目次
■原文(日本語訳)
第2章 第7節
アルジュナは言った。
「悲哀のために本性をそこなわれ、義務に関して心迷い、私はあなたに問う。どちらがよいか、私にきっぱりと告げてくれ。私はあなたの弟子である。あなたに寄る辺を求める私を教え導いてくれ。」
■逐語訳
- 悲哀のために本性をそこなわれ(カールパニャ・ドーショーハタ・スヴァバーヴァハ):臆病と悲しみによって、自分の本質・誇り・理性が損なわれている。
- 義務に関して心迷い(プルチチャーミ・トワーン・ダルマ・サンムーダ・チェーターハ):何が正しい道(ダルマ)かが分からず、心が混乱している。
- どちらがよいか告げてくれ(ヤット・シュレーヤハ・スヤート・ニシチタム・ブルヒ・タン・メー):本当に自分にとって有益な(精神的に優れた)道を、はっきりと教えてほしい。
- 私はあなたの弟子(シャッディ・マーン・トワーン・プラパンナム):自らを弟子と認め、完全にあなたに帰依し、導きを求める。
■用語解説
- カールパニャ・ドーシャ:「卑小なる心の過ち」「臆病・自己卑下」による人格の曇り。
- スヴァバーヴァ:本来の性質・誇り・ダルマ(使命に根ざした自己)。
- ダルマ・サンムーダ:義務・正義についての深い混乱状態。
- シュレーヤス:最終的に真に価値ある善。現世利益(プレーヤス)とは対照的。
- シャッディ:弟子。学ぶ者。
- プラパンナ:帰依する、よりどころとする、自己を委ねること。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、自分の悲しみと迷いを自覚し、それを正直に告白する。自分の判断力ではもはや正しい道を選べないと悟ったとき、はじめてアルジュナは「私はあなたの弟子です。どうか教えてください」と、クリシュナに心から導きを求める。これがギーターの核心、学びと覚醒の第一歩である。
■解釈と現代的意義
この節は、『バガヴァッド・ギーター』全編の転換点です。
これまでのアルジュナは苦悩の中で「答えが見えない」と語ってきましたが、ここで初めて「自分では分からない、だから教えてくれ」と頭を下げる――すなわち、傲慢を捨て、導きを求める謙虚さを持ったのです。
これは、リーダー・ビジネスパーソン・どんな人にとっても、自己変革の起点となる心の姿勢です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
リーダーの謙虚さ | 問題を一人で抱え込まず、的確な助言を求める姿勢が、真のリーダーシップの出発点となる。 |
メンターシップ | 迷いが生じたとき、自分の未熟さを認め、信頼する人物に学ぶ姿勢が、判断力と人格を磨く。 |
自己認識の深化 | 問題の核心は「何が起きたか」ではなく、「自分がどう受け取って迷っているか」であると気づく力が重要。 |
キャリア選択の指針 | 目先の利益よりも、長期的な「シュレーヤス(真の善)」に基づいて選択する基準を持つ必要がある。 |
■心得まとめ
「本当の強さとは、自らを弟子として差し出す勇気である」
人は迷い、苦しみ、誇りを失うときがある。しかし、その瞬間にこそ「私は学ぶ者です。教えてください」と心を開くことができれば、真の道は開けていく。
勝者とは、自分が知らないことを認め、学ぶ意志を持った者である。
次節(第8節)では、アルジュナがいかに深く絶望し、自力では立ち上がれないことを告白する場面が続きます。
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