子夏は、職人の姿にたとえて、君子の学びのあり方を説いた。
百工――つまり多様な職人たちは、それぞれの仕事場(肆)にこもって、自らの技術を磨き、仕事を完成させる。
君子もまた、学びの場にあって道を究めることに全力を尽くすべきだと子夏は語る。
これは、ただ学ぶことを目的とするのではなく、学びを通して「道=人としてのあり方」を体得し、完成させるという姿勢を意味している。
集中力・継続力・実践力――それらすべてを込めて、一心不乱に打ち込むことが、道を成す唯一の方法である。
原文と読み下し
子夏曰(い)わく、百工(ひゃっこう)は肆(し)に居(お)りて以(もっ)て其(そ)の事(こと)を成(な)し、君子(くんし)は学(まな)びて以(もっ)て其(そ)の道(みち)を致(いた)す。
意味と注釈
- 百工(ひゃっこう):
様々な専門職の職人たち。例:木工、金工、織工など。 - 肆(し)に居りて:
役所に付属する作業場で、自らの持ち場に集中して作業を行う様子。 - 其の事を成す:
担当する作業を仕上げ、一定の完成を見せるという意味。 - 君子は学びて其の道を致す:
君子は学問を通して、「道」(人としての徳・理想)を極め、実現することに努めるべきである、という教え。
1. 原文
子夏曰、百工居肆以成其事、君子學以致其道。
2. 書き下し文
子夏(しか)曰(いわ)く、百工(ひゃっこう)は肆(し)に居(お)りて以(もっ)て其(そ)の事(こと)を成(な)し、君子(くんし)は学(まな)びて以て其の道(みち)を致(いた)す。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子夏曰く、百工は肆に居りて以て其の事を成し…
→ 子夏は言った。「多くの職人たちは店先(作業場)に居ながらにして、自らの仕事を完成させる。」 - 君子は学びて以てその道を致す。
→ 君子(理想的な人物)は、学問を通して自らの“道”を究めるのである。
4. 用語解説
- 子夏(しか):孔子の弟子のひとり。学問と礼節を重んじ、論理的かつ実践的な思想で知られる。
- 百工(ひゃっこう):多種多様な職人たち。文字通り「百の工(たくみ)」=各種専門技術を持つ人々。
- 肆(し):職人が日々の作業をする場所。店舗、作業場、工房などの意味。
- 致す(いたす):究める、到達する。ここでは「道(人の在るべき姿)」を学びによって体得すること。
- 道(みち):儒教における理想の生き方、徳、倫理、人生観などの総称。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子夏はこう言った:
「職人は自らの仕事場にいて、それぞれの技術を完成させている。
それと同じように、君子(立派な人物)は学問によって自らの“道”を体得し、完成させていくのだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「学びの意義」と「職業的な専門性の修養」を対応させる、非常に実践的な比喩表現です。
- 職人が技術を磨くように、君子は学びで人格を磨く。
- 「学ぶこと」は、内面的な“道”=人間性の技術を鍛える行為である。
- 日々の実践を重ねてこそ、技術も徳も完成される。
- 学問は知識のためではなく、“生き方”そのものを作り上げる手段である。
これは「知行合一(知識と行動の一致)」の前段として、「学問が人格を形づくる技術に相当する」という見方を提示しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅「職能と同じように、リーダーシップも“修練”が必要」
業務スキルを磨くのと同様に、人間性・判断力・倫理観などの“内面の道”も、日々の学びによって育まれる。
✅「学びを“道を致す”手段と捉えよ」
学びは単なる情報収集やスキルアップではない。「何のために学ぶのか」を明確にし、自身の“あり方”を問い直す契機とする。
✅「職人技を尊ぶように、人間性の完成も目指せ」
プロフェッショナルであることは、スキルだけではなく、“人格の完成”ともいえる。
業務の技術に加えて、判断力・誠実さ・他者への共感などの“徳”をもってはじめて、真に信頼される人材となる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「技を極めるがごとく、人も“道”を極めよ──学びは人格を形づくる工房である」
– 職人が技を磨くように、君子たる者は学びを通じて自己を鍛え、自らの道を築いていく。
この章句は、学びを単なる知識習得ではなく、“生き方を完成させる職人的鍛錬”としてとらえています。
現代の人材育成やリーダーシップ形成においても極めて示唆に富む内容です。
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