CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)は、企業のコスト(Cost)、売上量(Volume)、利益(Profit)の関係を分析する手法で、経営上の重要な意思決定に役立ちます。この分析を用いることで、損益分岐点や収益性の改善方法を明確にすることができます。本記事では、CVP分析の定義、計算方法、活用例、メリットと注意点について詳しく解説します。
CVP分析とは?
CVP分析は、売上高や販売数量の変化がコストと利益にどのように影響を与えるかを分析する手法です。この分析は、固定費と変動費を明確に分けて、販売数量や価格の変化に対する企業の収益性を評価します。
主な目的
- 損益分岐点の把握
- 利益がゼロになる売上高や販売数量を計算。
- 目標利益の達成条件を明確化
- 目標利益を達成するために必要な売上高や数量を計算。
- 価格やコスト変更の影響評価
- 価格改定やコスト構造の変更が収益に与える影響を測定。
CVP分析の主要な概念
1. 固定費
- 生産量や売上高に関係なく一定額発生するコスト。
- 例:家賃、管理者の給与、減価償却費。
2. 変動費
- 生産量や売上高に比例して変動するコスト。
- 例:原材料費、配送料、直接労務費。
3. 貢献利益
- 売上高から変動費を差し引いた金額。
[
\text{貢献利益} = \text{売上高} – \text{変動費}
]
4. 貢献利益率
- 売上高に対する貢献利益の割合。
[
\text{貢献利益率} = \frac{\text{貢献利益}}{\text{売上高}} \times 100
]
CVP分析の計算方法
1. 損益分岐点売上高
利益がゼロとなる売上高を計算します。
[
\text{損益分岐点売上高} = \frac{\text{固定費}}{\text{貢献利益率}}
]
2. 目標利益達成売上高
特定の目標利益を達成するために必要な売上高を計算します。
[
\text{目標利益達成売上高} = \frac{\text{固定費} + \text{目標利益}}{\text{貢献利益率}}
]
3. 損益分岐点販売数量
利益がゼロとなる販売数量を計算します。
[
\text{損益分岐点販売数量} = \frac{\text{固定費}}{\text{単位貢献利益}}
]
[
\text{単位貢献利益} = \text{販売価格/単位} – \text{変動費/単位}
]
計算例
例:ある商品のCVP分析
- 固定費:500,000円
- 販売価格:1,000円/個
- 変動費:600円/個
- 目標利益:200,000円
ステップ1:単位貢献利益を計算
[
\text{単位貢献利益} = \text{販売価格} – \text{変動費} = 1,000 – 600 = 400 \, \text{円}
]
ステップ2:貢献利益率を計算
[
\text{貢献利益率} = \frac{\text{単位貢献利益}}{\text{販売価格}} \times 100 = \frac{400}{1,000} \times 100 = 40\%
]
ステップ3:損益分岐点売上高を計算
[
\text{損益分岐点売上高} = \frac{\text{固定費}}{\text{貢献利益率}} = \frac{500,000}{0.4} = 1,250,000 \, \text{円}
]
ステップ4:目標利益達成売上高を計算
[
\text{目標利益達成売上高} = \frac{\text{固定費} + \text{目標利益}}{\text{貢献利益率}} = \frac{500,000 + 200,000}{0.4} = 1,750,000 \, \text{円}
]
ステップ5:損益分岐点販売数量を計算
[
\text{損益分岐点販売数量} = \frac{\text{固定費}}{\text{単位貢献利益}} = \frac{500,000}{400} = 1,250 \, \text{個}
]
CVP分析の活用方法
1. 損益分岐点の管理
- 損益分岐点を基に、最低限必要な売上高や販売数量を設定。
2. 価格戦略の検討
- 価格変更が利益に与える影響を分析し、適切な価格設定を行う。
3. コスト削減の評価
- 固定費や変動費を削減した場合の利益改善効果を評価。
4. 新規事業や製品開発の検討
- 新たな製品やサービスの採算性を事前に評価。
CVP分析のメリット
- 収益構造の明確化
- 固定費と変動費、売上高と利益の関係を可視化できます。
- 経営判断のサポート
- 損益分岐点や目標利益を基に、適切な戦略を策定。
- 価格設定やコスト管理の精度向上
- 貢献利益率を基に、価格設定やコスト削減の効果を測定。
- 簡便な分析
- 特別なツールを必要とせず、簡単な計算で実施可能。
CVP分析の注意点
- 固定費と変動費の正確な分類が必要
- 分類が曖昧だと、分析結果の信頼性が低下します。
- 線形性の仮定
- CVP分析は、売上とコストが線形であると仮定しているため、非線形な関係がある場合には注意が必要です。
- 外部要因の影響
- 市場の需要や競合他社の動向など、外部要因が考慮されていません。
- 長期的な分析には不向き
- 短期的な意思決定に適した手法であり、長期的な計画には補完的な分析が必要です。
まとめ
CVP分析は、企業の収益性やコスト構造を明確にするための基本的かつ有用な手法です。損益分岐点や目標利益を簡単に計算できるため、価格戦略の立案やコスト削減の評価、経営意思決定のサポートに役立ちます。
ただし、固定費・変動費の分類や外部要因を適切に考慮し、必要に応じて他の分析手法と組み合わせることで、より精度の高い経営判断を実現しましょう!
CVP分析の解説と計算
1. CVP分析の基本公式
CVP分析における売上高、利益、費用の関係を式で表します。 営業利益=売上高−(変動費+固定費)\text{営業利益} = \text{売上高} – (\text{変動費} + \text{固定費})
2. 損益分岐点の売上高
損益分岐点とは、営業利益が0円になる売上高です。このとき、売上高は変動費と固定費の合計に等しくなります。
公式: 損益分岐点の売上高=固定費貢献利益率\text{損益分岐点の売上高} = \frac{\text{固定費}}{\text{貢献利益率}} 貢献利益率=1−変動費率\text{貢献利益率} = 1 – \text{変動費率}
3. 目標営業利益を達成する売上高
目標とする営業利益を得るために必要な売上高を求めます。
公式: 目標営業利益を達成する売上高=固定費+目標営業利益貢献利益率\text{目標営業利益を達成する売上高} = \frac{\text{固定費} + \text{目標営業利益}}{\text{貢献利益率}}
4. 目標営業利益率を達成する売上高
売上高に対する営業利益率(目標営業利益率)を達成する売上高を求めます。
公式: 目標営業利益率を達成する売上高=固定費1−(変動費率+目標営業利益率)\text{目標営業利益率を達成する売上高} = \frac{\text{固定費}}{1 – (\text{変動費率} + \text{目標営業利益率})}
実際の計算例
資料
- 販売単価: 100円/個
- 変動費: 直接材料費 30円/個、変動加工費 20円/個、変動販売費 10円/個
- 固定費: 固定加工費 2,000円、固定販売費・一般管理費 1,000円
- 目標営業利益: 7,000円
- 目標営業利益率: 30%
(1) 損益分岐点の売上高と販売量
- 変動費率の計算: 変動費率=30+20+10100=0.6\text{変動費率} = \frac{30 + 20 + 10}{100} = 0.6
- 貢献利益率の計算: 貢献利益率=1−0.6=0.4\text{貢献利益率} = 1 – 0.6 = 0.4
- 損益分岐点の売上高: 損益分岐点の売上高=2,000+1,0000.4=7,500 円\text{損益分岐点の売上高} = \frac{2,000 + 1,000}{0.4} = 7,500 \, \text{円}
- 損益分岐点の販売量: 販売量=売上高販売単価=7,500100=75 個\text{販売量} = \frac{\text{売上高}}{\text{販売単価}} = \frac{7,500}{100} = 75 \, \text{個}
(2) 目標営業利益を達成する売上高と販売量
- 必要な売上高: 目標営業利益を達成する売上高=2,000+1,000+7,0000.4=25,000 円\text{目標営業利益を達成する売上高} = \frac{2,000 + 1,000 + 7,000}{0.4} = 25,000 \, \text{円}
- 必要な販売量: 販売量=売上高販売単価=25,000100=250 個\text{販売量} = \frac{\text{売上高}}{\text{販売単価}} = \frac{25,000}{100} = 250 \, \text{個}
(3) 目標営業利益率を達成する売上高と販売量
- 必要な売上高: 目標営業利益率を達成する売上高=2,000+1,0001−(0.6+0.3)=3,0000.1=30,000 円\text{目標営業利益率を達成する売上高} = \frac{2,000 + 1,000}{1 – (0.6 + 0.3)} = \frac{3,000}{0.1} = 30,000 \, \text{円}
- 必要な販売量: 販売量=売上高販売単価=30,000100=300 個\text{販売量} = \frac{\text{売上高}}{\text{販売単価}} = \frac{30,000}{100} = 300 \, \text{個}
結果まとめ
- 損益分岐点
- 売上高: 7,500円
- 販売量: 75個
- 目標営業利益 7,000円
- 売上高: 25,000円
- 販売量: 250個
- 目標営業利益率 30%
- 売上高: 30,000円
- 販売量: 300個
安全余裕率の公式と計算
安全余裕率は、現在の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す指標です。
公式: 安全余裕率=予想売上高−損益分岐点売上高予想売上高×100(%)\text{安全余裕率} = \frac{\text{予想売上高} – \text{損益分岐点売上高}}{\text{予想売上高}} \times 100 (\%)
計算例
資料
- 予想売上高: 10,000円
- 損益分岐点売上高: 7,500円
計算: 安全余裕率=10,000−7,50010,000×100=25%\text{安全余裕率} = \frac{10,000 – 7,500}{10,000} \times 100 = 25\%
経営レバレッジ係数の公式と計算
経営レバレッジ係数は、売上高の変動が営業利益にどれだけ影響を与えるかを示します。固定費の割合が高いと、売上高の変動に対して営業利益の変動も大きくなります。
公式: 経営レバレッジ係数=貢献利益営業利益\text{経営レバレッジ係数} = \frac{\text{貢献利益}}{\text{営業利益}}
計算例
資料
- 貢献利益: 6,000円
- 営業利益: 3,000円
計算: 経営レバレッジ係数=6,0003,000=2\text{経営レバレッジ係数} = \frac{6,000}{3,000} = 2
結果まとめ
- 安全余裕率:
- 25% (予想売上高が損益分岐点を25%上回っている)
- 経営レバレッジ係数:
- 2 (売上高が1%増加すると、営業利益は2%増加する)
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