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開発方針の決定は社長の役割り

T社長から「一倉さん、うちの開発部門がどうにも動きが鈍くて困っている。ぜひ指導してほしい」と依頼を受けた。そこで、「まずは開発部門の皆さんと直接話をさせてもらいたいと思います。ただ、その前に社長の方針をしっかり把握する必要がありますので、ぜひ教えていただきたい」と返答した。

ところが、T社長は少し不満げな表情を浮かべながら、「一倉さん、それはどういう意味ですか? 開発に関しては、私はすべて開発部門に任せているんです。だからこそ、方針を決めるのも開発部門の責任でしょう。でも、その開発部門が方針を出せないから困っているんですよ」と言った。

「どんな製品を開発したいのか、具体的に私のところへ提案が来ない限り、判断のしようがないでしょう」とT社長は続けた。この種の社長にとって「商品」という言葉は使わない。自社で製造する品物に過ぎず、それを「商品」として市場に出す視点が欠けているのだ。

困ったものだ。この社長には根本的な理解が欠けている。そこで私は説得を試みた。「新商品というものは、未来の会社の収益を支える重要な柱となるものです。だからこそ、どのような商品を開発するべきかは、経営者である社長が明確に方向性を示すべきです。開発部門というのは、社長が決めた方針に基づいて具体的な形を作り上げるための部門であって、部門の自由裁量で好き勝手に開発を進める場所ではありません。」

論より証拠だ。仮に開発部門が独自の判断で動き、結果として社長の意図とかけ離れた製品を生み出した場合、社長がそれを黙って見過ごすはずがない。必ずや中止を命じるだろう。つまり、社長自身、開発に関する何らかの方針を心の中に持っているということだ。それならば、その方針を明確に示し、開発部門に沿って動くよう指示を出すのが筋というものだ。

自分の意図を明確に示さず、開発部門が動き出したところで「意図と違う」とブレーキをかけるのは、現場の立場からすれば理不尽な話だ。「任せる」と言われたからこそ、その言葉を信じて動き出したのに、後から止められるのでは納得できない。「それなら最初から方針を示してほしい」となるのは当然の流れだ。

社長自身が意図を示さず、その意図を知らない社員が結果的に反した行動をとったことで責めるのは、責任を負うべきはむしろ社長の側だ。「任せる」という名目で自らの役割を放棄するような怠慢は、厳に慎むべきである。経営者として正しい姿勢は、自分の意図を明確に伝え、それに基づいて社員が行動できるよう導くことだ。会社の未来を作るのは、社長が示した方針を起点とした全体の一貫した努力なのである。

結局のところ、T社の開発部門は「何をやればいいのか」が全く見えない状態に置かれていたのだ。社長から明確な意図が示されない以上、方向性を見失うのも当然だ。社内に閉じこもって考えたところで、何を開発すべきかなんて分かるわけがない。指針がない船が海を漂うようなものだ。開発部門に責任を押し付ける前に、社長自身が舵取り役としての責務を果たすべきだったのだ。

その結果、開発部門は営業部門から持ち込まれるクレームやセールスマンが顧客から聞き取ってくる要望に振り回される日々を送っていた。その要望が、得意先の技術者個人の興味や関心に基づくものなのか、それともその会社全体の本質的な要求なのかすら判断できないまま、とにかく対応に追われていたのだ。明確な方針もない中で、目の前の問題に対処することしかできず、本来の開発活動とは程遠い状況に陥っていた。

どれだけ口を酸っぱくして説いても、T社長は自身の考えを変えることはなかった。このような社長の考え方は、決して珍しいケースではない。たとえばN社では、約20名の開発部員が100を超える開発テーマを抱え、完全に手詰まりの状態に陥っていた。彼らには優先順位の基準も方向性も示されず、社長も開発部長も具体的な開発方針を提示することなく、現場任せにしていたのだ。こうした状況では、組織全体が迷走するのも無理はない。

開発部長は、営業部門から寄せられる要求をそのまま判を捺して部下に流すだけの存在と化していた。その結果、現場は収拾がつかないほどのテーマを抱え込むことになり、途方に暮れる状況に陥っていた。開発部門が抱える課題の多さは、単にリソース不足の問題ではなく、方針や優先順位が全く示されていない組織的な欠陥によるものだった。

これは、私の「社長セミナー」に参加したN社の開発部員から寄せられた相談だった。この手の相談は、答えようがなく困る。根本的な問題は、社長自身がやるべきことを放棄している点にあるのだから、現場がいくら動こうとしても解決のしようがない。そもそも、社長が自らセミナーに参加せず、社員だけを送り込むという姿勢そのものが誤っている。経営の方向性を決めるべき立場の人間が、その責務を回避している時点で、組織としての健全性は大きく損なわれているのだ。

T社長もN社長も、一体何を考えているのだろうか。「新商品開発」というのは、会社の未来の収益を生み出すための極めて重要な取り組みだ。その未来を築くことこそ、経営者である社長の最大の責務であり、これは社長自身が担うべきものであって、他の誰かに任せられるものではない。将来の方向性を示すべき立場の社長が、その役割を放棄してしまえば、会社全体が迷走するのは避けられない。

収益とは、「顧客の要求を満たす」ことを通じて初めて得られるものだ。そのため、社長自らが顧客の真のニーズを見つけ出し、それに応える新商品の方向性を明確に示すことが求められる。それが経営者としての最も重要な役割だ。しかし、その基本を理解せずに社員任せにするとは、何とも無責任な話ではないか。自分の責務を果たさず、現場に丸投げするような姿勢では、会社の未来を語る資格はないだろう。

そうした社長たちの言い分は決まってこうだ。「そんなことを言われても、僕は技術屋じゃないから無理だ。だから技術屋に任せるんだ」。だが、冗談ではない。それは技術の問題ではなく、事業経営の根幹に関わる話だ。技術者に任せるべき領域と、経営者として自らが責任を持つべき領域を混同している時点で、経営者失格と言わざるを得ない。そんな認識のままよく社長を務めていられるものだと、呆れるばかりだ。

開発方針の決定は、社長が担うべき重要な役割です。新商品開発は企業の将来を築くための鍵であり、その方針が不明確なままでは、開発部門はどの方向に進むべきかを見失います。社長が具体的な開発方針を示さず、開発部門の自由裁量に任せた結果、何を目指して良いか分からず、営業部門からの細かな要望に追われるだけで、本質的な成果を出せないケースがよく見られます。

1. 社長が方針を示すべき理由

  • 企業の未来は社長の責任: 開発とは、将来の収益を生むための活動であり、その収益をどう獲得するかという方向性は社長が決めるべきです。社長は顧客の要求や市場の変化を見据え、自らのビジョンを具体的な開発方針として示すことで、開発部門がそれに基づき戦略的に動くことができます。
  • 技術だけでなく経営の視点が必要: 開発部門に任せきりにすると、個別の技術的興味や細かな要求に振り回され、収益性や市場競争力に直結しない製品開発に終始してしまうリスクがあります。開発の目的は「収益を生むこと」であり、技術に詳しくなくとも社長が経営視点で方向を定めることが肝心です。

2. 社長が自ら開発方針を決定することで得られる効果

  • 開発の一貫性と方向性が明確化される: 社長が具体的に「何を開発すべきか」を示すことで、開発部門はその指針に沿って活動し、無駄な試みや方針のずれを減らせます。結果として、開発効率も向上し、企業全体の方向性が明確になります。
  • 開発部門のモチベーション向上: 社長が自ら方針を打ち出すことで、開発部門は自社のビジョンや市場への価値提供に直結する仕事をしているという実感を持ち、意欲的に取り組むことができます。

3. 開発部門の活動に対する社長の支援と介入

  • 定期的なレビューとフィードバック: 社長が開発の進捗を把握し、方針の修正や追加のサポートを行うことで、開発が社長の意図に沿って進むよう調整できます。
  • 顧客ニーズの反映: 社長は市場調査や顧客のフィードバックを直接取り入れ、開発に反映させる役割も果たします。顧客の本質的なニーズを理解し、どのような製品が今後必要とされるかを決定するのは社長の役割です。

まとめ

社長は、企業の未来に責任を持つ者として、開発方針を決めるのは避けられない役目です。「任せる」という姿勢は、責任の放棄につながります。顧客ニーズを見極め、経営の視点から長期的に収益を生み出せる方針を社長が直接示すことが、企業の成長と競争力強化につながります。

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