単品経営は、ある特定の商品に依存して成長を遂げるビジネスモデルですが、その成功の影には大きなリスクも潜んでいる。
市場における競争の激化や顧客の嗜好の変化、またパテント切れによる競合参入など、単品経営にはさまざまな脆弱性がある。
本記事では、アンネやカルビー製菓の事例を通じて、単品経営がもたらす危険性と、そのリスクを軽減するための方策について考察する。
セクション 1: 単品経営のリスク
衛生ナプキンというアイディア商品を開発し、高収益・高成長を誇っていたかつてのアンネの破綻は、「単品経営」の危険性について私たちに警鐘を鳴らしている。
どれほど優れたアイディア商品であっても、高収益を生む商品であっても、その優位性を長期間維持することはほぼ不可能である。
その理由の第一は、後発業者が次々と現れることで競争が激化する点にある。商品が優れていればいるほど、多くの企業がその市場に参入してくるからだ。
アンネの場合、新たな装いを凝らした「チャーム」という商品に市場を奪われる形となった。
その一因として、アンネというブランド名があまりにも有名になり過ぎた結果、ブランド名自体が女性の生理を連想させるようになり、これが購買心理においてマイナスに働いたという説がある。
有名な小説のヒロインの名を取って付けられた「アンネ」は、時間が経つにつれて、当初のイメージとは異なるものになってしまったのである。
第二の理由としては、顧客の好みの変化による売上の減少が挙げられる。
単品経営の多くの経営者は、その商品が永遠に売れ続けるものと信じ込んでいるため、顧客の嗜好が変わり売上が落ちる可能性については考慮しないことが多い。
その結果、現在の商品の売上減に備えて次の商品を準備するという対策がほとんど取られていない。
そのため、顧客の好みが変わり、売上が下がり始めるという予期していなかった事態に直面して初めて慌てることになる。しかし、こうなってからでは手遅れなのである。
世の中に、永久に売れ続ける商品など一つも存在しない。しかし、自社の商品が永遠に売れると信じ込み、現在の好調に酔って次の商品開発を怠る経営者は少なくないのである。
このことは、単品経営に限らず、特定の商品に売上が偏り、他の商品があまり売れていない場合にも当てはまる。
Dガラスの倒産は、ヤクルトの瓶に売上が大きく依存していたことが原因である。ヤクルトの瓶がプラスチック製に切り替わった瞬間に売上が急減し、最終的に倒産に追い込まれてしまったのだ。
セクション 2: 成功しすぎる危険性
カルビー製菓は、戦後の菓子業界における場外ホームランとも言える「かっぱえびせん」の開発により、爆発的な成長を遂げた企業である。菓子業界ではまれに見る高収益商品である「かっぱえびせん」によって、高い業績を誇る優良企業となっている。
しかし、この優良企業には大きな潜在的リスクがある。というのも、「かっぱえびせん」が売上に占める割合が非常に高いため、実質的には単品経営と大差ない状況にあるからだ。
「かっぱえびせん」が永遠に顧客の好みに合い続ける保証はどこにもない。むしろ、いつ顧客の好みが変わるか予測できないのが現実だ。もし顧客の嗜好が変わった時には、一気に売上が落ち込み、大きな危機に直面する可能性がある。
このようなリスクは「成功しすぎる危険」とも呼ばれる。そして、カルビー製菓がこの危険をカバーするために手掛けたのが「ポテトチップス」である。
新商品は、成功すればするほど良いというわけではないことがご理解いただけるだろう。商品の成功によって売上に占める比率が大きくなりすぎると、それに伴うリスクも増大することを忘れてはならない。しかし、「ほどよく成功する」などという絶妙なバランスを保つのは容易なことではない。
セクション 3: パテントに依存するリスク
経営とは、つくづく難しく厄介なものだと感じる。成功しすぎた危険によく似たリスクに、「パテントで守られた危険」というものがある。
これは、特許が切れた瞬間に訪れるリスクのことである。吉野工業が持っていたプラスチックの「ブロー・ホール成型法」は、パテントが切れた途端に各社が一斉に製造に乗り出し、競争が激化した。
たちまち過当競争が起こった。幸いにも、同社はこの製法に大きく依存していたわけではなかったため、大打撃を受けることはなかったが、もし大きく依存していたならば、深刻な事態になっていただろう。
中小企業はパテントの強みを持っていると、その優位性に甘んじてしまい、パテントが切れた時のことを考慮しない傾向がある。いざ特許が切れる段階になって初めて気付き、慌ててももう手遅れなのである。
セクション 4: 飛びつく危険と過当競争
ところで、パテントが切れた時には、その特許を持っていた会社にとって危険なだけでなく、それに飛びつく他の会社にもリスクが伴う。
この「飛びつく危険」によって、過当競争や市場の飽和が引き起こされ、利益が思うように得られない可能性がある。
A社に協力していた際、ブロー・ホール成型法のパテントが間もなく切れるので、我が社でも参入したいと相談を受けた。
私はそれをやめるように勧告した。というのも、A社よりもはるかに規模の大きい企業が次々と参入の準備をしており、すぐに過当競争に陥り、価格が崩れることは明らかだったからである。
セクション 5: 変化への備えと経営者の役割
単品経営の危険については、拙著『社長の条件』にも具体例を挙げている。たとえば、主要な取引先の方針変更によって倒産の危機に瀕した会社の話や、警報器の使用制限令によって大きな打撃を受けた会社の話などがそれにあたる。
世の中は、いつ、どのように変わるか分からない。今は順調であっても、決して安心できるものではない。
まだ変化が訪れていないうちに、「現在の我が社の商品は、いずれ斜陽化するかもしれない」という認識を持ち、その変化に備えておくことこそ、社長にとって重要な役割の一つである。
まとめ
単品経営は、短期的な成功を収めることができても、長期的な成長を保証するものではない。
市場競争の激化や顧客の好みの変化、特許切れによる新規参入などのリスクに備え、経営者は単一商品に依存する危険性を常に認識しなければならない。
持続的な成長のためには、変化を見越した複数の商品開発やリスク管理が欠かせません。変化が訪れる前に備えることこそが、経営者に求められる重要な役割である。
コメント