤メーカーであるT化成の販売会社だ。そのL商事の最大の取引先であるD社からクレームが持ち込まれた際、T化成の社長は「問題の原因はD社側の使用方法にある」として一切の責任を否定し、突っぱねてしまったのだ。

当然のことながら、T化成の社長はD社への直接の訪問すらしなかった。この対応が決定打となり、L商事はD社から出入禁止を言い渡される事態に陥った。その結果、L商事の業績は一気に急落することとなった。

T化成もまた、今回の出来事で相当な打撃を受けたのは言うまでもない。しかし、もしT化成の社長がクレームが発生した時点で、速やかに自らD社を訪問し、まず「おわび」を述べた上で対応策を講じていたなら、事態はここまで深刻化しなかった可能性が高いだろう。

クレームというものは、その対応次第で会社の信用を失墜させることもあれば、逆に大きく向上させることもある。企業が「顧客あっての存在」である以上、顧客の満足を得ることが企業の本質的な役割だと言える。そして、クレームとは顧客の不満の表れである以上、その解決は他の何よりも優先して取り組むべき課題だ。クレーム対応こそが、企業と顧客との信頼関係を築き直す重要なチャンスでもあるのだ。

たとえクレームの原因が顧客側にあったとしても、それを指摘することに意味はない。むしろ、顧客の機嫌を損ね、場合によっては相手を怒らせて取引停止に追い込まれるリスクすらある。どのような事情があろうとも、顧客のミスや誤りを責めることは避けるべきだ。顧客との関係を守るためには、まず相手の立場に立ち、誠実に対応することが最優先である。

逆に、明らかに自社に非がある場合、弁解に走るのは最悪の選択だ。どれほど事情や原因を説明したところで、顧客の満足を得ることはできない。顧客が求めているのは、言い訳ではなく、クレームの迅速かつ確実な解決である。クレーム対応における正しい姿勢は、誠意ある謝罪と問題の早期解決だ。それ以外の行動や説明は無用であり、むしろ顧客の不信感を助長するだけである。

クレーム処理は企業の信用を守るための最重要課題であり、社長をはじめとする経営者の姿勢が大きく影響します。顧客の不満を誠実に受け止め、迅速に対応することが企業の成長につながります。以下、クレーム処理の重要なポイントをまとめます。

クレーム処理の基本姿勢

  1. 迅速な対応と誠実な謝罪
  • クレームが発生した際、まずは速やかに謝罪し、解決への行動を開始します。顧客が満足するまで対策を続ける姿勢が必要です。
  • 特に重大なクレームの場合は、社長自身が直接顧客に謝罪し、責任をもって解決にあたる姿勢が信頼構築に寄与します。
  1. 原因の追及よりも解決に注力
  • クレームの原因が顧客にある場合でも、それを責めるのではなく、まず解決に集中します。弁解や責任転嫁は顧客の不満を増幅させるだけです。
  1. 優先順位を高く設定
  • クレームは他の業務に優先して対応します。放置や後回しにすることで顧客の信頼を失いかねません。
  1. 損得を度外視した対応
  • クレーム対応に関わる費用は会社全体で負担し、目先の損失を考えずに顧客満足を最優先にします。事業部単位での費用負担にすると、適切な対処が取られなくなるリスクがあります。

社内での指導と方針

  • クレーム報告の徹底
  • クレームが発生した際には、速やかに上司や社長に報告する体制を整えます。報告しなかった場合のみ責任を問うことで、社員が安心して報告できる風土を作ります。
  • クレーム処理の手順よりも姿勢
  • 手続きとしてのクレーム処理規定があっても、顧客対応における誠実さや丁寧さを重視し、顧客に寄り添う姿勢を示します。

まとめ

クレームは顧客の不満であると同時に、企業の改善点を示す貴重なフィードバックです。社長自らがクレーム処理の姿勢を示し、迅速かつ誠実な対応を徹底することにより、顧客の信頼を確実なものとし、企業の成長を促進します。クレーム処理は、顧客満足の向上と企業の信用維持の要であることを忘れずに取り組むべきです。

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