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■引用原文
唯天下至聖、為能聡明叡知、足以有臨也、寛裕温柔、足以有容也、
発強剛毅、足以有執也、斉荘中正、足以有敬也、文理密察、足以有別也、
溥博淵泉、而時出之、溥博如天、淵泉如淵、
見而民莫不敬、言而民莫不信、行而民莫不説、
是以声名洋乎中国、施及蛮貊、
舟車所至、人力所通、天之所覆、地之所載、
日月所照、霜露所隊、凡有血気者、莫不尊親、故曰配天。
■逐語訳
- 唯一、天下における至高の聖人のみが、
耳がよく目が鋭く、深い叡知を備えて、人々を治めることができ、
寛大で温和で柔軟にして、人々を包容することができ、
積極的で剛毅にして、信念を貫きとおすことができ、
厳粛で中正な態度にして、人々の敬意を集めることができ、
条理に富み緻密に観察する力により、是非を見分けることができる。 - その徳は、広く深く、まるで天のように博く、淵のように深く、
必要なときに適切に発揮される。 - 一たび姿を見れば民は皆これを敬い、
言葉を聞けば民は皆これを信じ、
行動を見れば民は皆これを喜ぶ。 - よってその名声は中華に満ち、
蛮貊の国々にまで広がる。 - 舟や車が届くところ、人の力が及ぶところ、
天の覆うところ、大地の支えるところ、
太陽・月の照らすところ、霜・露の落ちるところ――
すべて血気ある者で、これを尊び親しまぬ者はいない。 - それゆえ、「天に配す」と称されるのである。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
聡明叡知 | 外面的な知覚(耳・目)と、内面的な洞察・知識。智の極致。 |
寛裕温柔 | おおらかで包容力があり、かつ柔軟でやさしい。仁に通ず。 |
発強剛毅 | 積極性と芯の強さ。勇の体現。 |
斉荘中正 | 謹厳で厳粛、偏りのない態度。礼の基本姿勢。 |
文理密察 | 秩序と条理に従いながら、緻密に物事を観察する。義に近い。 |
溥博・淵泉 | 「溥博」は天のように広大無辺、「淵泉」は深淵な知恵や精神の奥行き。 |
配天 | 天に並ぶほどの徳を持つ者を意味する尊称。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
ただこの世で最もすぐれた聖人だけが、
すぐれた知識と深い洞察をそなえ、
寛大で温和な心を持ち、
強く正しく信念を保ち、
厳粛で中庸な態度をとり、
物事を細かく見分けられる判断力を備える。
その徳はまるで天のように広く、淵のように深い。
そして、それは必要なときに自然と発揮される。
民はその姿を見れば尊敬し、
言葉を聞けば信頼し、
行動を見れば喜んで従う。
こうしてその名声は天下に広がり、
文明の中心である中国のみならず、
未開とされた辺境の地にまで届く。
人の往来や自然の限界を超えて、
あらゆる生き物がこの聖人を敬い親しむのである。
だからこそ、その徳は「天に並ぶ」と言われるのだ。
■解釈と現代的意義
観点 | 解釈 |
---|---|
理想のリーダー像 | 知・仁・勇・礼・義の五徳を備えた全人格的リーダー。 |
徳治の極致 | 民衆の信頼・敬意・満足が、徳そのものの証しとなる。 |
静かなる力とタイミング | 常に発揮せず「時に応じて出す」ことの重要性=状況対応力。 |
普遍的な感化力 | 地理・文化・言語を越えた「感化力」は、世界を超える影響力の証し。 |
■ビジネス応用と心得ポイント
- 「時に応じて出す」=タイミング力を鍛えよ
→ 常に前に出るのではなく、最適なタイミングで影響力を発揮するのが上策。 - チームにおける五徳を見直せ
→ リーダーが知(洞察)、仁(配慮)、勇(決断)、礼(尊重)、義(筋を通す)を兼ね備えることで、全体の信頼と共鳴を得る。 - 感化の力=自らを律することから始まる
→ 尊敬・信頼・共感は、自らの品格と行動の一貫性によって生まれる。
■心得一句(まとめ)
「徳は声となりて、海を越える」
――見られ、語られ、行われた徳は、時を越え、人心に響き渡る。
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