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援助を受けるかどうかは、金額ではなく、関係性と状況によって判断する

弟子の陳臻が孟子に尋ねた。「斉で王から百鎰(りつ)の金を贈られた際には受け取られませんでしたが、宋では七十鎰、薛では五十鎰の贈り物を受け取っておられます。もし斉での受け取らなかった対応が正しいのなら、宋と薛での受け取りは不正であり、逆に後者が正しいなら、斉での対応は誤りとなります。先生はどちらが正しいとお考えですか?」

一見すると、これは「矛盾」に映るかもしれません。しかし孟子が伝えようとするのは、形式的な一貫性ではなく、道義にかなう判断の柔軟さです。

贈り物を受け取るか否かは、その金額ではなく、「それがどのような意図で贈られたか」「どのような関係性の中で贈られたか」によって判断されるべきものであり、すべての状況に同じ答えが適用されるわけではありません。

つまり孟子の答えは、「正しさはその都度の文脈において決まる」という、道徳的状況主義とも言える態度です。


原文(ふりがな付き引用)

陳臻(ちんしん)問(と)うて曰(い)わく、

前日(ぜんじつ)、斉(せい)に於(お)いて、王(おう)、兼金(けんきん)一百(いっぴゃく)を餽(おく)りしも、而(しか)も受(う)けず。

宋(そう)に於(お)いては、七十鎰(しちじゅういつ)を餽(おく)られ、而(しか)して受(う)く。
薛(せつ)に於(お)いても、五十鎰(ごじゅういつ)を餽(おく)られ、而(しか)して受(う)く。

前日(ぜんじつ)の受(う)けざるが是(ぜ)ならば、則(すなわ)ち今日(こんにち)の受(う)くるは非(ひ)なり。
今日(こんにち)の受(う)くるが是(ぜ)ならば、則(すなわ)ち前日(ぜんじつ)の受(う)けざるは非(ひ)なり。

夫子(ふうし)必(かなら)ず一(いつ)に此(こ)れに居(お)らん。


注釈(簡潔な語句解説)

  • 兼金:質の高い金属。ここでは王からの贈り物の象徴。
  • 鎰(いつ):古代中国の重量単位。一鎰はおよそ250グラム程度とされる。
  • 居らん:どちらかに立場を定めなければならない。

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  • context-matters-in-giving(贈り物は文脈で判断される)
  • not-all-gifts-are-equal(すべての贈り物が同じではない)
  • situational-ethics-in-aid(援助の道徳は状況により変わる)

この章句は、単純な原理主義ではなく、儒家思想における“時・処・位”をわきまえた判断の重要性を示しています。孟子の道徳観は、表面的な一貫性よりも、深い倫理的整合性を大切にしているのです。

1. 原文

陳臻問曰、前日於齊、王餽金一百而不受;於宋、餽七十鎰而受;於薛、餽五十鎰而受。
前日之不受是、則今日之受非也;今日之受是、則前日之不受非也。
夫子必居一於此矣。


2. 書き下し文

陳臻(ちんしん)問いて曰(いわ)く、
「前日、斉(せい)に於いては、王、兼金一百を餽(おく)りしも、受けず。
宋に於いては、七十鎰(しちじつ)を餽られて受け、
薛(せつ)に於いても、五十鎰を餽られて受けた。

前日の受けざるが是(ぜ)ならば、今日の受けるは非(ひ)なり。
今日の受けるが是ならば、前日の受けざるは非なり。

夫子(ふうし)必ず一(いつ)に此(ここ)に居(お)らん。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「前日、斉において、王が金一百を贈ったが受けなかった」
     → 以前、斉の王から金100を贈られたが、それを受け取らなかった。
  • 「宋では七十鎰を贈られて受け取り、薛でも五十鎰を贈られて受け取った」
     → 他の国ではより少額の金を受け取っている。
  • 「もし斉で受けなかったのが正しいなら、宋や薛で受け取ったのは間違いになる」
     → 同じ行動基準で考えると、一方が正しいなら、もう一方は誤りになる。
  • 「逆に、今日の受け取りが正しいなら、以前の拒絶は誤りとなる」
     → 一貫性がないように見える。
  • 「先生はどちらか一方に立場を定めるべきではないでしょうか」
     → あなた(孟子)はどちらか一方に態度をはっきりさせるべきだ。

4. 用語解説

  • 陳臻(ちんしん):孟子の弟子の一人。率直に問いかける役割。
  • 餽(おくる):贈り物として与えること。特に金品。
  • 鎰(いつ):重量の単位。一鎰はおおよそ500g前後。
  • 兼金:貴金属のこと。ここでは贈与される価値ある財宝。
  • 是・非:正しい/誤りという意味で使われている。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

陳臻が孟子に質問した:
「先生は以前、斉で王から贈られた金100を受け取らなかったのに、宋では70鎰、薛では50鎰を受け取っておられます。
もし斉で受け取らなかった判断が正しかったのなら、今の受け取りは誤りです。
反対に、今の受け取りが正しいのなら、以前の拒否が誤りということになります。
先生は、どちらか一方の立場をはっきりされるべきではないでしょうか?」


6. 解釈と現代的意義

この問いは、一貫性・原則・柔軟性に関する普遍的なテーマです。

孟子はここで回答するにあたって、後の章句で**「相手の動機・状況・政治的意図を見て判断した」**と説明します。

  • 斉の王からの金は「買収」の意図があったため受け取らなかった。
  • 一方、宋や薛での贈与は孟子への尊敬や正当な謝礼であり、仁政を実現する上で害がないと判断した。

つまり、孟子の判断基準は**「外形」ではなく「内実」**にある。

これは、「形式的な一貫性」よりも、「道義的な本質」を優先する孟子の柔軟な原則観を表しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「形式的な一貫性」ではなく、「状況判断の原則性」

  • 同じ行動(例:贈与の受領)でも、相手の意図・背景・関係性によって受け取るべきか否かが変わる。
  • ルールよりも、その背後にある「信義」を見る力が重要。

✅ 「行為の見た目」より、「動機と目的」を問う

  • 表面的には矛盾する行動も、「正しい目的と誠実な動機」に基づいていれば、道義にかなう。
  • 信頼できる人物とは、「何をしたか」よりも「なぜそうしたか」で判断すべき。

✅ 「原則を持ちつつ、硬直しない柔軟さ」

  • 場合によって受け取る/受け取らないを切り替えるには、「何を基準にするか」を明確にすることが求められる。
  • 組織の中でも、「例外をどう扱うか」が真のガバナンス力を問われる。

8. ビジネス用の心得タイトル

「原則に生きて、形式に縛られず──“真の一貫性”とは動機に宿る」


この章句は、現代のビジネスにおける判断力・リスクマネジメント・信頼構築にも応用できる知恵を含んでいます。

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