N社は、パチンコ機器の販売を手がける企業だ。同社の営業スタイルは、単に機械を販売して終わりというような無責任なものではない。新規店舗から問い合わせがあった場合、最初から機械を押し付けるような売り方は行わない。
まずは立地条件を徹底的に調査する。その結果、パチンコ店として適していないと判断した場合には、「この場所ではパチンコ店の成功は難しい」と伝え、開業を見送るよう助言することもある。
機械を販売したい気持ちはあるものの、最初から成功の見込みが薄いと分かっていながら機械を提供すれば、結果が思わしくなかった際に「機械が悪い」と非難されるのは目に見えている。それでは会社の信頼が揺らぐだけでなく、顧客に損失を与えることにもなりかねない。そんな考え方が根底にある。
立地条件が良好と判断された場合には、店舗設計やレイアウトの提案から、玉売機や景品の選定、さらには店内で流す音楽の選曲まで、顧客の要望に応じてあらゆる準備を手配するという徹底ぶりだ。「釘師」の紹介まで行っているかは定かではないが、ここまで手厚くサポートする姿勢は見事と言えるだろう。
「それは結局、自分たちの利益になるだけじゃないのか」と疑問を投げかける前に、同社の基本方針に耳を傾ける必要がある。同社の考え方は明快だ――「我々は単にパチンコ機械を売るのではない」。
「私たちが提供するのは、パチンコ機械ではなく、パチンコ店の繁栄そのものだ」というのが同社の理念だ。この姿勢こそが真に誠実な態度と言える。そして、この誠実さは自然と利益をもたらす。顧客への尽力が正当な報酬として返ってくる、そんなビジネスの在り方を体現している。
そのため、会社の事業を考える際には、まず顧客のニーズを把握することが出発点となる。顧客が何を求めているのか、自社の商品やサービスにどのような不満を抱いているのか、さらには顧客の嗜好がどのように変化していくのかを徹底的に分析し、理解することが必要だ。
さらに、「顧客のニーズを満たすために、自社は何をすべきか」という問いこそが核心となる。この問いに真摯に向き合わず、ただ闇雲に売上を追い求めても、良い結果にはつながらない。顧客の要求を満たすことができれば、その瞬間に収益は自然と生まれるものだ。
F社は小規模な「単店スーパー」だった。取り扱う商品は典型的な小型スーパーの範囲に収まり、食品と日用雑貨が中心だった。商圏は半径300メートルにも満たず、業績も振るわない状況が続いていた。決算は常に赤字と黒字の境界を行き来する、不安定な状態だった。
社長は、業績不振の原因を立地条件の悪さに求めていた。確かに一理はあった。日曜日になると、顧客が都心部に出向いて買い物を済ませるため、F社の売上が下がるのは事実だった。しかし、立地条件のせいにしたところで問題の解決にはならない。行き詰まった社長は、ついに私に相談を持ちかけてきた。
F社を訪問し、社長から先述の話を聞いた後、売り場を確認することにした。一目見ただけで、社長がスーパー経営の基本である「商品回転率」を十分に理解していないのではないかと感じた。そこで、商品の売上データと陳列面積(私は陳列長で評価した)あたりの売上高を詳しく調査することにした。
予想通りの結果だった。最も売上高が高く、つまり商品回転率が良いのは「揚げ物」だった。その次が「鮮魚」、さらに「青果」が続いていた。一方で、ドライ食品や瓶詰・缶詰類では特に缶詰の回転率が悪く、売上は低調だった。日用雑貨に至っては、一部の商品を除いてほとんど振るわない状況だった。
品揃えの方針について尋ねると、社長自身がそれが何なのか分からず、悩んでいるという答えが返ってきた。「目玉商品」に関しても具体的なイメージがなく、特売のやり方や効果的な運用についても理解できていないようだった。
これでは業績が上がらないのも当然だ。どんな取り組みであれ、顧客のニーズを的確に捉えた上で、自社の事業方針を明確にしておくことが不可欠だ。まずはその基盤を確立する必要がある。そこで私は、社長に次のように提案した。
「基本に立ち返るなら、まず商品回転率を基準に設定し、それに基づいて商品のスクラップ・アンド・ビルドを実施するべきだ。それを徹底することが必要だ。」
「その方法で一定の効果は見込めるだろう。しかし、売場面積や立地条件を考慮すると、それだけでは大きな成果を期待するのは難しい。なぜなら、それでは店舗に際立った特徴や魅力を持たせることにはならないからだ。」
「ここで重視すべきなのは、顧客の要求だ。言うまでもなく、その本質は『良い品を安く』という点にある。特に食品に関しては、このニーズが一層強く表れる。」
「この要求すべてを完全に満たすのは不可能だ。だからこそ、特定の商品に絞り込み、それらについて顧客の期待を徹底的に満たすことを目指すべきだ。」
「あなたの会社の場合、狙うべきは生鮮三品(青果、鮮魚、精肉)と惣菜だ。これらは都心部の大型スーパーが必ずしも得意としている分野ではない。だからこそ、これを強化することで、店舗の特色として際立たせることができる。」
「具体的な方法としては、生鮮三品のうち、野菜と鮮魚に注目する。これらは日々の相場変動が激しいため、市場でその日に最も安い商品を二〜三品選び、通常の三倍仕入れる。そして、それを『本日の特売品』として販売する。一方で、相場が高い商品は仕入れを控える。この戦略を取れば、顧客に喜ばれるだけでなく、あなたの会社の収益も確実に向上するだろう。」
「安売りをしても十分な収益率が確保できる仕組みだからこそ、この方法が商売の知恵となる。そして、これを毎日欠かさず続けることが重要だ。食事は毎日のことだから、顧客にとっても日々必要なものだ。こうした取り組みを続けることで、『この店に行けば必ずお得な商品がある』という信頼が生まれる。その結果、顧客は毎日のように足を運ぶようになり、安定した集客が実現する。だからこそ、一日たりとも休むことなく続ける必要がある。」
「特売があったりなかったりすると、顧客は店を『あて』にしなくなる。それでは、顧客を引きつけ続けることは難しい。だからこそ、市場に適切な商品が見つからない場合でも、原価販売を覚悟してでも特売品を必ず用意するべきだ。顧客第一の姿勢を貫くことが、信頼を築き、継続的な来店につながる。」
「このような顧客への奉仕は、必ず成果として返ってくる。そして次に精肉だが、これを従来の枠組みにとらわれず柔軟に考えるべきだ。まず注目すべきは臓物だ。仕入れ先でスーパー向けに人気のある商品をリサーチし、試しに一種類か二種類取り扱ってみる。しかし、それだけでは平凡に終わってしまう。私なら、『臓物の試食販売』を企画し、さらに『臓物のおいしい調理法』を紹介するチラシやパンフレットを作成する。こうした努力を惜しまなければ、顧客の興味を引き、業績も向上する。行動しなければ、結果はついてこない。」
「最後に『惣菜』だが、特にサラダが一番売れているという点に注目すべきだ。まずは、そのサラダをさらに魅力的にする工夫が必要だ。ただし、仕入れ先任せにするだけでは限界がある。自社で調理を行い、独自の味や特徴を持たせることを検討してみてはどうか。自家製の商品は差別化につながり、顧客にとって特別な存在となる可能性が高い。」
「さらに、煮物を10種類、可能であれば20種類まで充実させる。そして、これをパッケージ販売ではなく、ガラスケースに盛り付けた状態で展示し、計り売りによる対面販売に切り替えるべきだ。この方法は顧客に新鮮さや手作り感をアピールできるだけでなく、顧客とのコミュニケーションを通じてニーズを直接把握する機会にもなる。」
「さらに、煮物の種類を10種類、可能であれば20種類まで充実させる。そして、これをパッケージ販売ではなく、ガラスケースに盛り付けた状態で展示し、計り売りを取り入れた対面販売に切り替える。この形式は視覚的な魅力を高めると同時に、顧客に自由な量を選んでもらう楽しさを提供する。対面販売を通じて、顧客との距離を縮めることもできるため、顧客満足度の向上にもつながる。」
「これらの取り組みは、どれも実際に試してみなければ結果は分からない。成功するかどうかを決めるのは、最終的に顧客だ。顧客の要求に応えられれば売上は伸びるし、合わなければ効果が出ない。そうなれば潔く撤退すればいい。すべては顧客の反応が指針となるのだ。」
「まず最初に、野菜と鮮魚で特売を試みた。その結果、特売品は連日完売。そして、来店客の数が徐々に増え始めた。小売店は、来店客数と売上が比例するという性質があるため、これが大きな追い風となった。その結果、特売品以外の商品も売上が次第に伸びていくようになった。」
「T社長は『なかなか好調です。これで自信がつきました』と満面の笑みを浮かべていた。まさに、顧客の要求を満たすことが、事業成功の鍵となるという証拠だ。一方で、顧客の期待に応えられない事業や商品は、必然的に顧客から見放されていく。顧客のニーズを理解し、それに応えることが、事業を成長させる唯一の道だ。」
「長野県のY温泉にある旅館は、『安ければそれでいい』という考えのもと、徹底的な低価格戦略を採用した。一見、これで繁盛間違いなしと思われたが、結果は逆だった。顧客は次第に離れていき、ついには倒産に至った。原因は明白で、『安かろう、悪かろう』の印象を与えてしまったからだ。低価格だけに頼った戦略は、顧客満足度を犠牲にしてしまい、信頼を失う結果を招いたのである。」
「旅館業はスキー客や海水浴客相手の民宿とは違う。単に安ければ良いというわけではない。仮に相手がスキー客や海水浴客だったとしても、学生のような特別な層を除けば、安さだけで選ばれることは難しい。価格だけに注力して価値を見失えば、顧客の心をつかむことはできない。」
「Y温泉は、民宿が立ち並ぶ場所ではなく、れっきとした温泉地だ。そんな場所で、ただ安いだけの旅館が成り立つはずがない。わざわざ旅費をかけて訪れる顧客は、楽しみや安らぎを求めて来ている。そのニーズを無視して、安さだけを売りにするのは根本的な誤りだった。顧客の期待や要求を理解しない経営が、結果として失敗を招いたのだ。」
「K社を訪問した際、会議室にパイプ製の簡素な『マッサージ椅子』が置かれていた。話を聞くと、それは見本品だという。そこで、『これは売れませんね』と率直に伝えると、社長が『どうして分かるんですか』と驚いた様子で尋ねてきた。私がその欠点を的確に指摘したため、図星を突かれたのだろう。」
「私はこう説明した。『マッサージ椅子を購入するのは、どんな顧客かを考えれば答えは明らかだ。一般大衆が気軽に買うものではない。購入するのは、旅館や浴場、サウナといった営業用の施設か、これを置くスペースのある広い家を持つ個人だろう。まず、営業用の施設がこんな粗末な椅子を採用するわけがないのは明白だ。そして、個人にしても、これを買えるような収入がある家庭は、それなりに高級感を重視する。そのような家庭で、こんな安っぽい椅子をリビングや休憩スペースに置くことを想像してみれば、売れない理由は一目瞭然だ』と。」
「自動販売機が全盛とまではいかないものの、かなり普及してきたのは事実だ。ただ、初期の自動販売機では、故障によって不便を感じた経験がある人も多いだろう。最近では技術が進歩し、かなり改善されてきているが、当時のトラブルを覚えている人も少なくない。」
「なぜ初期の自動販売機はあれほど故障が多かったのか。その理由は単純だ。それは『安いことは良いこと』という神話に基づいている。この神話のもと、末端価格やリース料が安ければ売れるという短絡的な発想が、メーカーの意識に深く根付いていたからだ。その結果、品質よりも価格を優先し、故障が多発する製品が市場に出回った。」
「その結果、『コストを安く』することが最優先され、設計は粗雑極まりないものとなる。むしろ、故障しない方が奇跡といえるような状態だった。さらに追い打ちをかけるのが、流通業者の低いマージンだ。このわずかな利益の中で、次々と故障する機械の修理に追われる流通業者にとっては、たまったものではない。この構造そのものが問題を悪化させていた。」
「私の知人も自動販売機のビジネスに関わっているが、彼はこう愚痴をこぼしている。『こんなに手のかかる機械は他にない。その上、低いマージンで採算が合っているのかさえ分からない。始めてしまった以上、なんとか続けたいとは思うけれど、正直言って、やっている自分が馬鹿らしく感じることが多い』と。彼の言葉から、このビジネスの抱える厳しい現実が見えてくる。」
「『安ければよい』という神話は、日本人の意識に深く根付いてしまっている。確かに、価格が安いに越したことはない。しかし、『安かろう、悪かろう』では、何の意味もないどころか、むしろ顧客に迷惑をかけるだけだ。顧客は愚かではない。一時的には安さに引き寄せられるかもしれないが、品質が悪ければ、いずれ見切りをつけて離れていく。顧客に見放されたとき、事業の命運も尽きる。それが商売の現実だ。」
「賢明な社長は、まず『顧客が求める商品』と『その商品に必要な品質』を最優先に考える。価格を重視するのはその次だ。これこそが本質であり、顧客の信頼を得るための基本姿勢だ。」
「商品の品質の良し悪しは、社長の賢さを測るバロメーターになる。賢い社長は、良い品質でなければ顧客の要求に応えられないことを理解している。一方で、馬鹿な社長はその重要性に気づかず、品質を軽視する。この違いが、事業の成否を分ける大きな要因となる。」
「メーカーにとって、流通業者は単なる流通機構であるだけでなく、重要な顧客でもある。顧客である以上、流通業者が抱えるニーズや要求をいかに満たすかが、メーカーにとっての大きな課題となる。これを軽視することは、事業全体に影響を及ぼすリスクを伴う。」
「流通業者が求めるものはただ一つ、『マージン』だ。この極めて当たり前のことが、驚くほど理解されていないケースが多いのは不思議なことだ。流通業者にとってマージンは利益の源泉であり、その確保が事業継続の鍵であるにもかかわらず、これを軽視するメーカーが少なくないのは問題だ。」
「その典型的な例が、メーカーが作成するカタログだ。このカタログが、消費者向けなのか流通業者向けなのか判然としないものが少なくない。むしろ、そのような中途半端なカタログが過半数を占めているのではないだろうか。後述するが、こうした曖昧さはメーカーの姿勢や顧客理解の欠如を如実に表している。」
「流通業者向けのカタログに商品のメリットを説明しても、何の意味があるのだろうか。これは完全に的外れだ。商品のメリットを説明するのであれば、消費者向けのカタログやチラシで十分事足りる。流通業者が本当に求めているのは、その商品でどれだけの利益を上げられるかという情報だ。一方で、流通業者向けと消費者向けが区別されていないカタログを見ると、おそらくは両者を『兼用』しようとしているのだろう、と好意的に解釈するしかない。」
「流通業者の要求がマージンであることを正しく認識し、それをどう満たすかを考えるのが重要だ。しかし、それは単にマージン率を高くすれば良いという単純な話ではない。そうした発想は、まるで『天動説』のような古い考え方だ。つまり、『流通業者に高いマージンを与えれば、自社のために一生懸命働いてくれる』という安易な思想だ。しかし、現実はそれほど単純ではなく、マージン以上に流通業者が価値を感じられる仕組みやサポートを提供する必要がある。」
「そう簡単にはいかない。確かにマージン率を高くすれば、流通業者の動機づけにはつながる。しかし、過当競争が激しい業界では、それが価格競争を加速させる原因になる。結果として、流通業者は競争によってマージン率が低下し、利益が合わなくなる。その状況下で、流通業者はメーカーに対してさらなる値下げを要求するようになる。これでは、メーカー自身が収益を圧迫される悪循環に陥るだけだ。」
「この要求に応じると、流通業者はさらに価格競争を激化させ、その結果、またしても同じようにマージン低下を訴えるという悪循環を繰り返すことになる。では、流通業者が本当の意味で適切なマージンを得られるようにするために、メーカーは何をすべきなのか。その答えについては、ここでは問いかけに留めることにする。」
※調理の仕方のパンフレットを入れる。
タイトル:顧客の要求を満たすことが企業成長の鍵
企業が成長するためには、「顧客が何を求めているのか?」を理解し、適切に応えることが不可欠です。顧客が単に商品を買うのではなく、商品がもたらす「価値」や「効果」を求めているからです。企業はこの視点に立ち、顧客の要求に真摯に応える姿勢を持つことで、信頼を獲得し、利益を生むことができます。
顧客の要求を知るための具体的なアプローチ
1. 顧客が求めるものを理解する
N社の例では、単にパチンコ機械を販売するのではなく、立地条件の評価や店舗設計のサポートを通じて、パチンコ店の繁栄をサポートしました。このように、顧客が求めるのは「商品の持つ価値」であり、商品自体ではありません。企業は、顧客の成功を支援することが自社の信用向上と利益につながることを理解しなければなりません。
2. 市場の変化と顧客ニーズの観察
時代とともに顧客のニーズや好みも変わります。顧客の好みや不満を調査し、商品の品質やサービスを改善することが、企業の生き残りに直結します。例えば、小型スーパーのF社では、顧客のニーズを満たすために生鮮品を毎日特売するなど、地元の顧客層の需要に応じた戦略を取り、業績の向上を果たしました。
3. 価格と品質のバランス
顧客は「安いから」だけで商品を購入するわけではありません。Y温泉の旅館が価格のみを下げて失敗したように、顧客は「安かろう悪かろう」の商品には魅力を感じません。企業は顧客の要求を満たすために、適切な品質と価格のバランスを提供することが重要です。
流通業者へのアプローチ:流通業者のニーズを理解する
流通業者も顧客の一部と捉え、彼らの要求を満たすことが重要です。流通業者が重視するのは「マージン」であり、流通業者向けのカタログや販売促進活動は、マージンを最大化するような工夫が必要です。商品自体のメリットだけでなく、流通業者が利益を得やすい条件を提供することが、商品の販売拡大につながります。
結論
企業が真の顧客の要求に応え、顧客の立場に立って価値を提供することが、長期的な成長の鍵となります。顧客の要求を満たす姿勢が、企業の信用を高め、顧客の信頼を得ることで、事業の繁栄をもたらします。
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