収益性を分析する際、伝統的な「全部原価計算」がどれほど誤解を生む可能性があるかを明らかにするため、〈第5表〉を基に具体的な計算を見てみましょう。この計算を通じて、事業運営における重要なポイントが浮き彫りになります。
目次
商品別損益計算の基本
まず、A商品とB商品の収益構造を整理します。
- A商品
売価 – 変動費 = 加工高
100円 – 70円 = 30円 - B商品
売価 – 変動費 = 加工高
160円 – 120円 = 40円
次に、これらを基にした各商品の収益を計算します。
- A商品の収益
加工高30円 × 10個 = 300円 - B商品の収益
加工高40円 × 10個 = 400円 - 合計収益
300円 + 400円 = 700円
全体の損益をまとめると次のようになります。
- 全体の損益計算
収益 – 費用 = 利益
700円 – 570円 = 130円
これにより、この会社の利益は130円であることがわかります。
商品構成変更の影響
続いて、商品構成を変更した場合の収益変動を検討します。
商品構成を変更した場合の収益差
- B商品10個の販売をやめて、A商品を10個増やした場合
- 収益差 = (B商品の加工高 – A商品の加工高) × 10個
- 収益差 = (40円 – 30円) × 10個 = -100円 この結果、元の利益130円が30円に減少します。
- A商品10個を減らし、B商品を10個増やした場合
- 収益差 = (B商品の加工高 – A商品の加工高) × 10個
- 収益差 = (40円 – 30円) × 10個 = +100円 この場合、利益は130円から230円へと増加します。
全部原価計算の問題点
これらの結果から、B商品の方がA商品よりも収益性が高いことは明らかです。しかし、「全部原価計算」では、固定費を商品の数量に基づいて機械的に按分するため、以下のような問題が生じます。
- 収益性の歪曲
固定費を「一個当たり」に割り振ることで、本来収益性の高いB商品が不当に低く評価される場合があります。その結果、A商品を増やすべきだという誤った結論に導かれます。 - 事業全体の収益構造を無視
会社にとって重要なのは、「一個当たり」の収益ではなく、事業全体でどれだけ収益を上げ、どれだけ費用がかかっているかという全体像です。全部原価計算はその全体像を歪める要因となります。 - 意思決定の混乱
全部原価計算の結果に基づいて商品構成を変更すると、実際の収益性を無視した誤った経営判断が行われるリスクが高まります。
真の収益性を把握するために
「全部原価計算」の代わりに、次のような方法を採用することで、事業の全体像を正確に把握し、意思決定の精度を高めることが可能です。
- 変動費と固定費を分離
商品別の収益性を評価する際、変動費のみに基づいて計算を行い、固定費は全体の管理費用として別途考慮します。 - 会社全体の収益管理
各商品の収益性を比較するだけでなく、会社全体の収益と費用のバランスを重視します。このアプローチにより、事業全体の健康状態を把握できます。 - 柔軟な経営戦略の導入
商品別の加工高や需要動向を分析し、柔軟な商品構成を導入することで、全体の収益を最大化します。
結論:全体像を見失わない原価計算の重要性
会社にとって本当に重要なのは、「一個当たり」の計算ではなく、「会社全体としての収益性」です。全部原価計算はその本質を歪め、誤った判断を誘発する危険性があります。事業運営の精度を高めるためには、全体の収益構造を正確に把握する新たな原価計算アプローチを採用し、意思決定を支える正確なデータを構築することが不可欠です。
会社の未来を守るためには、「真実の姿」を見失わない経営が必要なのです。
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