■ 引用原文(『ダンマパダ』第八章「ことば」第十偈)
口をつつしみ、ゆっくりと語り、
心が浮わつかないで、
事がらと真理とを説く修行僧――
かれの説くところはやさしく甘美である。
■ 逐語訳
- 口をつつしみ:むやみに語らず、慎みと敬意をもって言葉を選ぶこと。
- ゆっくりと語り:早口でまくし立てるのではなく、落ち着きと配慮を込めた話し方をする。
- 心が浮わつかないで:軽薄さや動揺がなく、落ち着いた集中した心であること。
- 事がらと真理とを説く:単なる雑談ではなく、内容のある事実や真理(ダルマ)を語る。
- やさしく甘美である:その語りは、聞く者の心にやわらかく響き、徳と安らぎをもたらす。
■ 用語解説
- つつしみ(慎み):仏教において、語ること自体を制御することは、五戒の「正語」に通じる修行。
- ゆっくりと語る(サンニャータ・ヴァチャ):語気や速度に落ち着きがあり、相手に安心感を与える語り方。
- 浮わつき(サンキーネッサ):心の不安定さ。真理を説く者には欠かせない「静寂な心」の対極。
- 甘美(マドゥラ):単に「甘い」ではなく、「心に染みわたる善き響き」を意味する。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
言葉を慎み、急がず丁寧に語り、心が静かで安定している者――
そのような修行者が語ることは、真理に基づいていて、聞く人の心にやさしく響き、甘美である。
話す内容だけでなく、「どのように語るか」が人の心を動かすという真理がここに示されている。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、「話し方=人格」という仏教の深い洞察を表しています。
現代でも、「声が穏やかで、言葉に慎みがあり、内容に真実がある人の話」は、多くの人の心に届き、信頼と共感を生みます。
逆に、どんなに正しいことを語っていても、話し方が強圧的でせっかちであれば、心に届かず、反発を生むこともあります。
仏教が語る「言葉の甘美さ」とは、内容 × 態度 × 心の静けさの総和によって成立するものであり、
そこに人としての成熟が現れるのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
プレゼン・説明 | ゆっくり、的確に、落ち着いて語ることで、説得力と安心感が高まる。 |
顧客対応 | トラブル時でも、感情的にならず穏やかな語りを心がければ、信頼が回復しやすくなる。 |
リーダーシップ | 話し方ひとつで、チームの空気を和らげたり、安心感を与えることができる。 |
面談・対話 | 相手の反応に焦らず、間を取りながら語ることで、深い信頼関係が築ける。 |
■ 心得まとめ
「語りの中に心の静けさを宿せ。沈黙の徳が、ことばに光を与える」
仏陀は「何を語るか」だけでなく、「どう語るか」によって、人の言葉は香るとも毒ともなることを教えました。
ビジネスの場においても、情報の伝達よりも大切なのは、相手の心に届く話し方。
慎み、静けさ、誠実さをもって語る人こそが、時にひとことの中に、大きな影響力と信頼を宿すのです。
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