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満ち足りた時こそ、慎み深くあるべし

人の地位や財産が極限まで満ち足りたとき、それは水があふれそうな器のような状態である。そこにさらに欲を加えようとすれば、すべてを失う危険にさらされる。

また、危うい地位にある者は、今にも折れそうな木のようなものだ。そのようなときに、もう一押しの欲望や負荷を加えることは、決定的な破綻を招く。

老子も説くように、「満ちれば欠け、強ければ折れる」。ゆえに、人生がもっとも満たされていると感じるときこそ、慎みと自戒が必要である。欲をさらに加えるのではなく、「すでに十分」と知る心が、人を安定と長寿へと導く。


原文と読み下し

盈満(えいまん)に居(お)る者は、水(みず)の将(まさ)に溢(あふ)れんとして未(いま)だ溢(あふ)れざるが如(ごと)し。切(せつ)に再(ふたた)び一滴(いってき)を加(くわ)うることを忌(い)む。
危急(ききゅう)に処(お)る者は、木(き)の将(まさ)に折(お)れんとして未(いま)だ折(お)れざるが如し。切(せつ)に再(ふたた)び一搦(いちな)を加(くわ)うることを忌(い)む。


注釈

  • 盈満(えいまん):物事が極限まで満ちた状態。ここでは地位や財産が飽和状態にあること。
  • 危急に処る:今にも崩れそうな危機的状況にいること。
  • 一滴・一搦(いってき・いちな):わずかな追加。状況を一変させる致命的な「最後の一押し」。
  • 老子の教え:盈満を戒める思想が『老子』にも繰り返し登場する。「満ちれば欠け、柔は剛に勝る」といった逆説的な真理を重視。

パーマリンク(英語スラッグ)案

  • danger-of-excess(過剰の危うさ)
  • beware-the-final-drop(最後の一滴に気をつけよ)
  • fullness-invites-fall(満ちれば崩れる)

この心得は、現代のビジネスや人間関係にも深く通じる内容です。欲望の「あと一歩」を踏みとどまる勇気と智慧こそ、長く穏やかな成功につながります。

目次

1. 原文

居盈滿者、如水之將溢未溢。切忌再加一滴。
處危急者、如木之將折未折。切忌再加一搦。


2. 書き下し文

盈満に居る者は、水の将に溢れんとして未だ溢れざるが如し。切に再び一滴を加うることを忌む。
危急に処る者は、木の将に折れんとして未だ折れざるが如し。切に再び一搦を加うることを忌む。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

一文目:

居盈満者、如水之將溢未溢。
→ 満ち足りた状態にある人は、今にも水が溢れそうでまだこぼれていない器のようなものだ。

切忌再加一滴。
→ 決して、もう一滴を加えてはならない(つまり、限界を越えないようにせよ)。

二文目:

處危急者、如木之將折未折。
→ 危険な状態にある人は、今にも折れそうでまだ折れていない木のようなものである。

切忌再加一搦。
→ 決して、さらにひと押ししてはいけない(一層の圧を加えるべきではない)。


4. 用語解説

  • 盈満(えいまん):満ちきっている状態、物事が頂点・限界に達していること。
  • 将溢未溢(まさにあふれんとしていまだあふれず):今にもあふれそうで、まだぎりぎりこぼれていない状態。
  • 一滴(いってき):わずか一滴の水。ほんの少しの加減や行動を象徴。
  • 危急(ききゅう):きわめて危険で切迫した状態。
  • 將折未折(まさにおれんとしていまだおれず):今にも折れそうで、かろうじて耐えている状態。
  • 一搦(いちじょう):一搦み(ひとしぼり)、軽いひねりや圧力。ささやかながら限界を越える一押し。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

すでに満ち満ちている状態にある人は、水が今にもあふれそうで、まだこぼれていない器のようなものだ。そこにさらに一滴でも加えれば、すぐにあふれてしまう。だから、決して無理にさらに欲をかいてはならない。

また、危機的な状況にある人は、今にも折れそうでまだ持ちこたえている木のようなものだ。そこにもうひと押しすれば、たちまち折れてしまう。だから、さらなる負荷や刺激を加えることは禁物である。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「限界近くにある状態に対する慎重さと自制」を説いたものです。

物事には“臨界点”があり、それを越えれば一気に崩壊する。表面上は安定して見えても、内実は綱渡りのような状態であることが多く、油断や欲張りが破滅を招く。

この戒めは、人間関係・健康・資産・組織運営など、あらゆる場面に応用できる深い教訓です。「もう少し」「あと少し」が命取りになる場面では、むしろ“抑える勇気”“引く知恵”が重要であることを教えてくれます。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「成功の頂点での“さらにもう一歩”が崩壊を招く」

プロジェクトや売上が絶好調でも、「調子に乗って拡大を急ぐ」「無理な施策を加える」と、一気に反動が来る。限界に近いときこそ“慎重さ”が必要。

●「ギリギリのメンバーに更なる負荷をかけてはいけない」

部下やメンバーが明らかに限界に達しているときに、「あと少し頑張れ」と言えば、精神的にも肉体的にも折れてしまう。マネジメントの要諦は、“折らない判断力”にある。

●「緊張状態では“刺激を加えない判断”が信頼を築く」

交渉・対人関係・クレーム対応など、危ういバランスのときに、相手を追い詰めるような発言や圧力は禁物。むしろ“間を置く・緩める”ことで、信頼と安定が築かれる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「一滴の欲が崩壊を呼ぶ──“加える”より“引く”が真の力」


この章句は、成功や安定の“絶頂”や“危機”のときこそ、加えるよりも慎重に「引く」「止める」ことが肝要であると教えます。ビジネスの現場においても、リーダーが“引き際”を見極める力が組織の命運を分けるでしょう。

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