N社は特大機械を主力とする中小メーカーでありながら、価格競争の激化と業界内の力関係によって苦境に立たされていた。しかし、自社の営業力を見直し、戦略的な市場拡大に取り組むことで、競争を乗り越える道を切り開いた。その取り組みを以下に整理する。
1. N社が直面した問題
価格競争による採算悪化
- 市場構造: 狭い市場でほとんどの案件が競争入札で決定。結果として、特大機械の価格がトン1,000円から700円にまで引き下げられる。
- 赤字の常態化: 特大機械事業が慢性的に赤字となり、他の事業収益で補填する状況に。
業界構図の不利
- A社・B社連合: 業界1位のA社と2位のB社が情報を共有し、価格調整を行う共同戦線を形成。
- C社の存在: A社系列のC社が加わり、N社は「A・B・C連合軍」と競争する形に。
営業力の欠如
- N社の営業活動は代理店である商社任せで、独自の顧客開拓や競争戦略がほぼ皆無。
- 「職人会社」として製品製造には長けているものの、営業や市場戦略に疎い体質が問題だった。
2. 問題の本質と競争戦略の再構築
業界内の価格構造の分析
調査の結果、A社とB社が 東日本でトン1,800円 の高価格で製品を販売し、その利益を基に 西日本でトン700円の低価格政策 を展開していたことが判明。N社が西日本市場に閉じこもり続ける限り、この価格競争から抜け出すことは不可能だった。
営業力の強化
私は次のように提案した。
「営業活動を行わない事業経営は経営とは言えない。商社任せにせず、自社専属のセールスマンを育成し、顧客に直接アプローチする体制を整えるべきだ。」
- 営業力を強化し、顧客との直接接点を増やすことで、市場の声を吸い上げ、競争の主導権を握る。
- A社・B社の営業状態を徹底的に調査し、それに基づいた戦略を立てる。
東日本市場への進出
「西日本で価格競争に翻弄されるのではなく、A社とB社が高価格で収益を上げている東日本市場に進出し、相手の資金源を削ぐべきだ。」
- ターゲット戦略: 東日本市場で トン1,300円 という価格を武器に攻勢をかける。
- 直接営業の展開: セールスマンを東日本に派遣し、エンドユーザーに直接アプローチ。重要な顧客は社長自らが訪問。
- 目的: A社・B社の高収益市場を揺さぶり、西日本での低価格政策を継続できなくする。
3. 実行と効果
東日本での成果
N社がトン1,300円の価格で東日本市場に参入した結果、A社とB社の顧客に強烈な印象を与えると同時に、相手の高収益構造に大きな打撃を与えた。
- 顧客への影響: A社とB社の価格(1,800円)より500円も安い価格がエンドユーザーに注目され、市場での存在感が急速に高まった。
- 競合への衝撃: N社の攻勢により、A社とB社は資金源となる東日本市場の収益性が揺らぎ、焦りが見られるように。
西日本での反応
A社とB社はすぐにC社を使い、西日本でトン600円というさらに安い価格を提示。この対応力は、相手の情報網と戦略的思考が強力であることを示していた。
4. 教訓と次の一手
1) 営業力の重要性
- 自社の営業力強化: 代理店任せではなく、直接営業を行うことで市場の主導権を握る。
- 戦略的な営業活動: 市場分析に基づき、ターゲットを明確化したアプローチが必要。
2) 相手の弱点を突く
- 資金源への攻撃: 相手の高価格市場に進出することで、競争力の根本を揺さぶる。
- 情報収集の徹底: 競合の戦略を詳細に分析し、それに基づいて自社の戦術を調整する。
3) 長期的視点での市場拡大
- 西日本市場での戦い方: 無理な価格競争には参加せず、品質やサービスの向上で差別化を図る。
- 全国的な展開: 東日本市場での拡大を足掛かりに、全国規模での市場シェア獲得を目指す。
5. N社が得た成果と未来への期待
N社は東日本市場への進出と営業力強化により、価格競争の泥沼から抜け出すための第一歩を踏み出した。この戦略は短期的な勝利にとどまらず、長期的な収益向上と市場シェア拡大への可能性を示している。
この事例は、競争が激化する市場においても、冷静な分析と戦略的な行動が企業を生き残らせる鍵となることを教えてくれる。N社のように、既存の体制を見直し、新たな挑戦を受け入れることで、どんな困難な状況でも道は切り開ける。
コメント