部門別利益責任制とは、社長が自身の責任を棚上げし、それを社員に押し付ける仕組みだ。一方で、部門別利益目標は、社長が自身の責任を全うするために設定する、自らへの課題である。
社長が会社を存続させるために必要な利益を生み出す方法を模索するのは当然のことだ。そのためには「どうしたらいいか」を明確にする必要があるが、この問いに答える際、会社全体をひとまとめにして考えるのでは不十分だ。利益を最大化するには、必ず事業や部門を細分化し、それぞれを個別に検討する必要がある。
細分化は、商品別、地域別、部門別など、必要に応じて柔軟に行うものだ。その中の一つが部門別細分化であり、これはあくまで選択肢の一つにすぎない。部門別細分化が唯一の方法ではなく、状況や目的に応じて最適な切り口を選ぶ必要がある。
社長が「部門別に細分化して考える必要がある」と判断したのであれば、まず細分化を実行し、各部門ごとに具体的な目標を設定する必要がある。その上で、その目標を達成するための方針や戦略を明確にし、各部門が一丸となって取り組める環境を整えなければならない。
設定された目標とその達成に向けた方針は、経営計画書に明記されるべきだ。そして、経営計画発表会をはじめとするあらゆる場を活用して繰り返し伝え、従業員全体への浸透を図らなければならない。これによって、組織全体が同じ方向を向き、目標達成に向けた一体感を高めることが求められる。
この場合、「目標に対する最終的な責任は社長ただ一人にある」という事実を、社長自身が深く認識するだけでなく、社員にも明確に理解させる必要がある。一方で、社員の責任は何かと言えば、それは「設定された方針を忠実に実行し、さらに積極的に推進すること」にある。社長が全体の舵を取る中で、社員はその指針に基づき行動し、目標達成のために全力を尽くすことが求められる。
したがって、社員は目標が達成されなかった場合、その責任を直接負う必要はない。ただし、方針を実施しなかった場合、その責任は厳しく問われることになる。これこそが組織運営における正しい在り方だろう。この考え方を革新的だと感じる人もいるかもしれないが、実際には革命的でもなければ、特別ユニークでもない。むしろ、極めて当然のことだといえる。蛇足ながら、この「当たり前」の内容を改めて説明しておこう。
会社が倒産した場合、責任を負うのは誰か。それは社長ただ一人である。文字通り、全責任が社長一人に集中するのであり、副社長や専務でさえその責任を問われることはほとんどない。ましてや、社員が責任を負うことなど初めから全く存在しないのが現実である。この事実が示す通り、最終的な責任は常にトップにあるというのが企業経営の本質だ。
社長は、自身の責任を全うするために、自らの意思で目標を設定し、それを達成するための方針を打ち出す。その一方で、社員は社長が設定した目標を理解し、その方針を深く受け止め、常に方針に基づいた行動をとることが求められる。方針に反する行動は決して許されない。それが組織全体の一致団結と目標達成のための基本原則である。
社員が方針に従った行動をとり続ける限り、目標が達成されるか否か、会社が赤字になるか、あるいは倒産するかに関して、社員には一切の責任はない。結果が悪い場合、その原因は方針そのものにあり、方針を打ち出した社長がその全責任を負うことになる。これは経営の基本的な原則であり、組織のトップが担うべき当然の役割である。
以上が、社員には目標達成責任はなく、方針実施責任を負うという考え方の説明である。この極めて当たり前のことが、現実には歪められ、本来の姿を失っていることが多い。それゆえに、当たり前の原則が守られない会社では、業績が上がらないのも当然の結果と言える。正しい責任の所在を明確にし、それに基づいて行動することが、会社の成長と成功につながる唯一の道である。
社長が結果に対する全責任を負い、社員には方針の実施責任のみを担わせている会社は、方向性さえ正しければ必ず優れた業績を上げることができる。このことは、私が関わっている多くの会社で実際に証明されている。責任の所在を明確にし、それぞれが自分の役割を全うする仕組みが、成功への確かな基盤を築くのである。
こうした会社では、個人ごとの販売ノルマが存在しないのは言うまでもない。実際、販売ノルマを撤廃した会社では、例外なく売上が上昇している。たとえば、I社長は「販売ノルマは諸悪の根源だ」と私に断言していた。ノルマに縛られることで社員の自由な発想や主体的な行動が阻害される一方、ノルマを外すことで社員のやる気や創意工夫が引き出され、結果として業績向上につながるのだ。
多くの会社で、社長が明確な目標や方針を打ち出せない理由は主に二つある。第一に、社長が外部との接点を持たず、お客様のニーズや同業他社の動きをほとんど把握していないこと。第二に、自ら経営計画書を作成していないため、自分の会社の現状や課題すら正確に把握できていないこと。このように、外部の情報も内部の状況も理解していなければ、適切な目標の設定や効果的な方針を打ち出すことなど到底できるはずがない。
目標も方針もない経営、いわゆる無目標・無方針経営に陥らざるを得ない状況では、社長自身も不安と迷いの中に身を置き、実際のところ何をすればよいのか分からない状態に陥る。そのような社長にとって、部門利益責任制は一種の「救いの神」と映る思想だ。それがまるで経営上の万能薬のように見え、非常に魅力的で素晴らしいものだと錯覚してしまうのである。
「部門のことは、その部門の担当者が社長より詳しいのだから、彼らに利益責任を持たせ、それを実現させるのが最善だ。人は責任を与えられると、それを果たそうとするものだ」というもっともらしい説明に、社長が深く考えずに飛びついてしまうことがある。しかし、これこそ重大な誤りだ。責任の本質や全体の統制を軽視し、このような理屈に頼ることで、かえって経営全体の方向性を見失う危険が生まれるのである。
私が社長学シリーズで何度も強調しているように、事業とは市場を相手にした活動である。市場にはお客様が存在し、競争相手もいる。つまり、事業の本質は会社の外部で展開される活動にあるのであって、内部の活動に重点を置くものではない。内部の効率化や仕組み作りは重要だが、それは市場での活動を成功させるための手段にすぎない。本来の焦点は常に外部に向けられているべきなのだ。
当然ながら、市場の状況を社長が正確に把握していなければ、正しい事業経営は成り立たない。そして、その市場の状況を社員の報告だけに頼って知ろうとするのは不可能である。このことも、私が繰り返し述べてきた通りだ。社長自身が直接市場に触れ、お客様の声を聞き、競合の動きを観察することで初めて、正しい経営判断を下すための確かな情報が得られる。市場の現実から目を背けた経営が成功することはあり得ないのだ。
市場の状況を把握するには、社長自身が自ら外に出向き、自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の肌で感じ取る以外に方法はない。この点については、私の助言で実際に行動を起こした多くの社長たちが、自らの体験を通じて実感し、私にその効果を語ってくれている。机上の報告や他人の言葉だけでは決して得られないリアルな情報が、現場に足を運ぶことで初めて手に入る。それこそが正しい経営の出発点である。
社長が外に出て、実際に市場や現場を自分の目で確かめたとき、真っ先に気づくのは、社員からの情報がいかに真実を正確に伝えていないか、そして多くが次元の低い内容に留まっているかという点である。社員の報告は、主観や限られた視点に基づいていることが多く、現場の本質や全体像を捉えるには不十分だ。社長が自ら行動することで初めて、本物の情報が手に入り、それを基にした的確な判断が可能になるのである。
同時に、社長が自ら市場の状況を把握した場合、その情報を基に「我が社はどうすべきか」を決定することは、実はそれほど難しいことではない。現場のリアルなデータや自分自身の体験があれば、適切な方針や戦略は自然と見えてくる。外部の実態を正しく理解していれば、判断は論理的かつ明快になり、迷いや不安を排除した的確な意思決定が可能となるのである。
さらに、社長自身が市場を知ることで、「部門のことは部門の人々が一番よく知っている」という主張が誤りであることに気づくはずだ。部門の自由な意思に基づいて事業を経営するなどという考えは論外であり、部門目標も部門方針も社長自らが設定しなければならない。これを痛感したとき、初めて事業経営は本物の形を取り、真の成果を期待できる体制が整う。トップが全体を見渡し、責任を持って指針を示すことが、成功への必須条件である。
「部門別利益目標」とは、会社の利益責任を社長が負い、部門ごとの目標を社長が管理するという考え方です。社長が会社の業績に全責任を負い、社員には具体的な「方針の実施」を任せることで、組織全体が効果的に機能します。
社長の責任と社員の役割
社長は、会社が達成すべき利益目標を設定し、その目標に基づいて経営方針を策定します。その方針は、経営計画書などで明確にされ、社内に共有される必要があります。このように、目標達成の責任は社長にあり、社員にはその方針を実行する責任が求められます。
例えば、ある企業が売上目標を達成できなかった場合、その原因が社員にあるのではなく、適切な方針や市場分析を行わなかった社長にあるとされます。社員が責任を負うのは、方針に従って行動しなかった場合に限られるため、社員の働きは目標の実現に集中しやすくなります。
社長の市場認識の重要性
部門利益責任制は、社長が「事業活動は市場に向けて行うべき」という基本を忘れている場合に導入されやすい考えです。実際、社長が市場を正しく理解せずに部門利益責任制に依存すると、会社全体の方向性が失われ、利益達成が難しくなります。
社長が外に出て市場の実情を把握することで、社員からの報告だけでは得られない重要な情報が得られます。こうした実感から、社長は部門ごとの目標や方針を具体的に策定しやすくなり、事業の成果に直結する戦略を打ち出せます。
結論
部門利益目標は社長自身が管理すべきものであり、社長は会社の全責任を負い、社員には方針実施を委ねます。この構造により、企業は市場状況に即した適切な戦略を持ち、組織全体が同じ方向に向かって進むことが可能になります。
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