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味を守る、顧客第一主義の料亭「錦」

京都・嵐山にある料亭「錦」は、四季を問わず常に賑わいを見せる人気店だ。観光シーズンや平日を問わず、満席状態が続き、まるでオフシーズンが存在しないかのようだ。この繁盛ぶりの背景には、田中社長の徹底した顧客第一主義がある。朝礼ではサービスや料理に関する改善が話し合われ、スタッフ全員が「お客様にどう喜んでいただくか」を最優先に考えている。

料理の質、手頃な価格設定、そして細部にまで行き届いたサービス。この三拍子が揃っているからこそ、多くの人々が「錦」を訪れ、家族連れでも安心して高級料理を楽しむことができるのだ。


味の追求に妥協しない「食事の仕事化」

「錦」がこれほどまでに支持を集める理由の一つは、料理に対する田中社長の揺るぎないこだわりだ。毎月、季節の素材を取り入れた新しい献立を試行錯誤するだけでなく、日々の味のチェックも欠かさない。

昼時になると、社長室には料理が運ばれ、田中社長自ら味見を行う。その間、片手には電話を持ち、調理場の責任者と直接話しながら、味付けや盛り付け、香りの細かい点に至るまで指示を出す。このプロセスは約20分にも及び、料理の品質に対する厳しい目がいかに徹底しているかを物語っている。

田中社長がこうした細かい指示を出せるのは、自身がかつて板前として修業を積み、現在も料理学校で講師を務めているからだ。この学校の卒業生を採用するための布石としても機能しているが、それ以上に「最高の料理を提供する」という信念がにじみ出ている。

こうした日々の味見について田中社長は、「お昼ご飯なんて全然楽しめない」と冗談交じりにぼやくこともある。確かにこれはもはや食事ではなく、「仕事」の一部だ。しかし、それが「錦」の料理を支える重要な要素となっているのは間違いない。


家族連れにも優しい価格設定

「錦」では、味だけでなく価格設定にも特別な工夫が施されている。高級料亭でありながら、家族連れが食事を楽しんだ後に、「思ったより安かった」と感じられる価格を維持している。田中社長は、「食事が楽しめた後に懐具合を心配させたくない」と語り、客単価を過度に上げることを避けている。

多くの飲食店が客単価の向上を目指す中、この姿勢は異例だ。しかし、結果として常に満席状態が続き、収益性も十分に確保されている。高級でありながら手頃な価格を実現することで、顧客の信頼をさらに深めているのだ。


人気ゆえの悩みと打開策

一方で、この人気ぶりが新たな課題を生み出している。それは、訪れる客数があまりに多いため、予約が取れずに諦める顧客が増えていることだ。この状況に心を痛める田中社長は、「忠ならんと欲すれば孝ならず」と述べ、限られた資源で全ての顧客に満足してもらう難しさを感じている。

増築が最も現実的な解決策だが、嵐山が風致地区に指定されているため簡単には実現できない。そこで、田中社長は近隣にある食品工場を別の場所に移転し、その跡地を活用して新施設を建てる構想を検討している。ただし、規模を拡大することで、これまで維持してきたサービスの質が低下するリスクもあり、容易に結論を出せない状況だ。


揺るがない信念が繁栄を支える

田中社長の顧客第一主義は、どんな困難に直面しても揺るがない。「お客様のために最高のサービスと料理を提供する」という信念が、「錦」の繁栄を支える原動力となっている。

私は田中社長に「機が熟したら行動を起こしてみては」と勧めることしかできない。しかし、彼の姿勢を見ていると、どんな選択をしても成功するだろうという確信が湧いてくる。その理由は明白だ。田中社長が築き上げてきた顧客との信頼関係が、どんな試練にも負けない強さを持っているからだ。

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