■ 引用原文(日本語訳)
禍をまねき、悪しきところ(地獄)に堕ち、相ともにおびえた男女の愉楽はすくなく、
王は重罰を課する。ひとは他人の妻になれ近づいてはならぬ。
身体が崩壊したのちには、地獄で火に焼かれる。
――『ダンマパダ』第四章「はげみ」第15節
■ 逐語訳(一文ずつ現代語訳)
- 他人の妻に近づくことは、禍(わざわい)を招き、悪しき場所(地獄)に堕ちる。
不倫や姦通は、今生だけでなく、来世にまで苦しみをもたらす悪行である。 - 男女が共におびえながら得る快楽は、はかなく少ない。
不安と罪悪感の中での一時的な喜びは、本当の幸福とは言えない。 - 国の法律(王)は重い罰を科す。
社会的にも法律的にも処罰され、信用と自由を失うことになる。 - 人は他人の妻に近づいてはならない。
これは仏教における五戒の一つ「不邪淫」の実践であり、精神と社会の調和のための大原則。 - 身体が朽ちた後には、地獄の火に焼かれる。
死後の世界においても、煩悩と悪行の報いからは逃れられない。
■ 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
禍(アパーヤ) | 災難や不幸。個人・家庭・社会に深刻な悪影響を及ぼす出来事。 |
悪しきところ(ナラカ) | 地獄、あるいは苦しみの境涯。仏教で最も苦しい生存状態を指す。 |
おびえた愉楽 | 罪の意識や不安を抱えた中での一時的な快楽。真の安らぎではない。 |
王の罰(ラージャ・ダンダ) | 社会的制裁。現代においては法的・職業的な制裁や社会的信用の失墜を意味する。 |
五戒の一つ「不邪淫」 | 他者の配偶者に手を出すことを戒める基本的倫理規範。 |
■ 全体の現代語訳(まとめ)
他人の妻に近づく行為は、一時の快楽のようでいて、
災難・恐れ・罰・非難といった多くの苦しみを引き寄せる。
たとえ肉体の死によってすべてが終わると思っても、
その悪行は魂の深層に刻まれ、地獄の火に焼かれるような報いをもたらす――
仏教は、そのような道を断固として戒めている。
■ 解釈と現代的意義
この節は、「欲望に支配されることの代償の大きさ」を明確に伝えています。
一瞬の感情や刺激に流されることで、心の平安も社会的信頼も、そして未来さえも破壊されてしまう。
人生における本当の幸福とは、罪悪感や不安におびえずに生きること。
欲望を抑え、誠実に生きることこそが、真の自由をもたらすのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
コンプライアンス意識 | 道徳的逸脱行為は、個人の人生だけでなく、組織全体の信頼を損なう。 |
短期快楽への自制 | 一時の利益や欲望に流されず、長期的視野で誠実な行動を選ぶことが、最終的な成功につながる。 |
リスクマネジメント | 不倫・隠しごと・違反行為などは、発覚したときの損失が計り知れない。最初から関わらないことが最良の防御。 |
精神的健康 | 不正や不倫は、常に「バレるかもしれない」という恐怖と隣り合わせ。平穏な心は、倫理的行動の上に築かれる。 |
■ 心得まとめ
「欲の火は、身体も名誉も焼き尽くす。」
ほんの一瞬の誘惑が、人生のあらゆる柱を崩壊させる。
それは快楽ではなく、「恐怖に染まった愉楽」にすぎない。
智慧ある者は、欲望を制し、平安と品位を守る。
その道こそが、心と魂を救う本当の生き方なのである。
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