MENU

原価計算は誤っているのではないか

多くの企業が原価計算を実施している。「原価を正確に把握しなければ、事業運営を誤る」という経営者の意向によるものだろう。しかし、その意向は本当に実現されているのだろうか。

多くの場合、その計算は伝統的な原価計算の原則に従って経理担当者によって行われている。算出された原価を目にした社長たちの多くは、それを信じる以外の選択肢を持たないのが現状だ。

何か不審を抱いて経理担当者に質問を投げかけると、理路整然とした説明が返ってきて、ひとまず「なるほど」と納得した気になる。反論するだけの具体的な根拠がないためだ。それでも、優れた経営者ほど何かしら腑に落ちない感覚を覚えることが多い。しかし、疑念を抱きつつも他に選択肢がないため、最終的にはその説明に従わざるを得ないのが現実だ。

しかし、原価計算の結果を提示された各部門では、「確かにそうかもしれないが……」と反発する声が上がる。実務の現場感覚からすると、どうしても納得できない点があまりにも多いからだ。

F社では、新商品の月次損益において、売れなかった月が黒字になり、売れた月が赤字になるという事態が発生し、議論を巻き起こした。常識的に考えれば明らかに矛盾しており、違和感を覚えざるを得ない状況だからだ。

N社では、商品別の原価計算を導入して以降、毎月の営業会議の主要な議題は激しく変動する原価の問題に集中するようになった。その結果、営業部門と製造部門の間で対立が絶えず、会議は議論の応酬の場と化してしまった。

T社では、部門に割り当てられる多額の費用を巡り、その根拠の妥当性について経理部門と常に衝突していた。特に、自分たちの部門の活動とは直接関係のない管理部門や経理部門の人員増加の費用を、なぜ自分たちが負担しなければならないのかという素朴ながらも正当な疑問が頻繁に持ち上がっていた。

S社では、工場での原価計算によれば会社は赤字のはずだが、経理が行った決算では黒字とされていた。この矛盾に直面した社長は、どちらが正しいのか判断できず、困惑していた。

K社のある営業課長がこう嘆いていた。「一倉さん、うちの課では一生懸命に売上を伸ばしているのに、売上を伸ばせば伸ばすほど共通費の割り当てが増えるんです。逆に、売上が少ない課への割り当ては減っています。こんな馬鹿げた話はないと思うのですが」。

G社の営業部門では、「うちの製品原価は市場価格よりはるかに高い。この状況で損を出さずに売れと言われても、そんなのは無理な話だ」と強く反発していた。

次々と際限なく湧き上がる現業部門からの批判、反発、怒り、そして疑念は、何を示しているのだろうか。それは、現場と経理や管理の間に深い溝が存在し、計算や指標が実態に即していないことへの不満が根底にあるのではないだろうか。

さらに、これらの批判や疑問に対して、納得のいく説明がなされた例は一度もない。もし原価計算が本当に正しいものであれば、これほど多くのトラブルが発生するはずもなく、仮に問題が生じたとしても、適切な説明によって現場を納得させることができるはずだ。

こうした状況を考えると、「原価計算そのものが間違っている」と結論付ける以外に説明のつけようがない。私自身、実務の中で、現場の感覚とかけ離れた原価計算に疑問を抱き、十年以上にわたって経理担当者と議論を繰り返してきた。そして、その疑問を解き明かすため、持ち前の反骨精神を発揮して問題に真正面から取り組むことになったのだ。

そして、ようやくこの疑問を解き明かすことに成功した。それだけでなく、原価計算では成し得なかった前向きで建設的な計算も可能になったのだ。この成果は、単に疑問を解消するだけでなく、新たな経営の指針を生み出すきっかけとなった。

その方法は、極めて簡単で分かりやすく、実務に最適なものだ。それだけでなく、事業の高度な戦略的意思決定にも応用できる。これから、その内容について詳しく述べることにしよう。

原価計算に対する疑問と新たな視点の提案

企業の多くが行う「原価計算」には、現場の実務感覚と乖離する問題が数多く含まれている。経営者は事業を正しく導くために原価を把握したいと願うが、伝統的な原価計算がその役割を果たしていないケースが散見される。以下に具体例とともに、その課題と新たな視点を紹介する。

伝統的な原価計算がもたらす不一致

原価計算は、商品別や部門別に行われることが多い。しかし、その方法が経営や戦略に有用であるとは限らない。実際、以下のような企業事例がある。

  • F社の例:ある月次損益において、販売数が少ない月が黒字で、売れ行きが良い月が赤字になるケースがあった。この現象は、利益と原価の関係が適切に反映されていないことを物語っている。
  • N社の例:商品ごとの原価計算が毎月の営業会議の中心議題となり、営業部門と製造部門の間で頻繁に対立が生じた。このように、乱高下する原価が経営の混乱を招くことがある。
  • T社の例:部門ごとに割り振られる共通費用の妥当性について、経理部門と意見が対立。管理部門や経理部門の増員負担を各部門に分担させる現状に、部門長は納得できない様子だった。

これらの問題が示すのは、伝統的な原価計算の限界である。会社全体の原価を見た場合、各部門における実務の感覚や利益の実態が反映されておらず、経営判断に支障をきたしているのだ。

新たな計算方法の提案

筆者が提案するのは、これまでの「固定費割掛け方式」にとらわれない、実務重視のシンプルな原価計算法だ。これは、次のような特徴を持っている。

  1. 現場主義に基づいたシンプルな計算:各部門が納得しやすく、実務に即した計算方法である。
  2. 戦略的な意思決定に使える:単なる経理処理としての原価計算に留まらず、事業戦略や成長戦略における指針として活用できる。
  3. 予測可能性の向上:未来に向けた予測を反映させることで、戦略的な意思決定に結びつけやすくする。

新たな計算方法の実務への導入

新しい方法を導入する際には、まず経理担当者が柔軟な考え方を持つことが求められる。また、経営者自身が原価計算に対して疑問を持つ視点を持ち、全社的に統一した見解を導くことが重要である。この新しい原価計算手法は、実務に役立ち、かつ経営戦略を強化するためのツールとして大いに活用できる。

結論

原価計算は、経営の指針となる重要な指標である。しかし、現行の伝統的な方法では、実務との乖離が生じやすい。筆者が提案する新しい原価計算のアプローチを導入することで、企業はより的確な経営判断を行い、成長と発展に向けた戦略を効果的に立てられるようになるだろう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次