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商品価格の決定

前節で取り上げた商品価格の基礎計算の方法とその考え方は、あくまで出発点に過ぎない。この計算結果をそのまま商品価格として採用するのは浅はかな判断と言える。

ある建築金具メーカーが自動機を導入し、コスト削減を図ったうえで、市場価格の3割引で製品を売り出した。おそらく原価計算をもとに採算が取れると判断した結果だろうが、実に愚かな行動だ。いくら価格を下げても、売上の上限は設備の処理能力によって制約されるのだから。

売れるからといって設備を増強しようとしても、市場価格の3割引では得られる収益はたかが知れている。その程度の収益では、新たな設備投資に必要な資金の確保は困難だろう。そもそも、3割引にしなくても、1割から1割5分程度の値下げで十分に売れるはずだ。収益をしっかり確保してこそ、次の戦略を打つ際にその資金力が活きてくるというものだ。これでは何の工夫も感じられない、実に浅はかな話である。

商品価格には、建値、実勢価格、戦略価格といった多様な種類が存在し、さらに流通業者の格によって価格に段階を設ける必要がある。これらの価格設定は、その時々の市場情勢を見極めながら、最適なバランスを見つけて決定しなければならない。価格設定の巧拙は、我が社の業績に大きな影響を与えるだけでなく、信用にも直結する極めて重要な課題だ。価格戦略を誤れば、その代償は計り知れない。

この重要性を十分に認識し、価格設定に関しては全て社長の直接指導のもとで行うべきだ。それにもかかわらず、価格に対して明確な方針を打ち出していない会社が少なくないのは、何とも不可解な話だ。一体何を基準に経営を行っているのか、その姿勢が疑わしく思えてならない。

基礎計算を土台にしながら、さまざまな条件を組み合わせて価格を決定するためには、以下のような点を考慮する必要がある。

  1. 市場動向の把握
    市場の需要と供給のバランス、競合他社の価格設定、消費者の購買力や嗜好の変化を綿密に分析することが欠かせない。
  2. 製品の価値と差別化
    自社製品の価値や競合との差別化要因を明確にし、それに見合った価格を設定する。過剰な値引きは製品価値を損なう可能性がある。
  3. 流通経路の考慮
    流通業者の格や役割に応じて、段階的な価格設定を行う。卸売、小売、オンラインなど、販売経路に適した価格を検討する。
  4. コスト構造の精査
    原材料費、製造費、人件費など、コスト構造を細かく把握し、それを基に価格の下限を設定する。これが収益性を確保する基盤となる。
  5. 価格戦略との整合性
    建値、実勢価格、戦略価格のバランスを取り、どの価格で市場に訴求するかを明確にする。短期的な利益追求ではなく、長期的なブランド価値の向上を意識する。
  6. 競争環境の影響
    競争環境が激しい市場では、単に価格を下げるのではなく、付加価値を創出して競争優位を築く必要がある。

これらの要素を総合的に検討し、価格設定が企業の収益や信頼に及ぼす影響を十分に理解した上で、緻密な価格戦略を立てるべきだ。価格は単なる数字ではなく、企業の理念と市場でのポジションを示す重要な指標であることを肝に銘じる必要がある。

価格決定の際に考慮すべき主な要素を挙げると、以下のようになる。

一、商品の機能
製品が持つ基本的な性能や特徴。その品質や独自性が価格にどう反映されるべきかを検討する。

二、顧客のメリット
製品を使用することで顧客が得られる利益や利便性。その価値に見合った価格設定が求められる。

三、市場価格
同種製品の市場での一般的な価格帯。市場の許容範囲を把握し、適正価格を見極める必要がある。

四、競合商品の状況
競合他社の価格戦略や商品ラインナップ。その動向に対抗できる価格や付加価値を設計する。

五、流通マージン
卸売業者や小売業者に適切な利益を提供するためのマージン。流通の円滑さと販売促進のバランスを考慮する。

六、その他
原材料の価格変動、製造コスト、ブランド戦略、プロモーション費用、政策的な要素など、具体的な状況に応じたさまざまな条件。

これらの要素を総合的に分析し、それぞれの影響力を考慮した上で、合理的かつ競争力のある価格を設定することが重要である。

第一の「商品の機能」についてだが、ここで言う機能とは、その商品が持つ具体的な働きのことである。重要なのは、顧客は商品そのものを買うのではなく、その商品が持つ「働き」や「役割」を買うのだという点だ。

多くの企業が犯す誤りは、顧客のニーズを軽視し、自分たちが良いと思い込んだ商品を押し付けることだ。これはまさに「天動説」的な発想であり、自社を中心に世界が回っているという幻想に過ぎない。市場で求められるのは、顧客が真に価値を感じる機能を提供することであり、それに応えられない商品は、どんなに高機能であろうと顧客に支持されることはない。

典型的な例として挙げられるのが、日本の「シャープペンシル」だ。ノック式で0.2ミリ芯という商品は、その発想自体が顧客のニーズからかけ離れている。書いている最中に芯がポキポキ折れるのはストレス以外の何物でもない。さらに、ノック式で「ワンタッチ」と謳っても、芯の出る長さを自在に調整するのは難しく、使い勝手が悪い。

このような商品は、技術的な工夫や自社のアイデアだけに依存し、実際の使用場面や顧客の不満を十分に考慮していないことを物語っている。顧客が求めるのは、便利さや機能性がストレスなく発揮される製品であり、それを無視した商品設計は自己満足に過ぎない。

典型的な例が日本の「シャープペンシル」だ。ノック式で0.2ミリ芯という商品をよく作ったものだが、書くたびに芯が折れ、芯の長さも調整しにくい。顧客の使い勝手を無視した典型だ。

「ホワイトボード」は摩擦が少なすぎて書きにくい。「カードケース」は重くて長すぎ、使い勝手が悪い。「ドライバー」は握りが細すぎて指が痛くなるし、モノロック式扉錠は簡単に壊れて防犯性能が低い。どれも設計の配慮が足りない例だ。

日本の自動車ほど無駄なアクセサリーをつけた車は、世界中を見ても珍しい。挙げればキリがないほど、正しい機能を持たない商品が市場に溢れている。日本はもはや貧しい国ではないのだから、安さだけを追求するのではなく、もっとまともな商品が生まれてくるべき時期だと思う。

社長には、我が社の商品をもう一度お客様の立場から見直し、真にお客様のニーズを満たす商品を作り上げてもらいたい。商品の機能について少々脱線したが、参考になれば幸いだとご寛容いただきたい。

第二は「顧客のメリット」だ。これは商品の機能から自然に導かれるものだ。たとえば、キトーのチェンブロックは軽くて丈夫で使いやすいというメリットがあるため、他社より価格が高い。T社の塗装用エアーホースも同様で、柔らかくて軽く、しかも丈夫であることが高価格の理由となっている。

産業機械や機材の分野では、顧客のメリットをかなり正確に計算することが可能だ。その結果として、これらのメリットが価格に何らかの形で反映されている。

第二の「市場価格」は、動かしがたい制約条件だ。しかし、これが絶対的なものではないことを理解する必要がある。実際、メンテナンスの良さや配送・陳列サービスの優秀さによって、この制約を打ち破っている企業を私はいくつも知っている。

第四の「競合商品の状況」は、市場戦争における占有率確保のため、いくらに設定すべきかという視点での検討が欠かせない。競争の激しさによって価格戦略には大きな差が生じる。多くの社長が「市場が大きい」という理由だけで大都市圏を狙い、過当競争に苦しむ一方で、一部の賢い社長は市場の盲点を巧みに突き、建値やそれに近い価格で有利に商売を展開している。

長崎市のある業務用品問屋は、五島列島で独占のメリットを享受している。鹿児島市のオフィス用品業者は、大隅半島と薩摩半島を主市場とし、高い収益を上げている。大阪の家具問屋も、淡路島では価格が通る市場として注力している。それぞれが競争の少ない地域に目を向け、独自の優位性を築いている好例だ。

裏九州、山陰、高知県、和歌山県、山形県といった地域は、まだ市場の盲点として残っている。また、飛騨高山、信州伊那、会津若松、三陸といった小規模な地域も競合が少なく、有望な市場といえる。これらの地域は、いずれも「市場戦略」を考える上で注目すべきポイントだ。競争の少ないエリアに焦点を当てることで、新たな収益機会を見出すことができる。

第五は「流通マージン」だ。ここで最も重要なのは、流通マージンを十分に確保する必要があるという点だ。もし流通業者がいなければ、全てを自社で行う必要がある。得意先を一社一社開拓し、その後のフォローを行い、小売店舗を自ら作ることになる。これには膨大な時間と経費がかかり、それを支えるための従業員も多く必要だ。仮にそれが実現したとしても、維持費が高騰し、採算が取れるような運営は到底難しい。

これらの煩雑な業務を代行し、売場を提供してくれるのが流通業者の役割だ。ただし、販売活動の全てを流通業者に任せきりにするのは間違いだ。流通業者のサポートを活用しながらも、販売活動の主体はあくまで自社であるべきだ。我が社が自らの責任で売るという意識が重要だ。

流通業者を使わず、エンドユーザーに直接販売している会社も少なくないが、その多くは実質的に「下請け」の立場に甘んじている。下請けとなると「経営の自主性」はほとんど失われ、親会社の意向に従う以外の選択肢がなくなる。この状態では、どれだけ努力しても自立した成長は難しく、いつまで経ってもウダツが上がらないのが現実だ。

一方で、流通業者を通じた間接販売では、自社の努力次第で高い収益を上げることができる上、自主的な経営も維持できる。流通業者との協力関係を上手に活用すれば、経営の自由度を保ちながら成長の可能性を広げることができるのだ。

その点に目を向けず、「流通業者にマージンを払う」という事実だけを理由に流通業者を敬遠し、エンドユーザーへの直販を選ぶ会社は少なくない。しかし、それでは短期的なコスト削減にとらわれるあまり、長期的な成長や経営の安定を犠牲にしてしまう可能性が高い。

しかも、その多くはごく僅かな例外を除き、大企業との取引にばかり目を向ける傾向がある。理由は「大企業と取引するのはカッコいい」「倒産の心配がない」という表面的な安心感に依存しているに過ぎない。

こうして、大企業には下請けを希望する会社が殺到し、結果として過当競争が生じる。その中で取引が実現しても、高収益どころか、まともな収益すら期待できないのが実情だ。

流通業者にマージンを払うことは、一見すると収益を圧迫するように思えるが、実際にはそうではない。流通業者は、メーカーとは比較にならないほど広範な流通チャンネルと多数の得意先を抱えている。それらを労せず利用できることこそが、流通業者を活用する最大のメリットだ。その対価として支払うのが流通マージンであり、それを払ったとしても十分に価値がある利用料なのだ。

販売促進費が効率的であることは言うまでもない。集金も流通業者一括で済み、リスクの負担も引き受けてくれる。そして何より有益なのは、新商品開発に役立つ情報が得られる点だ。多くの場合、それは流通業者の要望という形で提供される。本音を言えば、メーカーの新商品のアイデアには「天動説」の発想があまりにも多すぎるのだ。顧客の実際のニーズを踏まえた視点が欠けていることが問題である。

自らの発想に酔いしれ、売り物にならない奇妙な商品を作っては失敗するメーカーも少なくない。それに比べて、流通業者の要望は現場の実情に即しており、地に足のついた現実的な意見である。

さらにもう一つ、流通業者には優れた点がある。それは、売れて利益が出る商品であれば、メーカーの原価には全く関心を持たないことだ。そして、利益が見込める商品には全力を注いで販売する。実際、あるメーカーが流通業者にとって儲かる商品を開発した際、流通業者は自社の配送車全てにその商品名を大きく書き込み、社長自ら指揮を執って売り込んだという実例がある。こうした姿勢こそ、流通業者を活用する大きな利点だ。

とはいえ、流通業者を利用すれば全てがうまくいくわけではない。さまざまな問題が発生することは覚悟しなければならない。流通業者を増やしすぎると、自社の商品同士で価格の競り合いが起こったり、ダンピングが横行したりする。さらに、販促費の要求や平気な返品といった事態も珍しくない。ただし、これらの問題には話し合いや調整の余地があり、最終的には社長のコントロールが鍵を握る。

それでも、流通業者を相手にする商売は非常に魅力的で、やり甲斐がある。適切に運用すれば、大きな成果を生む可能性を秘めている。

商品価格の決定には、基礎的な価格設定だけでなく、多様な戦略や流通に関する考慮が必要です。以下は、商品価格を効果的に設定するためのポイントです。

1. 基礎計算の限界

基礎計算で得た価格をそのまま商品価格に設定するのは不十分です。価格の決定は、競争力や顧客の反応を見極めて慎重に行う必要があります。極端な値下げは、一見収益に見合っているようでも、設備能力の制約や将来的な設備増強に必要な資金が不足する可能性があるため、利益の確保に努めることが重要です。

2. 価格戦略と条件設定

価格は以下の要素を考慮し、柔軟に設定します。

  • 商品の機能: 顧客が求める機能に価値を提供すること。製品の実用性や品質が価格に見合うと認識されることが大切です。
  • 顧客のメリット: 商品の耐久性、使いやすさなど、顧客に与えるメリットに基づき価格設定を行います。
  • 市場価格: 現行の市場価格を基準としながらも、差別化ができれば、サービスや品質の高さでプレミアム価格を設定できることもあります。
  • 競合商品: 競合他社の商品価格と市場の競争状態に応じ、過当競争を避けつつも適切な価格設定を行うべきです。
  • 流通マージン: 流通業者に対して適切なマージンを設定することが、効率的な流通チャンネルの活用と販売の安定化につながります。

3. 流通業者の活用とマージン

流通業者に適切なマージンを設けることで、広範な販売チャンネルを利用できます。流通業者を介することで、メーカーはマーケティングや集金リスクの一部を削減でき、迅速な新商品開発にもつながる情報も得られます。ただし、流通業者の数を増やしすぎると、価格競争や返品などの問題が発生しやすいため、社長の管理が重要です。

4. 大企業との取引の注意点

大企業の下請けとなると、収益性よりも安定性が優先されるケースが多く、経営の自主性が失われるリスクがあります。流通業者との間接販売では高収益を目指せる可能性があり、選択肢として検討する価値があります。

5. 市場戦略の柔軟性

特定の地域や市場の盲点に目を向けることで、過当競争を避け、有利な価格設定が可能です。大都市圏に依存せず、競合が少ない市場に重点を置くことで、販売拡大と収益確保が期待できます。

結論

価格設定は、単に基礎計算で得られた数値にとどまらず、市場や顧客の動向、競争環境、流通戦略などを総合的に判断し、状況に応じて最適な価格を設定することが重要です。社長が率先して価格に関する指針を持つことが、収益性の高い価格戦略を実現する鍵となります。

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