限界企業が直面する主な課題が外部環境、つまり市場の影響に起因する一方で、限界企業ではない規模の大きな企業にも、別種のリスクが存在します。それは、内部要因に起因するものです。これらのリスクを見過ごすと、いかに優位性を持つ企業であっても、やがては衰退への道を辿ることになりかねません。
1. 成功に安住するリスク:顧客軽視の危険性
市場占有率が高まり、独占的な地位を築いた企業が陥りやすいのは、成功への過信とその結果としての「顧客軽視」です。新商品や新技術の開発を怠り、顧客のニーズに応える努力を怠れば、サービスや製品の品質は低下します。一時的には競合が弱く、顧客が他に選択肢を見いだせない場合もありますが、優れた製品やサービスを提供する企業が新たに登場した途端、顧客はすぐにそちらへ移ってしまうでしょう。
市場でこうしたチャンスを見逃さないことが、特に新規参入企業や中小企業にとっての成功の鍵です。大手の弱点を的確に分析し、品質、配送、アフターサービスといった重要な領域で改善を図ることが、大手を脅かす戦略として有効です。実際、競合他社の見落としを突くことで、予想以上の成果を得る事例も少なくありません。
2. 過信による失敗:環境変化への鈍感さ
歴史や業界の事例は、優位性に安住する企業がどのような結末を迎えるかを物語っています。武田勝頼が鉄砲の重要性を軽視して滅亡した戦国時代のエピソードや、日東化学が肥料需要の安定性を過信して業績悪化に至った例などがその代表です。また、アメリカ自動車業界は石油ショック後も大型車に固執し、燃費の良い小型車を求める市場の声を無視した結果、日本車に市場を奪われました。さらに、ガソリン価格が下がるや否や再び大型車に注力するという姿勢は、自らの失敗から学んでいないことを露呈しています。
市場環境は絶えず変化しています。その変化に対応できない企業は、規模の大小を問わず衰退していくのが避けられない現実です。
3. 社長交代がもたらす脆弱性
もう一つのリスクは、企業の成功が一人のカリスマ的リーダーに依存している場合に生じます。特に、社長が退任した際に次世代のリーダーが育っていない場合、企業は急速にその競争力を失います。赤井電機が創業者の引退後に衰退し、最終的に三菱グループに吸収された事例はその典型です。
このリスクを回避するには、後継者を計画的に育成することが不可欠です。日清紡績の宮島清次郎氏が、社長の定年を60歳に定めたように、経営者は早い段階から後進に道を譲る準備を整えるべきです。
4. 大手参入による「モルモット化」
特定の市場で先行して成長を遂げた中小企業が、大手企業の参入によって衰退する現象も見逃せません。石油ストーブ市場がその典型例です。市場が拡大し、社会的な地位を確立した瞬間、大手家電メーカーが次々と参入し、初期に市場を切り開いた中小メーカーを淘汰してしまいました。これにより、大手が市場の果実を収穫する一方で、中小企業は「モルモット」のように利用され、限界企業へと追い込まれる結果となりました。
経営者への教訓:戦略と適応力が成功を決める
いかなる企業であっても、顧客に選ばれる努力を怠ることはできません。また、市場の変化に迅速に適応し、内部の弱点を克服することが不可欠です。さらに、自社の商品やサービスが「大衆消費財」に該当する場合、大手の参入を想定した戦略を練る必要があります。
規模や成功に甘んじることなく、常に市場と顧客の動向に目を向け、将来を見据えた準備を怠らないこと。それが、限界企業だけでなく、大手企業にとっても成長と存続を可能にする道と言えるでしょう。
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