筆者が訪れる企業の中で、経営計画を策定しているところはごくわずかだ。それに加えて、市場戦略を構築し、シェア目標を設定している企業となると、さらに稀少と言える。
どうやら、多くの経営者たちは、企業の存続に直結するような経営計画や市場戦略にはあまり関心を示さず、むしろ日常業務の繰り返しといった低次元の課題にばかり興味を注ぐ傾向があるようだ。
「市場戦略などなくてもこれまでやってこれたし、今も問題なくやれている」という反論があるかもしれない。しかし、高度成長期には市場そのものが拡大していたため、特段の努力をしなくても自然と成長できただけの話だ。現在も続けられているのは、どの企業も同じく無戦略のまま惰性で動いているに過ぎないからにほかならない。
これからの時代、市場の成長は緩やかになり、いつ強力な競合が参入してくるか予測がつかない状況になるだろう。いずれにしても、市場シェアを巡る競争が激化していくことは避けられない。
そのシェア争いに生き残るためには、市場戦略を立てることが不可欠だ。「今までやれてきたから」ではなく、「これから生き残るために」市場戦略は絶対に必要なものとなる。
現在、どの業界を見ても、市場戦略を持つ企業はごく一部の例外に過ぎない。多くの企業は、自分たちがどの市場に属しているのかを把握せず、競合相手の実態も知らないまま、ただ競争意識だけで無秩序にぶつかり合っている。結果として、何がどうなっているのかさえ分からないまま、無我夢中で「闇仕合」を繰り広げている状態に過ぎない。
そんな業界に明確な市場戦略を持つ企業が現れたらどうなるだろうか。もともと大手の企業であれば、瞬く間に競合を打ち負かし、業界の覇権を握るだろう。一方、後発の小規模企業であっても、的確な戦略を武器に急速に追い上げ、先行する企業を次々と「ごぼう抜き」していくことが十分に可能だ。
経営者として、自ら得意先を訪問して収集した情報に加え、社員たちの活動を通じて得られる情報を統合し、状況を深く分析する必要がある。その上で、自らのビジョンを実現するための「市場戦略」を、自らの意思と責任で決定すべきだ。そして、その戦略に基づいて社員を最適な戦闘配置につけ、自らが指揮を執る姿勢が求められる。
社員の自由意思による行動は、社長が定めた市場戦略の方針の枠内でのみ許容されるべきである。この基本を忘れてはならない。方針から逸脱した行動や、無制限な自由意思による行動は、市場戦略の遂行を妨げる重大な障害となり得る。そのため、社員に対して市場戦略の重要性と、その方針に従うことの意義を丁寧に説明し、納得させることが不可欠だ。
川中島の戦では、信玄の指令を無視し、血気にはやった勝頼が独断で行動した結果、武田軍は大きな苦境に陥った。この混乱を収拾するために、伊那衆が捨て身の奮戦を強いられ、多大な犠牲を払った末にようやく陣形を立て直すことができたのである。
孔明の指令を無視し、自らの豪勇を過信した馬謖は、仲達軍の猛攻に敗北し、孔明の中原攻略作戦を大きく狂わせた。その結果、孔明はやむを得ず「泣いて馬謖を斬る」という悲劇的な決断を下すことになったのである。
戦争においては、隠密行動や陽動作戦を駆使し、状況に応じて機を捉え、変化に柔軟に対応しながら戦術を巧みに展開してこそ、勝利を掴むことができるのである。
これらの行動はすべて、大将の「采配」によって初めて成り立つものである。しかし、多くの企業では、この「采配」という概念が十分に理解されていない。それは、企業活動を「戦争」として認識する意識が希薄であることに起因しているのは間違いない事実だ。
戦いとは、大将の唯一無二の意思によって統率されるものであり、各武将が自由意思で勝手に動いてはならない。もしそれぞれが自分勝手に行動することを許せば、たちまち戦局は混乱し、組織は支離滅裂となり、敗北を余儀なくされることは避けられない。
市場戦略を社長自ら立てることの重要性
背景と問題
多くの企業では、市場戦略を明確に立てているところが少なく、経営計画も不十分なまま、日々の業務に追われています。これまで成長市場に頼ってきたため、市場戦略なしでも成長が可能だった時代がありました。しかし、市場の拡大が鈍化し、競争が激化する現在、明確な戦略なしには生き残りが難しくなっています。
市場戦略の必要性
社長自身が市場戦略を立案することは、企業の存続と成長にとって必須です。市場戦略を持つことで、自社の立ち位置や競争相手を正確に把握でき、無計画な競争を避け、効果的な市場占有率の向上を図ることができます。市場戦略を持つ企業は、競争優位を築き、後発でも急速な追い上げが可能です。
社長の役割
社長は市場の情報を自ら収集し、社員からのフィードバックも含めて戦略を立てる責任があります。戦略が決まれば、社員はその方針の下で行動しなければならず、自由意思による行動がかえって戦略の妨げになることも説明して納得させる必要があります。例えば、戦国武将の指令を無視した行動が組織の崩壊を招いた逸話のように、企業でも社長の戦略から逸脱した行動は致命的です。
市場戦略の基本方針
- 市場細分化と集中投入
市場を細分化し、それぞれの市場で占有率を高めることが基本です。広範囲な戦略よりも、細分化された市場に集中することで、効率的な資源投入が可能です。 - 戦力の集中(ランチェスター理論)
ランチェスター理論に基づき、競合を上回る戦力を投入することが勝利への近道です。戦力を分散させず、特定の市場に集中させることで、優位性を築きやすくなります。 - 「蛇口作戦」による定期巡回
蛇口作戦とは、定期的に顧客を訪問し、単なる売り込みではなく、顧客を確保することを重視した作戦です。訪問頻度を高めることで、顧客の信頼と関係性を深めることができます。 - 敵の戦法を冷静に分析し弱点を攻める
競合の戦略に慌てることなく、冷静にその実態と弱点を見極め、効率的に対応することが重要です。無理に対抗するのではなく、競合の隙を突く戦略を取ることで、効果的に市場シェアを拡大できます。
まとめ
- 市場戦略の意義: 市場占有率を維持・向上するために不可欠である。
- 細分化と集中: 広範囲ではなく、細分化された市場への戦略的集中が成功の鍵。
- 蛇口作戦の徹底: 定期訪問を繰り返し、顧客との信頼関係を深める。
- 競合の分析と対応: 慌てずに競合の弱点を見つけ、効果的な戦略を講じる。
社長自らが市場戦略を立案し、指揮することで、企業全体の方向性が明確になり、持続的な成長と競争優位の確保が可能になります。
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