MENU

正しい組織原理

この原理は、観念的な思考から生まれたものではなく、多くの実戦経験を通じて培われたものだ。人間の本質に深く根ざし、成功と失敗から得られた教訓を十分に反映している必要がある。まずはこの組織原理を理解し、自社の特性に適した組織を構築し、それを効果的に運営していくことが求められる。

組織原理の核心にあるべきものは、企業組織が持つ特性――すなわち変化に柔軟に対応する力――をしっかりと捉えたものでなければならない。その特性は企業の二面性に基づいている。一つは「お客様の要求を満たす」という本来的な使命を遂行する「サービス集団」としての側面、もう一つは競争相手と戦い、生き残るための「戦闘集団」としての側面。この二つの役割を同時に果たすことが求められる。

サービス集団としての基本的な認識は、「会社はお客様のために存在する」という点にある。社内のあらゆる考え方や行動は、お客様の要求を満たすことを出発点とし、最終的にはこの原点に立ち返るものでなければならない。

お客様の要求を満たすことは、時に手間がかかり、効率が悪く、費用も嵩むものだ。この現実をしっかりと受け止め、それでもなおお客様に全力でサービスを提供することが求められる。それこそが企業人としての責務であり、本質的な使命である。

さらに、お客様の要求は、決してこちらの都合を考慮するものではない。それはあくまでお客様自身の都合に基づいている。多数のお客様が、それぞれの立場から自分の都合だけを反映した要求をこちらにぶつけてくるのだ。

それらの要求が我社の実情に合わないのは当然のことだ。それどころか、これらの要求を満たす過程で、必然的に社内には混乱が生じる。だが、要求を満たさなければならない以上、この混乱は避けられないものだ。お客様の要求を満たすことによって生じる混乱もまた、企業活動の一部として受け入れるべき現実なのである。

しかし、伝統的な組織論はこれとは正反対の立場を取っている。そこでは、組織内の混乱を排除し、業務を円滑に処理することが基本的な理念とされている。

その結果として、どれほど多くのお客様の要求が無視され、信頼が失われ、気づかないうちに業績が低下しているかは計り知れない。

「社長たる者、お客様の要求を満たすために、自ら先頭に立ち、社内に混乱を巻き起こせ」というのが私の主張だ。これこそが企業が生き残るための唯一の道であるからだ。

会社の真の支配者はお客様であり、その命令は絶対だ。この絶対的な主権者の要求を満たすこと以外に、会社内に存在するものは何もない。会社の中にある自由とは、お客様の自由のみを意味する。我社の自由も、社員個々の自由も、そこには一切存在しないのだ。

「社員の自由意思を尊重する」というマネジメント理論は、会社という組織の本質を全く理解していない者による誤った考え方だ。それは会社の秩序を崩壊させ、最終的には企業を破綻に導く危険な思想である。

戦闘集団としての基本認識は、言うまでもなく「敵に勝つ」ことにある。敵の状況を把握し、自らを正確に理解することで、百戦しても危うくない体制と行動を確立することが求められる。

我社のすべて――商品力、販売力、供給力――は、常に敵との比較によって評価されるべきだ。革新力や変化への対応力もまた、敵を上回るものでなければならない。我社の過去の実績を対前年比のような指標で測るのは全くの誤りであり、競合他社との成長率や成果の比較によって初めて正しい評価ができるのだ。

すべての面で敵に勝るというのは現実的ではない。だからこそ、自社がどの部分で敵に劣っているのかを正確に把握し、その弱点を補うための戦略を練らなければならない。そして、その戦略を果敢な行動で実行し、最終的に敵を打ち負かす体制を築く必要がある。

それは、我社の総力を結集した「戦い」であり、まさに生死をかけた戦闘である。戦いである以上、総大将の総指揮のもと、一糸乱れぬ統率と行動を徹底しなければならない。

総大将の意に反する行動は一切許されない。限られた戦力で勝利を収めるためには、重要な戦略に戦力を集中的に投入することも必要不可欠であり、時にはそれ以外を犠牲にする覚悟も求められる。

当然、手薄な部分が生じることもあれば、犠牲を伴う場面も避けられない。全ての部隊長の顔を立てることなど不可能だ。それに加え、各部隊間の緊密な連携が不可欠であり、総大将が状況を見て振る采配に対しては、迅速に応答する必要がある。これが戦いというものだ。

伝統的なマネジメント論には、こんな発想は微塵も存在しない。あるのは、穏やかな春の日に野原でピクニックを楽しむような理想論だけだ。

ピクニックの理論だから、好き放題に言いたいことを言い、好きなように行動しても許されると思っているのだ。自由意志だの、能力に合った仕事だのと言い立てるが、人間の能力なんて測れるものではないことには目を向けない。結局、それは能天気な連中の戯言に過ぎない。「上から押しつけるべきではない」といった類の主張も含めて、次から次へと理想論が湧き出してくる。さて、これを実際にそのまま実行したら、一体どうなるのだろうか。

ある自動車販売会社があった。社長は非常に厳格な人物で、毎日早朝、自宅を出発し、営業所を回るのが日課だった。営業所長が出勤すると、すでに社長が所長室の椅子に座っているという状況が繰り返された。その結果、当然ながら業績は急激に向上していった。

この厳格な社長が栄転した後に就任した新しい社長は、部下たちの自由意思を尊重する方針を取った。その結果、社内の規律は次第に緩み、やがて営業部長までもが平日にゴルフを楽しむような状況に陥った。その結末として、会社は赤字に転落してしまったのだ。社員のほとんどが一流大学出身という優秀な人材だったにもかかわらず、である。

観念論者の主張とは裏腹に、これらの優秀な人材たちは、自由な雰囲気の中で意欲を燃やし、自発的に職務に取り組むことはなかった。人間とは本来、そういうものなのだ。そして皮肉なことに、社員たちから圧倒的な支持を集めていたのは、厳格だった前社長だったのである。

企業戦争の場では、観念論が通用する余地は全くない。どれほど困難であろうと、どれほど苦痛を伴おうと、逃げることも、やらずに済ませることも許されないのだ。自由意思などというものは、そもそも存在する余地すらないのである。

「楽しい職場」などという言葉を誰が言い出したのかは知らないが、戦場に「楽しい戦い」など存在するわけがない。それと同じで、真剣勝負の場に娯楽的な要素を求めるのは、的外れもいいところだ。

戦いとは、総大将の統率と指揮のもとで戦線を展開し、計画的に戦闘を遂行するものだ。個人の判断で自由に行動する余地などあるはずがない。そんな勝手な振る舞いが許されれば、戦いは必然的に敗北を招く。

企業組織が戦闘集団である以上、個人の自由は存在しない。一貫した作戦のもと、各自が与えられた部署でその豪勇ぶりを発揮するだけの存在であることを忘れてはならない。これが組織というものの本質だ。そして、組織の長である社長は、この原則と現実の二面性を十分に理解した上で、組織を指導し、運営していかなければならない。

これは言うのは簡単だが、実際に行うのは決して容易ではない。その理由は、組織というものが一度成立すると、「組織それ自体の存続」が最優先の課題になりがちな厄介な性質を持つからだ。その結果、他の要請や目的が後回しにされ、あるいは完全に無視されてしまうことがしばしば起こるのである。

さらに、組織が大きくなるにつれて、その「組織第一主義」の力は大きさの二乗に比例して強化されていく。この力が暴走すれば、会社の業績に深刻な悪影響を及ぼす危険性があるのだ。だからこそ、社長たる者は、この力に屈することなく、正しい組織を築き上げ、必要に応じて果断に改革していかなければならないのである。

正しい組織とは何か。サービス集団でありながら、同時に戦闘集団としての性格を持つ企業組織の在り方とはどのようなものなのか。この問いに答えるために、以下でその具体像について考察してみたいと思う。

正しい組織原理は、観念的な理論ではなく、現場の経験と実際の成功・失敗から導き出される原理である。この原理は、人間の性質に根ざし、企業の本質を踏まえたものでなければならない。企業組織の特性として、変化に柔軟に対応し、企業の二つの使命を果たすための二面性を持つ必要がある。この二面性とは、以下のように表される。

  1. サービス集団としての面
  • 企業の第一の使命は「お客様の要求を満たすこと」である。組織の考え方や行動の根底には、お客様のために何ができるかという視点がなければならない。社内での業務効率や組織内の整合性を優先させるのではなく、お客様のニーズに応えるための混乱も辞さない覚悟が求められる。
  • 顧客の要求を最優先にすることは、時に効率や能率を犠牲にすることを意味する。しかし、それこそが企業としての本分であり、結果的に会社の成長と顧客の信頼獲得につながる。
  • 組織のリーダーは、お客様のために社内で混乱を起こす覚悟を持つべきである。会社の真の支配者はお客様であり、社員や社内の自由意思は、顧客満足という絶対的な命令に従属するものである。
  1. 戦闘集団としての面
  • 企業は競合と戦い、市場での生存を勝ち取る必要がある。これには、商品力、販売力、供給力、革新力といったすべての力を「敵との比較」で評価しなければならない。対前年比といった内部の基準ではなく、競合他社との比較による目標達成が重要である。
  • 戦いにおいては、総指揮官である社長の指示に従い、緊密な連携のもとに行動することが求められる。戦略に集中するためには、すべての部署に均等な配慮は不要であり、戦略的に重要な領域にリソースを集中させることもある。組織が大きくなるほど、組織自体の維持が目的化しやすくなるが、常に「企業の本来の目的」を忘れずに運営しなければならない。

正しい組織とは

企業がサービス集団であると同時に戦闘集団としての役割を果たすために、組織には柔軟さと変革力が求められる。この正しい組織とは、「顧客の要求に応え、競争に打ち勝つ」ことを軸に、状況や時代に合わせて変わるものである。組織の長である社長がこの原理を理解し、常に最適な組織体制を追求する姿勢が、会社の発展と安定に不可欠である。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次