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勇気に火をつけるなら、まず薪を用意せよ

勇ましさだけでは足りない。思慮があってこそ、真の行動力となる

孔子は、世の中に正しい道(=仁や礼)が行われない現実に、ふと冗談めかしてこう言った。
「もう、いかだに乗って海を渡って外国に行ってしまおうか」と。
その言葉にすぐさま子路(しろ)が反応し、「私も一緒に行きます!」と喜び勇んだ。
すると孔子は笑って、「子路の勇気は私以上だが、残念ながらいかだを作る材料(=準備や計画)がない」と言って、
勇気だけが先走る子路をたしなめた。
ここでの孔子の言葉は、勇気は大切だが、それだけでは未熟であり、思慮分別・準備・計画性がともなってこそ真の力になるという教えを含んでいる。
心意気は尊い。だが、それだけで世の中を動かすことはできないのだ。


原文とふりがな付き引用

子(し)曰(いわ)く、道(みち)行(おこな)われず。桴(ふ)に乗(の)りて海(うみ)に浮(う)かばん。
我(われ)に従(したが)う者は、其(そ)れ由(ゆう)なるか。
子路(しろ)之(これ)を聞(き)きて喜(よろこ)ぶ。
子曰く、由や、勇(ゆう)を好(この)むこと我に過(す)ぐ。材(ざい)を取(と)る所(ところ)無し。

勇気はすばらしい。
だが、それを活かす準備と知恵がなければ、行動は空回りする。


注釈

  • 桴(ふ)…木を束ねた筏(いかだ)。ここでは象徴的に「逃避の手段」や「理想の旅立ち」を表す。
  • 子路(しろ)…孔子の高弟で、情熱的・勇敢な性格。実行力がある反面、やや思慮に欠ける一面も。
  • 材を取る所無し…「材」は材料・計画・思慮などの象徴。「勇気はあるが、具体的な準備や策がない」という意味。
  • ※朱子などの注釈では「材」を「見さかい・判断力」と読み、「考えなしに突っ走る子路への警句」とされる。
目次

1. 原文

子曰、「道不行、乘桴浮於海。從我者其由與。」
子路聞之喜。
子曰、「由也、好勇過我、無所取材。」


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、「道(みち)行(おこな)われず。桴(ふ)に乗(の)りて海(うみ)に浮(う)かばん。我(われ)に従(したが)う者は、其(そ)れ由(ゆう)なるか。」
子路(しろ)之(これ)を聞(き)きて喜(よろこ)ぶ。
子曰(いわ)く、「由(ゆう)や、勇(ゆう)を好(この)むこと我(われ)に過(す)ぐ。材(ざい)を取(と)る所無(な)し。」


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)

「子曰、道不行、乗桴浮於海、従我者其由与」

→ 孔子は言った。「この世に道(正義・道徳)が行われないのなら、筏に乗って海に漕ぎ出そう。私について来る者は、子路(由)かもしれないな。」

「子路聞之喜」

→ 子路はこれを聞いて、嬉しそうにした。

「子曰、由也、好勇過我、無所取材」

→ 孔子は言った。「子路は、私以上に“勇気”を好むが、物事の本質を見抜く“器量”に欠けるのだ。」


4. 用語解説

  • 道不行(みちおこなわれず):世の中に道義が通らないこと。孔子の政治的理想が受け入れられない嘆き。
  • 桴(ふ):いかだ。竹や木で編んだ簡素な船。
  • 浮於海(うみにうかばん):俗世を離れ、海に身を委ねる隠遁的な姿勢。
  • 由(ゆう):子路の名前。孔子の高弟で勇猛果敢な人物。
  • 好勇過我(ゆうをこのむことわれにすぐ):「勇ましさを私以上に好む」という孔子の評。勇気はあるが未熟な部分もあるとの意。
  • 取材(しゅざい):材を取る=人材や才能を見極め、用いること。ここでは「用いるに足る人物」「使いどころがない」の意。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう語った:
「この世に道が行われないなら、いかだに乗って海を漂おう。ついてくるのは子路(由)だろうな。」
これを聞いて子路は嬉しがった。
すると孔子は言った、「子路は私以上に勇気はあるが、状況を見極めて人や物を適切に用いる能力に欠けるのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、理想が実現されない現実への孔子の嘆きと、弟子の特性を見極める師の冷静な洞察が同時に描かれています。

  • 孔子は「道が行われない」=社会が正しく動かないなら、自ら世を離れる覚悟を示している。
  • 子路は理想に共鳴し感情的に喜んだが、孔子はその“感情先行型”の姿勢をやや未熟と評している。
  • 「好勇過我」=勇気だけでは足りず、それに見合う判断力・用人術(取材)がなければならないという教訓。

これは、理想や情熱のみに依存せず、状況に応じた現実的判断力も備えるべきという、極めて現代的なリーダー論でもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用

「熱意と覚悟だけでは、組織は導けない」

子路は理想に共鳴して「行きます!」と喜んだが、孔子は「勇気はあるが、適材適所を見極める力量が足りない」と評した。

→ 熱意ある部下を、そのままリーダーにするのではなく、“判断力と器量”を育てることが真の育成。

「理想を掲げるときこそ、“誰が本当に導けるか”を見極めよ」

理想を共有する仲間がいても、実際に困難を乗り越えるには冷静なリーダーシップと柔軟な対処力が不可欠

→ “共鳴”と“実行”は別。ビジョンに乗る人と、それを形にする人は分けて考えよ。


8. ビジネス用の心得タイトル

「理想に燃えるな、理想を“担える器”たれ──熱意より、見極める力を」


この章句は、情熱・共感・忠誠心の価値と同時に、それを活かすための力量・見識の重要性を教えてくれます。

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