■ 引用原文(『ダンマパダ』第八章「ことば」第五偈)
悪口をいい、また悪意をいだいて聖者を毀る者は、
十万のニラルブダ地獄と
三十六と五千のアルブダ地獄とにおもむく。
■ 逐語訳
- 悪口をいい:人を誹謗し、侮辱するような言葉を語ること。
- 悪意をいだいて聖者を毀る者:清らかで真理に達した者に対して敵意を持ち、それを言葉や態度で傷つけること。
- ニラルブダ地獄:非常に苦しみの深い地獄の一つ。仏教の地獄体系において寒冷による責め苦を伴う世界。
- アルブダ地獄:同じく寒冷地獄の一種で、極度の冷気によって苦しめられる場所。
- 十万、三十六、五千:膨大な数で表現されており、それほどに重い報いを意味する象徴的表現。
■ 用語解説
- 聖者(アーリヤ):仏教において煩悩を断ち、真理(ダルマ)を悟った高徳な修行者。阿羅漢やブッダなど。
- 悪口(アッカ):他人を害する意図での発言。五戒のうち「妄語・悪口・綺語・両舌」に該当。
- 地獄(ナラカ):六道輪廻の中でも最も苦しい再生の領域。悪業による結果として堕ちる。
- ニラルブダ・アルブダ:仏典で説かれる寒地獄の具体名。苦しみの種類と度合いに応じて無数に分類されている。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
聖なる人々――すなわち真理に達し、誠実に修行を重ねた人々――を侮辱したり、悪意を持って傷つける者は、数えきれないほどの激しい地獄に堕ちる。
その罰は、十万の「ニラルブダ地獄」、三十六と五千の「アルブダ地獄」といった寒さによって責められる極苦の世界へと連なってゆく。
それほどまでに、言葉による悪行の報いは重く深いのである。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、**「言葉の業が持つ破壊力とその因果の深さ」**を強烈に教示しています。
単に人を中傷するだけではなく、特に「聖者」や「善き人々」に対する言葉の暴力は、自分の魂や未来に極めて深刻な悪影響を及ぼすという因果論が説かれています。
これは仏教に限らず、現代における「信頼のある人」「真摯に生きている人」への理不尽な中傷や陰口と重ねて考えることができます。
そのような行為は、社会的にも精神的にも、自分自身を崩壊させる結果を招く――それを「十万の地獄」という象徴で表現しているのです。
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
信頼される人を攻撃する危険 | 真摯に取り組む同僚やリーダーを陰で中傷すれば、周囲からの信頼は自分に戻ってこない。 |
言葉の破壊力の認識 | 感情任せに放った一言が、関係性・キャリア・企業文化に重大な影響を及ぼすことがある。 |
組織の徳を守る | 清廉で誠実な価値観を体現している人が組織にいるなら、その人物を中傷する者は組織の倫理そのものを壊してしまう。 |
職場の空気 | ネガティブな言葉で影響力ある人を貶めようとする態度は、チームの崩壊や業績低下にもつながる。 |
■ 心得まとめ
「聖なるものに唾する者、口が開くたびに地獄を刻む」
私たちは知らず知らずのうちに、言葉によって自分の未来を作っています。
真摯に生きる人、誠実な人、尊敬される人に対して悪意や嫉妬を向け、その想いを言葉にしてしまう――それは何よりも重い「自壊の行為」なのです。
ビジネスにおいても、品位ある人物を中傷することは、自らの徳・信頼・未来を切り刻む斧を振るうに等しい。
言葉には、敬意と慎みを。
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