人からどれほど深い恩を受けても、それには報いようとしない。
しかし逆に、他人から少しでも害を受けたり、自分が不快に思ったりした場合には、
その怨みがどれほど些細なものであっても必ず報復しようとする――そんな態度をとる人間がいる。
また、人の悪いうわさについては、根拠が曖昧で裏が取れていなくても、すぐに信じてしまう。
一方で、誰の目にも明らかに見えるような善行については、なぜか疑ってかかる。
こうした人物は、まさに**「薄情さ(冷酷さ)」の極み、「狭量さ」の最たるもの**であり、
人として最も戒めるべき性質を持っていると言える。
このような態度は、徳を損ない、信頼を失い、人間関係を壊し、自分の魂を蝕む。
だからこそ、「恩に厚く、怨みに鈍く」「悪よりも善を信じる」心構えこそが、人格者たる者の姿勢である。
原文(ふりがな付き)
「人(ひと)の恩(おん)を受(う)けては、深(ふか)しと雖(いえど)も報(むく)いず。
怨(うら)みは則(すなわ)ち浅(あさ)きも、亦(また)た之(これ)を報ゆ。
人の悪(あく)を聞(き)いては、隠(かく)れたりと雖も疑(うたが)わず。
善(ぜん)は則ち顕(あら)わるるも、亦之を疑う。
此(こ)れ刻(こく)の極(きわ)み、薄(はく)の尤(もっと)もなり。
宜(よろ)しく之を戒(いまし)むべし。」
注釈
- 刻(こく):厳しすぎる、冷酷な性質。
- 極(きわ)み):その度合いが極端であること。
- 薄(はく):薄情。人間味に欠けること。
- 尤(もっとも)も):最もひどい、非難されるべきこと。
- 之を戒むべし:こうした性質は特に慎まなければならない。
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(最も冷たい心とは、恩を忘れ怨みに執着する)believe-good-over-evil
(悪を疑い、善を信じよ)avoid-cruel-and-suspicious-mind
(冷酷と疑念の心を戒めよ)
この条は、人間関係における信義と誠実の基本を突いています。
現代社会でも、悪い噂に飛びつき、善意を疑う風潮は少なくありません。
だからこそ、**「恩は忘れず、怨みは流す」「悪口は慎み、善行に信を置く」**という姿勢が、人格を磨き、信頼を生む鍵となります。
1. 原文
受人之恩、雖深不報、怨則淺亦報之。
聞人之惡、雖隱不疑、善則顯亦疑之。
此刻之極、薄之尤也、宜切戒之。
2. 書き下し文
人の恩を受けては、深しといえども報いず。怨みは、浅しといえどもこれを報ゆ。
人の悪を聞いては、隠れたりといえども疑わず。善は、顕わるるもこれを疑う。
これは刻(こく)の極み、薄(はく)の尤(もっと)も甚だしきなり。よろしくこれを切に戒むべし。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「他人から深い恩を受けても、それを返そうとしない。しかし、ちょっとした怨みはすぐに仕返しする」
→ 恩には鈍く、怨みには敏感な姿勢。 - 「人の悪口は、証拠がなくてもすぐに信じる。一方、善行はたとえ明白でも疑ってかかる」
→ 悪を信じやすく、善に懐疑的である偏った心の状態。 - 「これは、心が狭く冷たいことの極みであり、人として最も戒めるべき態度である」
→ 倫理的に最も卑しい行動であり、深く反省すべきとされている。
4. 用語解説
- 恩(おん):他人から受けた善意・好意。
- 怨(うらみ):恨み、怒り。
- 刻(こく):冷酷、無慈悲であること。
- 薄(はく):情が薄い、恩義に乏しい。
- 尤(もっとも):最も悪しきもの。罪が重いこと。
- 隱(いん):隠れて見えにくい。
- 顯(けん):はっきりと現れている。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人からの恩には無関心で感謝の気持ちを持たず、ちょっとした怨みには過剰に反応して仕返しをする。また、誰かの悪い噂はすぐに信じる一方で、善行に対しては疑いの目を向ける。こうした態度は、冷酷さと薄情の極みであり、人として決して許されるものではなく、強く戒めるべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「感謝と信頼のバランスを欠いた心の危うさ」**を鋭く指摘しています。
- 恩を忘れ、怨みに敏感なのは、感情の利己化であり、他者との信頼関係を破壊します。
- 善よりも悪を信じやすい心は、偏見や妄断につながり、健全な判断を妨げます。
つまり、恩を重く受け止め、怨みを軽く流し、善を信じ、悪に慎重であることが、心の美徳だと説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「恩に鈍く、怨みに敏感な人材は、組織を不安定にする」
- 成果や支援を当然と受け取りながら、ちょっとした不満や指摘に過敏に反応する態度は、職場の信頼を崩壊させる。
- 感謝を行動で返す文化が組織の安定を生む。
●「ネガティブ情報の鵜呑みが職場の雰囲気を悪化させる」
- ゴシップや陰口を信じる一方で、誰かの良い行いを疑う風潮は、心理的安全性を脅かす。
- 組織内の**“善意への信頼”の総量が、企業文化の健全さを左右**する。
●「上司こそ“切戒”の姿勢が必要」
- 感情的な仕返し、部下の善意への疑念、恩への無反応は、リーダーとしての徳を失わせる。
- リーダーは「恩には厚く、怨みには寛大に、善意には素直に信じる」姿勢を持つべき。
8. ビジネス用の心得タイトル
「恩を重んじ、善を信じる者が、信頼される人材になる」
この章句は、人間関係の基本である「感謝」「寛容」「信頼」の欠如が、人としての品位を損なうことを警告しています。
- 小さな怨みに反応するより、恩を大切にする。
- 噂に流されるより、事実と善意に目を向ける。
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