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静かに浸み込む悪意にも動じない者こそ、真の聡明である

主旨の要約

孔子は、表立った攻撃だけでなく、じわじわと心を侵す中傷や、身に迫る訴えに惑わされずにいられる者こそ「明(聡明)」であると語る。さらに、それができる者には「遠(えん)」、すなわち深い洞察力・先見性が備わっていると賞賛する。


解説

子張が「明(めい)」について尋ねたとき、孔子はただ頭のよさや判断力のことではなく、**「心を乱さず、本質を見極める力」**としての明を説きました。

ここで挙げられた「浸潤の譖(そし)り」「膚受の愬(うった)え」は、いずれも人の心を惑わす巧妙で強烈なものです。

  • 浸潤の譖り:直接的ではないが、じわじわと心に染み込むような中傷。
  • 膚受の愬え:感情に訴えかけ、身をえぐるような痛切な訴え。

こうした声に動揺し、自他の判断を誤ってしまうことは、誰にでも起こりうることです。
しかし、それらに引きずられず、静かに判断を保てる人――つまり、**感情に左右されず、真実を見抜く人こそ「明」**なのです。

さらに孔子は、「それができる人には“遠”がある」とも述べます。
これは「深い理解」「遠くを見通す力」「人間性の奥行き」のことであり、単なる情報処理能力を超えた、本質的な賢さを意味します。


引用(ふりがな付き)

子張(しちょう)、明(めい)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、浸潤(しんじゅん)の譖(そし)り、膚受(ふじゅ)の愬(うった)え、行(おこな)われざるは、明(めい)と謂(い)うべきのみ。
浸潤の譖(そし)り、膚受の愬(うった)え、行(おこな)われざるは、遠(えん)と謂(い)うべきのみ。


注釈

  • 浸潤の譖り(しんじゅんのそしり)…水がにじむようにじわじわと心に入り込む中傷・悪口。気づかぬうちに影響されやすい。
  • 膚受の愬え(ふじゅのうったえ)…肌身に迫るような切実な訴え。感情的に揺さぶられるような圧力。
  • 明(めい)…状況や人の本質を見抜く力。外部のノイズに惑わされず、冷静に判断できる資質。
  • 遠(えん)…深遠な見通しや人間的な深み。明がさらに成熟した形としての境地。

1. 原文

子張問明。子曰、潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂明也已矣。潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂遠也已矣。


2. 書き下し文

子張(しちょう)、明(めい)を問う。
子(し)曰(いわ)く、潤(じん)の譖(そし)り、膚(ふ)に受(う)くるの愬(うった)え、行(おこな)われざるは、明(めい)と謂(い)うべきのみ。

潤の譖り、膚に受くるの愬え、行われざるは、遠(えん)と謂うべきのみ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「子張、明を問う」
     → 子張が、「明(あきらかで賢明な人物)」とはどのような人かを尋ねた。
  • 「潤の譖り、膚に受くるの愬え、行われざるは、明と謂うべきのみ」
     → 水がにじむような陰湿な中傷や、皮膚に触れるような直接的な訴えに流されず、処罰などを行わない人こそ、明るく賢明な人と言える。
  • 「潤の譖り、膚に受くるの愬え、行われざるは、遠と謂うべきのみ」
     → それらの中傷や訴えを受けても、処分を下さず距離をおく人は、(明ではないが)“遠き(えん)”、すなわち高潔で慎重な人と言える。

4. 用語解説

  • 子張(しちょう):孔子の弟子の一人。性格はやや剛直で理屈っぽい傾向があるとされる。
  • 明(めい):聡明さ、公正さ、物事をよく見抜く知恵を指す。
  • 潤(じん)の譖り(そしり):水がにじむように、目立たず静かに他人を傷つける中傷や讒言。
  • 膚に受くるの愬え:肌に直接触れるほどの、感情的で個人的な訴え。
  • 行われざる(おこなわれざる):中傷や訴えに対して、すぐに処罰・対処などの行動に出ないこと。
  • 遠(えん):「遠い」ではなく、「慎重で潔い態度」を表す。ここでは“節度をもって距離をとる”ことの美徳。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子張が「賢明な人とはどういう人か」と尋ねた。

孔子はこう答えた:

「じわじわとした陰湿な中傷や、肌に触れるような直接的な訴えにすぐに反応せず、それを根拠に処分などをしない人こそ、賢明な人と言える。
たとえ処分などはしなくても、そうした中傷や訴えに対して距離を保ち、判断を保留するような人は、“遠い=高潔で慎重な人”とは言える。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「情報との付き合い方」「判断力・自制力」**について、孔子が核心を突いた教えです。

  • “即断即決”の危うさに警鐘
     → 感情に満ちた告げ口や中傷を聞いたからといって、すぐに処分や行動に出るのは軽率である。
  • 明(賢明)な人とは、他者の言葉に流されず、全体像と本質を見抜く人。
  • 遠(高潔な人)とは、たとえ明確な判断は下せずとも、不当な働きかけに巻き込まれず、安易に動かない慎重な姿勢を貫く人。
  • 現代で言えば、「情報リテラシー」「危機管理」「ファクト確認」の重要性を説いていると言えます。

7. ビジネスにおける解釈と適用

(1)「噂・中傷・クレームに“即反応”しない上司が信頼を得る」

  • 従業員の陰口、顧客の一方的クレーム、匿名の社内通報──これらに対し冷静に事実を調査・整理する姿勢こそ、リーダーとしての“明”

(2)「“遠”であることもまた美徳」

  • たとえ状況がはっきりしないときでも、すぐに白黒つけず、判断を一旦保留し冷却期間を設ける姿勢は、信頼されるマネジメントの知恵

(3)「“見抜く力”は感情に左右されない態度から生まれる」

  • 職場の人間関係やプロジェクト判断において、誰かの意見や感情に振り回されず、自分の頭で考えることが最も重要。

8. ビジネス用の心得タイトル

「即断を慎み、静かに見抜け──“明”は判断の沈着に宿る」


この章句は、情報や言葉の中に潜む“見えにくい危うさ”を看破する力と、それに反応しない勇気が、賢明さの本質であることを示しています。

現代の経営や人事、トラブル対応においても、非常に有効な指針となる教えです。

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