流通業者との関係構築とマージンの設定
流通業者の役割とマージン設定の重要性
流通業者は、商品を市場に届け、消費者に浸透させるうえで欠かせないパートナーである。その活動には仕入れ、保管、配送、販売促進、帳簿管理など多岐にわたる業務が含まれ、それに応じた適切なマージンがなければ、流通業者のモチベーションが低下し、商品の普及に悪影響を及ぼす。
一方で、マージンを過剰に設定すると商品の価格が高騰し、競争力を失うリスクがある。そのため、メーカーは流通業者の利益と市場競争力のバランスを取る価格政策を立案する必要がある。
過小マージンのリスク
1. 流通業者のモチベーション低下
流通業者が十分な利益を得られなければ、商品を積極的に販売する意欲が低下する。例えば、N社の担当者が語る通り、わずか3%のマージンでは「ばかばかしくて扱いたくない」という状態に陥る。
2. 流通網の弱体化
マージンが低いため、流通業者が販促活動や配送に力を入れられなくなる。結果として、商品の市場浸透が妨げられる。
3. ブランドイメージの悪化
適切な収益が得られない流通業者が商品に対する熱意を失うことで、消費者への訴求力が低下し、ブランドイメージにも悪影響が出る。
具体例:T電機の価格戦略の失敗
T電機が電卓市場に参入した際、競合のシャープ製品よりも価格を大幅に下げて参入した。しかし、この価格政策には重大な欠陥があった。
- 流通業者の利益確保を軽視
- シャープの高価格商品は、流通業者にとってマージンが大きく利益が高い。
- 対照的に、T電機の低価格商品は流通業者の利益を圧迫し、販売意欲を削ぐ結果となった。
- 市場価値の過小評価
- 安価な製品はしばしば品質や信頼性に疑問を抱かれる。T電機の商品も例外ではなく、消費者や流通業者の信頼を得られなかった。
- 流通業者との信頼関係の欠如
- 流通業者がT電機の製品ではなく、シャープの製品に注力したのは、利益面で明らかな格差があったためだ。
適正マージン設定の重要性
1. 流通業者の利益確保
適正なマージン率を設定することで、流通業者が利益を確保し、販売活動や配送に積極的に取り組む動機を高める。マージン率の設定は流通業者の実労働(配送、保管、販促など)に見合うものでなければならない。
2. 全体の流通網の維持
特に菓子問屋や小売業者を支える場合、大企業のような効率的な流通網を補完する形で、細かい市場への商品浸透を支える役割が期待される。そのためには問屋が持続可能な収益を得られる仕組みが必要だ。
3. メーカーの利益確保と市場競争力のバランス
高すぎるマージンは商品の価格競争力を失わせるが、低すぎるマージンは流通業者の協力を得られない。適正な価格設定と利益配分を通じて、双方にメリットをもたらすことが求められる。
成功事例から学ぶ:共存共栄の仕組み
シャープの戦略
シャープは流通業者に十分な利益を与えることで、販売活動の中心に自社商品を置かせた。この結果、流通業者の推奨を得て市場での優位性を確保した。
長府製作所の高マージン戦略
長府製作所は特約店に高マージンを提供することで、彼らにアフターサービスを任せると同時に、販売活動を積極的に展開させた。この仕組みが流通網を活性化させ、競争市場での優位性を築く鍵となった。
適正な価格政策とマージン設定のポイント
- 流通業者の負担を正確に把握
- 保管、配送、掛売りなど、流通業者のコストを詳細に分析し、それに見合ったマージンを設定する。
- 利益配分の再検討
- 単に帳合だけの「ペーパー・マージン」ではなく、実労働に見合った収益を保証する。
- パートナーシップの強化
- 流通業者を単なる中間業者として扱わず、信頼できるビジネスパートナーとして位置づける。
- 販売活動の支援
- マージンだけでなく、販促活動や教育支援を通じて、流通業者の成功をサポートする。
- 小売価格の適正化
- 安価すぎる価格設定は、消費者に対する製品価値の低下を招く。ブランド価値を反映した価格を設定し、小売店が値引きしても利益を得られる仕組みを作る。
結論:共存共栄による流通戦略の再構築
流通業者にとって適正なマージン設定は、単なる利益配分ではなく、販売活動の活性化と市場での成功に直結する重要な要素である。T電機やK製菓の失敗例からも分かる通り、流通業者のモチベーションを無視した価格政策は、長期的に市場での信頼を失うリスクを伴う。
成功する流通戦略の鍵は、メーカーと流通業者が共存共栄の関係を築き、パートナーシップを強化することにある。適正なマージン率の設定と流通全体の支援を通じて、流通業者が積極的に商品を推奨し、消費者に届ける仕組みを作ることが、持続可能なビジネスの基盤となる。
コメント