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社名が販売を阻害していないか

浅川ガラスという会社がある。ただガラスだけでは立ち行かないと考え、プラスチック事業にも手を広げた。ところが、プラスチック製品を売り込もうと名刺を渡すと、「ガラス屋さんなんですね。プラスチックは片手間ですか」と言われる始末。営業部長は、そのたびに営業活動の難しさに頭を抱えていた。

「いっそ社名を変えて、帥浅川とかにしてしまえばいいんじゃないか」と提案してみたところ、営業部長は苦笑いしながらこう答えた。「社長に社名変更をお願いすると、決まってこう言われるんだ。『俺の目の黒いうちは絶対に許さん。何を言われようと、うちはガラスで創業した会社だ』ってね。」その揺るぎない信念に、誰も口出しできないらしい。

社名というものは、特定の商品をそのまま表す名前(例えば「加美の素」)や、特定の商品を連想させる名前(「キスミー」など)だと、新商品や新事業を展開する際に不都合を生じやすい。特に、その商品が強力であればあるほど、その弊害は顕著になる。社名がブランドとして固定化される一方で、新しい挑戦の障壁となりかねないのだ。

事業が成長して新しい分野を取り入れたり、方向性を転換する際、社名が顧客に与える固定的なイメージが障害になることがある。そのため、社名を変更する企業は少なくない。たとえば、東洋レーヨンは東レに、鐘淵紡績は鐘紡に名前を変えることで、新たなステージへの足がかりを作っている。社名変更は、ブランドの刷新や柔軟な事業展開の一環として重要な戦略のひとつだ。

社名を変更することで、特定の事業との直接的な結びつきを断ち切ることができる。たとえば、矢崎総業のような名前は、特定の事業から巧妙に距離を置きつつ、「大きな会社」といった漠然としたスケール感を漂わせるのに成功している。一方で、「トピー」のような名前になると、もはや何の事業を手がけているのか全く想像がつかない。こうした抽象的な社名は、企業の多角化や柔軟なイメージ形成に有効だといえる。

同じ二輪車を製造していても、山口自転車と鈴木自動車では大きな違いが生じた。山口自転車の場合、社名が「自転車屋の作った二輪車」というイメージを顧客に植え付けてしまったのだ。一方で、鈴木自動車のような名前には、二輪車だけでなく自動車全般を手掛ける可能性や技術力の幅広さを想起させる余地があった。この違いが、顧客の信頼やブランドの認知に大きく影響を与えたといえる。

会社の中身や商品の品質が良ければ、社名なんて関係ないと思うのは自由だ。しかし、顧客に与えるイメージを軽視すれば、予想もしない形で事業経営に悪影響を及ぼすことがある。社名はただの看板ではなく、顧客が企業をどう認識するか、どんな期待を抱くかに直結する重要な要素なのだ。イメージ戦略を怠れば、優れた商品やサービスがあっても、その価値を十分に伝えられないこともある

感傷的なこだわりから、頑なに現在の社名を守り続けるのは賢明とはいえない。重要なのは、社名そのものではなく、それが業績にどう影響を与えるかだ。時代や事業内容に合わなくなった社名を抱えたままでは、成長の足かせになることもある。柔軟な発想でイメージを刷新し、顧客にとって魅力的な企業として認識されることが、長期的な成功につながる。

「社名が販売を阻害する」という問題は、会社が新たな製品や事業に進出するときに顧客のイメージが固定化され、販売に悪影響を及ぼす可能性があることを示しています。たとえば、浅川ガラスの例では、社名が「ガラス」のイメージに固執しており、プラスチック製品への進出が副業扱いされ、営業活動が難航しています。

この問題に対処するためには、以下の方法が考えられます:

  1. 社名変更:特定の製品や業界にイメージが限定されない社名に変えることで、新たな分野への進出に柔軟性を持たせることができます。例えば、鐘紡が「鐘淵紡績」から「鐘紡」へ、東洋レーヨンが「東レ」に変更したように、製品や業界から切り離した社名にすることで顧客のイメージを更新できます。
  2. ブランドや部門の分離:社名変更に抵抗がある場合は、ブランドや事業部の名称を別にする方法も有効です。既存の社名に加えて、「浅川プラスチック」といった新ブランドを設けることで、顧客に異なる事業として認識してもらえます。
  3. 顧客イメージの再構築:広告や販促活動を通じて、会社がガラスに限らず多様な素材を扱う企業であることを強調することも一つの手段です。これにより、現行の社名を維持しつつも、異なる分野への進出を顧客に受け入れてもらえる可能性が高まります。

社名は、顧客の認識に影響する重要な要素です。事業の発展を妨げる要因になっている場合は、柔軟に対応することが求められます。

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