- 人間ができないことをコンピュータが実現することはない。
コンピュータは人間が行える作業を、驚異的な速度と効率で処理するための道具だ。それ以上でもそれ以下でもない。
人間ができないことをコンピュータが行うことはない。なぜなら、コンピュータがどのような計算を行うかを決定するのは人間であり、その指示を与えるものが「プログラム」と呼ばれるからだ。
プログラムがなければ、コンピュータは何も動くことができない。そのプログラムを作るのは人間であり、人間が成し得ないことをプログラムに書くこともできない。つまり、コンピュータができることは、結局のところ人間が可能とする範囲内に限られるのだ。
言い換えれば、コンピュータができることはすべて人間にも可能だ。ただし、人間がそれを行う場合、時間がかかり、効率が悪く、ミスが起こりやすいだけの話である。
このことが示す決定的に重要な意味は、「自分たちの会社でできないことは、コンピュータを使ったとしても実現できない」という点にある。
つまり、「コンピュータを使えば事業経営が改善する」や「自分の会社でこれまでできなかったこともコンピュータが解決してくれる」といった考え方は誤りだ。コンピュータに頼れば経営が劇的にうまくいくという期待は、単なる幻想に過ぎない。
コンピュータを使う最大のメリットは、「人間が行うと時間がかかったりミスが発生しやすい作業を、短時間で正確に処理してくれる」という点に尽きる。つまり、時間を節約するための道具であり、これこそがコンピュータの本質なのだ。
- コンピュータが扱えるのは量的な情報だけであり、質的な情報を処理することはできない。
これは、先に挙げたフォードのエドセルの例からも明らかだ。コンピュータはどんな情報でも処理できると考えるのは誤解である。そして、コンピュータが扱えない質的な情報こそ、量的な情報以上に重要な役割を持つことを理解しなければならない。
しかし、コンピュータを導入すると、数値情報の洪水が押し寄せることになる。次々と吐き出される膨大なデータに囲まれる中で、自社は事業経営に必要な十分な情報を手に入れていると錯覚しがちだ。その結果、外部情報の収集を怠るようになったり、社長自身が顧客のもとを訪れ、直接要望を聞き出すという最も重要な活動をしなくなる危険性が高まる。
どれほど多くの情報がコンピュータから出力されようとも、その大半は企業内部の過去のデータに過ぎない。事業経営において本当に決定的に重要なのは、まだ数値化されていない企業外部の情報である。この事実をしっかりと心に留めておく必要がある。
では、コンピュータが質的な情報を処理できないからといって無用の長物かというと、そうではない。たとえ量的な情報しか扱えなくとも、その膨大な情報を高速かつ正確に処理する能力は、企業経営にとって極めて有益である。
つまり、コンピュータは人間が苦手とする計算を代わりに処理することで、人間を計算という低次元の作業から解放してくれる。この恩恵により、計算業務に費やしていた時間を他の重要な活動に振り向けることができる。言い換えれば、コンピュータの存在によって手に入る「時間」という貴重な資源こそが、経営における最大のメリットなのだ。
この時間を活用することで、人間にしかできない創造的な仕事に集中することが可能になる。この点において、コンピュータの存在価値は非常に大きい。しかし、注意すべき点がある。それは、コンピュータが扱う数量情報に関して、「事業経営に本当に必要なものは何か」をコンピュータもプログラマーも理解していないという事実だ。この重要なポイントを、経営者自身がしっかりと認識しておく必要がある。
多くの経営者は、プログラマーに「どんな情報を、どのような形で提示するか」を丸投げしてしまっている。しかし、これでは事業経営に本当に必要な情報をコンピュータから引き出すことは到底期待できない。情報のニーズを的確に定め、指示を出すのは経営者自身の責任である。
- コンピュータは命令されたことしか実行できない。
その圧倒的な能力には目を見張るものがある。数万人分の給与計算、証券会社や保険会社での膨大な伝票処理、さらには全国規模の銀行オンラインネットワークの運用まで、いとも簡単にこなしてしまう。情報の収集、処理、記憶、提示を行うだけでなく、特定地域における高速道路の最適な建設場所まで計算する。しかし、これらすべての作業は、あくまで事前に命令されたことを忠実に実行しているに過ぎないのだ。
高度に複雑な技術計算や製造工程の制御は、今やコンピュータなしでは成り立たない状況にある。作業ロボットも、コンピュータがなければ存在し得ない仕組みだ。一方で、囲碁や将棋の対戦相手を務めたり、病気の診断や投薬の処方、さらには男女の相性診断まで、多岐にわたる分野で活躍している。しかし、これらの驚くべき機能も、根本的には人間が命令した内容を遂行しているだけに過ぎない。
コンピュータは、ミサイルやミサイル防衛装置、宇宙衛星からスペースシャトルに至るまで、超大規模なシステムの中核を担い、見事にその役割を果たしている。その活躍ぶりは、まるで万能と錯覚するほどの超能力に見える。しかし、この驚異的な能力も、与えられた命令に基づいて動いているという基本的な事実を忘れてはならない。
これほどの能力を持つコンピュータでも、絶対にできないことがある。その一つが、質的情報の処理であることは前述した通りだが、それ以上に重要なのが「意思決定」だ。コンピュータは膨大な情報を分析し、選択肢を提示することはできても、最終的な判断や意思を持つことはできない。この点において、どれほど高度なシステムであっても、人間の役割を完全に代替することはできない。
コンピュータがどれほど万能に見えようとも、その能力が発揮されるのは「繰り返し」のある作業に限られる。繰り返しがあるということは、そこに一定の法則性が存在するということであり、それを基に法則化が可能になる。そして、法則性があれば「基準」を設定できる。例えば、乗り物の座席予約システムがいかに複雑であっても、一定の法則性があるからこそコンピュータが対応できるのだ。この法則性の有無が、コンピュータの活躍範囲を決定している。
プロセスの制御や病気の診断も、すべて事前に設定された基準に基づいて行われている。これらは、あくまで与えられた基準に従った制御や診断に過ぎない。基準がプログラムとして命令されていない限り、コンピュータは文字通り何一つ動くことができない。この制約が、コンピュータの本質を端的に示している。
したがって、さまざまな情報を総合的に検討し、それに基づいて判断し、さらにその判断をもとに決定を下すといった作業は、コンピュータには不可能だ。ただし、決定の条件が事前にプログラムとして設定されていれば、その条件に従って決定を行うことはできる。これは、コンピュータが「判断」ではなく、あらかじめ与えられたルールを機械的に適用しているに過ぎないことを意味している。
この点は、事業経営において極めて重要だ。つまり、経営者自身が何をすべきか分からない状態で、コンピュータに決定を任せることは不可能だということだ。コンピュータは、あくまで与えられた条件や基準に基づいて動くだけであり、その基準を設定する責任は経営者自身にある。この現実を踏まえなければ、経営における本質的な意思決定を誤るリスクが高まる。
シミュレーションやモデルによる演算も同様である。ある一定の条件下での結果を瞬時に算定できるのは、「この条件のときには、この結果を導き出せ」という命令をあらかじめプログラムとして与えているからに他ならない。つまり、コンピュータが答えを出せるのは、その背後に人間が設計したルールや条件が存在している場合に限られる。
コンピュータは、あらかじめ基準が与えられていなければ何一つできない単なる道具である。この基本的な事実を忘れ、「コンピュータは何事も的確かつ迅速に処理してくれるから、すべてを任せればよい」「直感や信頼性の低い不完全な外部情報には目を向ける必要はない」といった考えに陥るのは非常に危険だ。このような姿勢は、事業経営において取り返しのつかない結果を招く可能性がある。この点を十分に理解し、コンピュータを正しく活用する責任を経営者が果たさなければならない。
外部情報がどれほど信頼性に欠け、不完全であろうとも、それらを総合的に判断し、最終的な決定を下すことこそが、経営者、特に社長にとって最も重要な責務である。そして、この役割を社長以外の誰かが代わりに果たしてくれることはない。経営における決定とは、常に限られた時間の中で、不完全な情報をもとに行われるものだ。この現実を理解し、その中で最善の判断を下すことが、経営者としての本質的な役割である。
コンピュータの特質について、3つの観点から考察すると以下の通りです。
1. 人間にできないことはコンピュータにもできない
コンピュータは、基本的に人間が行える計算や手順を、速く、正確に、繰り返し実行するためのツールにすぎません。何をどう計算するかはすべて人間が指示を出し、それに従ってコンピュータが動きます。この仕組みは「プログラム」と呼ばれるもので、コンピュータはプログラムで指示されない限り、一切の行動を起こせません。そのため、コンピュータができることは、実は人間が「時間さえあればできること」に限られており、できないことを補ってくれる存在ではないのです。
2. 量的な情報のみを処理でき、質的な情報は処理できない
コンピュータの処理能力は、あくまで数値化されたデータ、すなわち量的な情報のみに対して適用されます。経営や戦略においては「質的な変化」や「人々の嗜好」など、数値化できない要素が重要であり、これを反映させることができないため、コンピュータの分析には限界があるといえます。質的な情報が数値化できた時点では、既に状況は過去のものであり、経営においてはタイミングが遅れがちです。
3. 命令されたことしかできない
コンピュータは、あくまでプログラムに従って指示された範囲内で動きます。たとえば、一定の基準や条件に従って決定を行うことは可能ですが、「どうするべきか」といった創造的な判断や意思決定はできません。経営の決断においては、不確定な状況や外部からの断片的な情報を踏まえて直感的に判断する必要があり、この点でコンピュータには適応しきれない領域が存在するのです。
結論
コンピュータの特質からわかるように、コンピュータは強力な「補助ツール」としては有用ですが、意思決定そのものを代行するものではありません。経営や戦略においては、コンピュータに頼りすぎることなく、必要な情報を幅広く集め、人間の洞察力で判断を下すことが重要です。
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