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徳は広く、信念は深く。中途半端では道は成らない

子張は、徳を修める上での心構えを戒めた。
人としての徳が中途半端であったり、正しい道を信じる心が浅かったりすれば――
それは、あってもないようなものであり、結果として何の力も持たない、と。

徳は一部だけで足りるものではない。
信じる道も、一時の思いつきではなく、深く根を張った信念でなければならない。
真に意味のある「有(ある)」とは、深く広く生き方に根ざしたものなのだ。


原文と読み下し

子張曰(い)わく、徳(とく)を執(と)ること弘(ひろ)からず、道(みち)を信(しん)ずること篤(あつ)からずんば、焉(いず)くんぞ能(よ)く有(あ)りと為(な)し、焉(いず)くんぞ能(よ)く亡(ほろ)びと為(な)さん。


意味と注釈

  • 徳を執ること弘からず
     身につけようとする徳が狭く浅いもの、つまり偏っていたり一部にしか及ばない状態を指す。
  • 道を信ずること篤からず
     正しいと信じる道に対して、信念が厚くない、揺るぎやすい状態。軽薄であれば、それは信じているとは言えない。
  • 焉んぞ能く有りと為し、焉んぞ能く亡びと為さん
     それでは道徳があるとは言えず、なくなったかどうかすら判断できない。曖昧で無意味なものになってしまう、という警告。

1. 原文

子張曰、士見致命、見得思義、祭思敬、喪思哀、其可已矣。


2. 書き下し文

子張(しちょう)曰(いわ)く、士(し)は致命(ちめい)を見(み)て、得(とく)を見(み)ては義(ぎ)を思(おも)い、祭(まつ)りには敬(けい)を思(おも)い、喪(も)には哀(あい)を思(おも)う。其(そ)れ已(や)むべきのみ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 子張曰く、士は致命を見て…
     → 子張が言った。「士たる者は、命を捧げるべき場面に遭遇したときは、その覚悟をもつべきであり、」
  • 得を見ては義を思い…
     → 利得に出会ったときには、それが道義にかなっているかをまず考えるべきであり、
  • 祭には敬を思い…
     → 祭祀(儀式)では、心からの敬意をもって臨むべきであり、
  • 喪には哀を思う。
     → 葬儀の場では、真心からの哀しみの念を持つべきである。
  • 其れ已むべきのみ。
     → これだけのことができれば、もう十分(理想の士のあり方として問題ない)である。

4. 用語解説

  • 子張(しちょう):孔子の弟子の一人。言葉や行動に厳格さが見られる人物。
  • 士(し):ここでは人格を修め、礼節をわきまえた理想的な知識人、またはリーダー層。
  • 致命(ちめい):命を捧げること、すなわち命がけで尽くす覚悟。
  • 義(ぎ):道義・正義。道理にかなっていること。
  • 敬(けい):深い尊敬の念、真摯な態度。
  • 哀(あい):深い悲しみ、感情から出る哀悼の意。
  • 其れ已むべきのみ(それやむべきのみ):それでよい、他に言うべきことはない、十分である。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子張はこう言った:
「士たる者は、命を捧げるべき場面ではそれを惜しまず、利益に出会ったときには正義にかなっているかを考えるべきである。
また、祭祀には敬意をもって臨み、葬儀には心からの哀しみを表す──それだけできていれば、もう理想的と言えるだろう。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「状況に応じた適切な感情と行動」が真の“士”=人間的品格をもった人物の基準であると説いています。

  • 危機の場面には覚悟をもって立ち向かい、
  • 利益の場面では正しさに立ち返り、
  • 儀式やしきたりには敬意を忘れず、
  • 悲しむべき時には心から哀しむ──

表面的なふるまいではなく、内面の誠実さと感情の深さが強調されており、バランスある人格の全体像を描いています。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅「覚悟ある行動が信頼を生む」

困難な場面やトラブル時、逃げずに立ち向かう姿勢は組織内での信頼を得る鍵となる。たとえば、プロジェクトの失敗責任を取る覚悟や、リスクを背負って意思決定を下すことも「致命」に相当する行為。

✅「利益優先ではなく、“義”を指針にする」

たとえ大きな取引や売上のチャンスであっても、不正や背信につながるものであれば退く判断が必要。短期利益よりも長期の信頼を大切にすることが、組織の持続性につながる。

✅「形式より本質──敬意と哀悼の真心」

形式的な礼儀や慣習ではなく、その背後にある心の姿勢が問われている。たとえば、社内イベントや顧客対応における“儀礼”でも、心がこもっているかどうかが評価を分ける。


8. ビジネス用の心得タイトル

「義を忘れず、心を尽くす──“士”の四つの心得」
– 危機に備えて命を惜しまず、利得の前では正義を忘れず、形式の裏に敬意を宿し、悲しむべき時には心からの哀悼を──


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