製造業において、「内製」か「外注」かの選択は、経営判断における重要なテーマです。一般的に、「外注のほうがコストを抑えられる」という考え方が広く受け入れられています。
外注先の人件費が低いことや、管理費などの間接経費が自社より安いという理由がその背景にあるとされています。
しかし、外注のコストが必ずしも内製より安いと断定するのは早計です。
経理的な計算結果だけでなく、品質、供給の安定性、そして長期的な経営戦略まで考慮した上で判断する必要があります。
本記事では、具体例をもとに外注と内製の比較ポイントを整理し、正しい判断基準を探ります。
内製と外注のコスト比較:〈第14表〉の例題
〈第14表〉では、ある製品の内製と外注における1単位あたりの原価が比較されています。
- 外注コスト
外注の場合、材料費は内製より高いものの、人件費や間接経費が大幅に抑えられています。さらに、外注工場の利益を含めても単価は68円に収まっています。 - 内製コスト
内製では、正味原価の段階で既に78円となり、外注より10円高い結果となっています。
一見すると、外注のほうが圧倒的にコストが安く見えます。しかし、この結論に飛びつくのは危険です。
内製のコスト構造を細かく分析し、「変わるもの」と「変わらないもの」を区別する必要があります。
「変わるもの」と「変わらないもの」を見極める
内製と外注を比較する際、コストのうち何が「変わるもの」で、何が「変わらないもの」なのかを正確に把握することが重要です。
内製における「変わるもの」
原材料費
内製で新たに必要となる原材料費。
新規採用者の人件費
製造を進めるために新たに雇用した人員の人件費。
固有固定費
内製に伴い新たに発生する設備投資や特別な経費。
内製における「変わらないもの」
既存の設備や人員に関わる固定費(減価償却費、既存社員の基本給など)は、内製か外注かにかかわらず発生し続けます。
この区分に基づき、内製で増加するコストを計算すると、総額は58万円であり、外注コストの68万円よりも10万円安い結果となりました。
このように、固定費を過剰に割り掛けた計算では内製のコストが高く見えてしまいますが、実際には内製の方が有利である場合もあるのです。
損益分岐点の計算
内製が外注よりも有利になるかを判断する際には、「損益分岐点」を計算することが効果的です。損益分岐点は、内製に伴う固定費増加分と外注費の節約額が一致する生産数量を指します。
〈第15表〉に示された計算式を用いると、損益分岐点は以下のように算出されます:
- 損益分岐点の数量:4,400個
この基準をもとに、内製か外注かを判断するべきです。ただし、この損益分岐点はあくまで経理的なコスト比較の結果に過ぎません。これだけで「内製が良い」「外注が良い」と結論を出すのは不十分です。
判断における経理以外の要素
経理的なコスト計算は重要な要素ではありますが、それだけでは十分ではありません。内製か外注かの選択において考慮すべきその他の要素を挙げます。
- 品質管理
外注では品質基準の管理が難しい場合があります。一方、内製では自社で直接品質を管理できるため、安定した製品を提供しやすいです。 - 供給の安定性
外注先に依存すると、供給が途絶えたり、納期の遅れが発生するリスクがあります。内製では自社でコントロール可能です。 - 長期的な経営戦略
短期的なコスト削減だけでなく、自社の競争力や事業の持続性を考慮した判断が求められます。
「設備を持たないメーカー」という選択肢
長期的な経営戦略の一環として、「設備を持たないメーカー」という柔軟な経営モデルを検討することも有効です。このアプローチでは、固定資産への依存を減らし、資源を柔軟に活用することで、市場の変化に迅速に対応できる体制を整えることが可能です。
特に、石油ショック以降の長期不況や不確実な経済状況において、多くの企業が設備投資の負担に苦しみました。こうした経験から、設備に依存しない経営モデルが重要性を増しています。
まとめ:内製と外注の選択は総合的な判断が必要
「外注が安い」「内製が高い」といった表面的な比較だけで判断するのは危険です。経理的なコスト比較は重要な指標ですが、それだけでは十分ではありません。品質、供給の安定性、経営戦略などの要素を総合的に考慮した上で、判断を下すべきです。
内製と外注をどう位置づけるかは、企業の将来像や競争力に直結する重要な経営課題です。短期的なコスト削減にとらわれず、長期的な視点を持って、柔軟かつ戦略的な判断を行うことが、持続可能な事業運営を支える鍵となるでしょう。
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