――士たる者、楽を望まず、義を行うべし
孔子は、「士(し)」――すなわち志をもって世に仕える人物のあり方について、こう語った。
「士にして居(きょ)を懐(おも)えば、以て士と為すに足らず。」
つまり、「士」を名乗る者が、安楽な暮らしや居心地の良い地位を求めていては、本物ではないということ。
孔子がここで強調しているのは、“士”とは社会や他者のために自らを律し、時に困難に身を置いてでも道を貫く覚悟を持つ存在だということ。
ただ安らぎや快適さを求めるだけの人は、その名にふさわしくない。
地位や住まいではなく、志と行動によってその人が“士”であるかどうかが決まる。
それがこの一句の核心である。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、士(し)にして居(きょ)を懐(おも)えば、以(もっ)て士と為(な)すに足(た)らず。」
注釈:
- 士(し) … 志をもって世に仕えようとする人物。知識や人格を高め、社会に貢献する者。
- 居を懐う(きょをおもう) … 安楽な生活、安定した地位や場所を望むこと。ここでは現状に甘んじる姿勢のこと。
- 足らず(たらず) … ふさわしくない、資格がない。
1. 原文
子曰、士而懷居、不足以爲士矣。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、士(し)にして居(きょ)を懐(おも)えば、以(も)って士と為(な)すに足(た)らず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子曰く、士にして居を懐えば」
→ 孔子は言った。「士(ここでは志ある人物)が安逸な生活ばかりを望むならば、」
「以て士と為すに足らず」
→ 「その者は真に“士”と呼ぶに値しない。」
4. 用語解説
- 子曰(しいわく):孔子が語ったことば。
- 士(し):道義や理想を追い求める知識人・指導者層。ここでは「志ある人物」「理想を持って社会に貢献すべき人」を意味する。
- 居(きょ):安穏な生活・家庭の快適さ・物理的な安住。
- 懐(おも)う/懐く(いだく):恋い慕う、執着すること。
- 以て〜に足らず:「〜とするに値しない」「〜の資格がない」という否定評価。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「志ある人物でありながら、安穏な生活や快適さばかりを求めているようでは、
その者は真に“士”と呼ぶにはふさわしくない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、志をもって行動すべき人物が、“ぬるま湯”に甘んじることの危険性を指摘した言葉です。
- 「士」はただの学者や知識人ではなく、社会に貢献する責任と行動力を持つ存在。
- その士が、困難や挑戦よりも“快適さ”や“保身”を優先するならば、それは本来の姿ではない。
- 孔子の思想において、真の人物とは、安住を捨てて世のために尽くす覚悟がある者です。
現代にも通じる、「使命感と責任ある行動」を求める強いメッセージです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「安定志向だけの管理職はリーダーに非ず」
- 上のポジションにいながら、新しい挑戦や難題を避け、地位に甘んじている人物は、真のリーダーではない。
- “士”とは、立場にふさわしい使命と行動力を持った人材。
✅「ぬるま湯体質は組織を衰退させる」
- 居心地の良い環境に執着し、改善を怠る風土は、長期的には組織の成長を妨げる。
- 真に必要なのは、「現状を疑い、より良くしようとする士気」。
✅「志を忘れた“士”は肩書だけの存在」
- 資格・地位・経験があっても、「現状維持しか考えていない人」は、名ばかりのプロフェッショナル。
- 孔子が求めたのは、行動する志と覚悟を持った人物像。
8. ビジネス用の心得タイトル
「ぬるま湯に安住するな──“士”の名に恥じぬ覚悟を持て」
この章句は、現代の企業人・特に管理職や専門職にとって、
**「立場が人をつくる」のではなく、「志と行動がその人物を証明する」**ことを強く示しています。
使命ある立場にある者は、安易な居心地の良さに甘んじず、
常に「社会や周囲への責任」「改善への情熱」を胸に持ち続けるべきである──それが、孔子の求めた“士”の姿です。
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