ある石油元売会社M社のセミナーで、「自社の石油が顧客に選ばれなければ、会社は存続できない」という話をした際、参加者の一人が「それは青天の霹靂のような気づきでした」と感想を述べた。その反応に驚いたのはこちらだった。この、ごく当たり前の事実が、今では多くの企業で当たり前として認識されていないのだ。
これはM社だけの問題ではない。数多くの企業で、自社を中心に世界が回っているかのように物事を捉える「天動説」が根深く残っている。この発想は、経営において致命的な誤りを生む要因となり、企業本来の使命である「顧客のために価値を提供する」ことを見失わせている。
天動説の罠から抜け出す必要性
人間は本能的に自分中心に物事を考える傾向がある。企業も例外ではなく、「自社が市場の中心である」という錯覚に陥りがちだ。この「天動説」が、企業戦略において顧客視点を欠落させ、結果的に顧客の信頼を失う原因となる。
特に石油ショック以降の長期不況、筆者が「資源不況」と呼ぶ状況下では、過当競争や乱売合戦が繰り広げられ、多くの企業が売上不振に苦しんでいる。このような環境下で、景気回復に頼る姿勢はもはや現実的ではない。不況が構造的なものである以上、企業が生き残るためには、「顧客第一主義」を徹底した正しい経営が求められる。
顧客第一主義がもたらす優位性
興味深いのは、優れた戦略やマーケティングを持ちながら業績が伸び悩む企業がある一方で、戦略面で特筆すべき点がなくとも、顧客第一主義を徹底している企業が驚異的な成長を遂げている事実だ。これは、「戦略そのもの」よりも「顧客の視点に立つ姿勢」が事業成功の根本にあることを物語っている。
顧客第一主義を軸に据える企業は、不況や競争をものともせず、むしろ過当競争の圏外で独自のポジションを築くことができる。「不況などどこ吹く風」といった態度で市場をリードする企業は、業界内でも異例の成功を収めるケースが多い。
企業に求められる顧客目線の実践
企業が成功を続けるためには、「顧客のために事業が存在する」という原点を忘れないことが不可欠だ。顧客の要求を正確に把握し、それに応えることこそが、企業の本来の使命である。
そのためには、トップ自らが顧客のもとに足を運ぶことが重要だ。顧客と直接接し、目で見て、耳で聞き、肌で感じることで、初めて顧客の真のニーズや期待が理解できる。このプロセスを他人任せにする企業は、いずれ顧客からの信頼を失うだろう。
多くの社長は、初めて顧客と向き合った際、自社のサービスに対する不満や批判に直面することが多い。こうした経験を経て、「自社中心」の天動説を捨て、顧客目線へと大きく舵を切ることができれば、そこから業績が好転するきっかけが生まれる。
顧客第一主義が企業を変える
これまで筆者は、天動説を捨て、顧客第一主義を徹底することで劇的に成長を遂げた企業を数多く見てきた。この法則には一社の例外もない。顧客第一主義を実践した瞬間、不況や過当競争といった外部環境の影響を受けにくい「強い企業」へと変貌するのだ。
天動説を捨てる覚悟が未来を拓く
「顧客あっての企業」という言葉は、単なる理念ではなく、事業の成否を左右する現実そのものだ。企業が市場で選ばれ続けるためには、顧客の要求に真正面から向き合い、それを満たす努力を惜しまないことが何よりも重要である。
最後にこの言葉を贈ろう――
「天動説を捨て、顧客の立場に立て。その瞬間から、不況も競争も無縁のものとなる。」
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