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外注は高いか安いか

製造業において、内製と外注の選択は重要なテーマだ。よく耳にするのは「外注の方がコストを抑えられる」という意見だ。その背景には、「外注先の人件費が低く、管理費などの諸経費も自社と比較してはるかに安い」という考えがある。

しかし、「外注のほうが安い」と単純に結論づけてしまうのは疑問が残る。〈第14表〉の例題を見てほしい。ここでは、ある製品を製造する際の内製と外注における1単位あたりの原価を比較している。

この例を見ると、材料費に関しては外注工場のほうが高いものの、その他の費用は大幅に低い。さらに、外注では4円の利益を含めても単価が68円に抑えられている。一方で、内製では利益を含めない正味原価の時点で既に78円に達している状況だ。

さらに、この見積もりの条件は「注」に記されているが、この計算書をどこまで信用できるのかが問題だ。実際のところ、内製のほうがコストを抑えられるケースもある。その理由については、以下で詳しく説明する。

ここで、「変わるもの」と「変わらないもの」を整理してみる。まず、外注工場の見積りについては、値引き交渉で相手が合意しない限り、コストは基本的に変わらない。一方で、内製の場合は変動の余地がある要素がいくつか存在する。具体的には以下の三点だ。

  1. 原材料費:新たに必要となるため増加する。
  2. 新規採用者の人件費:この仕事を進めるために新たに雇用した人員の人件費が増える。
  3. 固有固定費:この仕事のために特別に必要となる固定費が増える。

これらが内製を選択した場合に影響を受ける主な項目となる。

その他の要素は変動しない。これを計算で示したのが〈第15表〉だ。この表では、内製により増加するコストの総額が58万円となっており、外注コストの68万円と比較して10万円も安くなることが明らかになっている。

固定費を割り掛けた計算だけを根拠に「内製は高い」と判断し、外注を選択しているケースは少なくない。特に問題なのは、正しい計算を行わず、結果として社内の設備や人員を遊ばせてしまうような、全く的外れな選択をしている例さえ存在するという点だ。このような判断ミスは、経営資源の無駄遣いを招きかねない。

次に考えるべきは、「損益分岐点が何個になるか」という点だ。損益分岐点とは、内製によって発生する固定費の増加額と、内製により節約できる外注費が一致する生産数量のことを指す。〈第15表〉の②に示されている計算式を用いると、その損益分岐点は約4,400個となる。この数量を基準に、内製か外注かの選択が判断されるべきだ。

ここで重要な点として、これはあくまで「どちらが高いか」を経理的に計算した結果に過ぎないということだ。経理的なコスト比較で安い方を選び、「安い方が有利だ」と単純に結論づけるのは早計だ。この判断に際しては、経理面以外の要素、例えば品質管理、供給の安定性、長期的な経営戦略との整合性なども慎重に考慮する必要がある。

事業経営というものは、単純に個々の計算で「安い方が良い」と決められるほど簡単なものではない。「我が社の事業構造をどうするか」という問いに答えるには、業界動向、商品特性、販売エリア、流通戦略といった外部環境だけでなく、商品の供給体制をどう構築するかという内部の構造的な課題にも向き合わなければならない。経理的なコスト計算は一要素に過ぎず、全体像を見据えた判断が必要だ。

内部構造としての商品供給体制を検討する際、「内製か外注か」という選択は非常に重要な問題だ。供給を円滑に維持するだけでなく、外部環境の変化に柔軟に対応できる仕組みを整える必要がある。そのためには、短期的なコスト削減だけを目的とせず、長期的な視点で自社の方針を慎重に決定することが求められる。

特に、外部環境の変化に対応する観点から、「設備を持たないメーカー」という考え方は非常に重要だ。このアプローチは、経営戦略の柔軟性を高め、変化の激しい市場環境でも迅速に対応できる体制を整えることを目指している。私が「経営戦略篇(三二七ページ)」で述べたこの理念は、固定資産への依存を減らし、資源をより柔軟に活用するという点で、現代の事業運営において大きな示唆を与えるものだ。

この点は、石油ショック以後の長期不況(あるいは私が主張する「永久不況」)を経験した状況からも明らかだ。この期間、多くの企業が抱える大量の設備が大きな負担となり、固定費の増大や資金繰りの悪化を引き起こしている例が少なくない。設備に依存しない経営モデルを構築することが、こうした不況時代における柔軟かつ持続可能な戦略として重要であることを示している。

単に「外注が安いから外注にする」や「内製が安いから内製にする」、さらには「外注費を節減するために内製に切り替える」といった目先の理由だけで安易に決定するべきではない。こうした短絡的な判断は、長期的な視点や戦略的な観点を欠き、結果的に事業全体の安定性や成長性を損なう可能性がある。コスト面だけでなく、供給の柔軟性、品質の維持、企業競争力への影響を総合的に考慮する必要がある。

明確な自社の方針を設定し、長期的な視点に基づいて「内製と外注をどう位置づけるか」を判断しなければならない。その決定は、単なるコスト比較や短期的な効率性だけでなく、企業の将来像や競争力、外部環境の変化に対応する柔軟性を含めた総合的な視点から行うべきだ。戦略的な判断が事業の安定と成長を支える鍵となる。

内製と外注のコスト判断:経理的計算と経営判断の違い

製造業では、内製するか外注するかが収益に直結する重要な決断だ。「外注のほうが安い」と言われることが多いものの、単純な経理的計算で外注を選ぶことは、事業の本質的な問題を見落とすことにつながる。以下、内製と外注のコスト判断と経営的視点について詳しく説明する。

経理的なコスト計算:変わるものと変わらないもの

外注か内製かを経理的に判断する際、まず「変わるもの(増加する費用)」と「変わらないもの(既存の固定費)」を区別することが重要だ。例題における計算のポイントは次の通りである:

  1. 外注工場の見積りは固定で変わらない
    外注費が固定で変わらないとすると、内製にかかる増加費用のみを考えるべきである。
  2. 内製によって変わる費用を計算する
    内製することで増加するのは次の三つの費用のみ:
  • 原材料費:新たに必要な材料費。
  • 新規採用者の人件費:この仕事のために新たにかかる人件費。
  • 固有の固定費:内製のために追加で発生する固有の固定費(設備の追加費用など)。

これらの増加費用を計算すると、内製の総コストは外注よりも10万円安くなるため、単純な経理的計算では「内製の方が安い」と判断される。

損益分岐点の計算

内製が外注よりも安くなる生産量(損益分岐点)を求めるには、内製の追加固定費と外注費用の差が同額になる点を計算する。例題では、4,400個以上生産する場合に内製が外注よりも経済的となる。この損益分岐点を基に、どちらが適切かを計算できるが、経理的に安いからといって即決するのは避けるべきである。

経営的視点:短期的なコスト判断を超えて

内製か外注かの判断は、単なるコスト比較ではなく、長期的な経営戦略や企業の供給体制、リスク管理の観点を含めた総合的な視点が求められる。重要なポイントは以下の通り:

  1. 供給体制の安定性とリスク対応
    自社の供給体制が内製によって安定化するのであれば、外注に依存するリスクを回避できる。たとえば、外部情勢の変化や外注先の稼働状況によって供給に支障が出る可能性がある場合、内製の方針を検討する価値がある。
  2. 長期的な経営戦略
    石油ショックや不況などの経済情勢の変化に備え、「設備を持たないメーカー」という柔軟な戦略も重要だ。内製を選ぶことで短期的なコストは下げられても、過剰設備や余剰人員が長期的に経営の負担になる可能性がある。
  3. 明確な方針と一貫性
    「安いから外注」「安いから内製」という一時的な判断ではなく、企業の長期的な発展を見据えた明確な方針が重要である。内製・外注の判断は、単なるコスト削減ではなく、事業構造の一部として長期的な目線で決定すべきである。

結論

外注が安いからといって安易に外注を選択せず、内製と外注のどちらが事業構造の安定化やリスク回避に寄与するかを考慮することが重要だ。内製・外注の判断には、企業の供給体制や長期的な経営戦略を考慮し、変わるものと変わらないものを見極めることで、短期的なコスト以上のメリットを見込める判断を行うべきである。

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