事業の基礎は、その人の持つ人格、すなわち「徳」である。
人格が未熟なままで事業を始めても、それは土台のぐらついた建物のようなもの。やがて崩れてしまうだろう。
また、心のあり方は、未来の子孫の行く末に影響を与える根である。
根がしっかり植えられていなければ、枝や葉、すなわち子孫の繁栄もまた望めない。
西郷隆盛もまた、「才に任せて為す事は、危くして見て居られぬものぞ」と述べ、人格が整っていなければ才知も危ういと戒めた。
さらに、経営学の巨人ピーター・ドラッカーは、リーダーに必要なのは「インテグリティ(誠実)」であると断言している。
真に永く続くものを築こうとするなら、人格を深く鍛えなければならないのだ。
原文(ふりがな付き)
「徳(とく)は事業(じぎょう)の基(もとい)なり。
未(いま)だ基(もとい)の固(かた)からずして、棟宇(とうう)の堅久(けんきゅう)なるものは有(あ)らず。
心(こころ)は後裔(こうえい)の根(ね)なり。
未(いま)だ根(ね)植(う)えられずして、枝葉(しよう)の栄茂(えいも)するものは有(あ)らず。」
注釈
- 徳(とく):人格や誠実さ。人としての内面的な土台。
- 棟宇(とうう):建物。比喩的に事業や家の基盤を指す。
- 後裔(こうえい):子孫。未来の世代。
- 栄茂(えいも):枝葉が茂り、繁栄すること。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(人格が遺産をつくる)no-root-no-growth
(根なき繁栄はありえない)virtue-before-success
(成功の前に徳あり)
この条文は、現代の経営者や教育者にとっても示唆に富んだ内容です。「結果」や「成果」ではなく、それを支える「土台」を見よというメッセージが、静かにしかし力強く響きます。
1. 原文
德者事業之基。未有基不固、而棟宇堅久者。
心者後裔之根。未有根不植、而枝葉榮茂者。
2. 書き下し文
徳(とく)は事業(じぎょう)の基(もとい)なり。未(いま)だ基の固(かた)からずして、棟宇(とうう)堅久(けんきゅう)なるものは有(あ)らず。
心(こころ)は後裔(こうえい)の根(ね)なり。未だ根の植(う)えられずして、枝葉(しよう)の栄茂(えいも)するものは有らず。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「徳は事業の基なり」
→ 人格的な徳は、あらゆる事業の土台となるものである。 - 「未だ基の固からずして、棟宇の堅久なるものは有らず」
→ 土台がしっかりしていないのに、家屋が長く安定して建ち続けることはない。 - 「心は後裔の根なり」
→ 心のあり方は、子孫(後の世代)を支える根のようなものである。 - 「未だ根植えられずして、枝葉の栄茂するものは有らず」
→ 根がしっかり張っていなければ、枝葉が豊かに茂ることはない。
4. 用語解説
- 徳(とく):人間性や人格の美徳。誠実さ、謙虚さ、慈悲、誠意など。
- 事業(じぎょう):ビジネスに限らず、人生における仕事や取り組み全般。
- 基(もとい):土台、基礎。
- 棟宇(とうう):建物、特に屋根を支える大きな構造物。転じて組織や構造の比喩。
- 堅久(けんきゅう):堅固で永続すること。
- 心(こころ):思いやりや意志、価値観、精神の状態。
- 後裔(こうえい):子孫、後の世代。
- 栄茂(えいも):繁栄して盛んになること。繁茂。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人格的な「徳」は、すべての事業の基礎である。しっかりとした土台がなければ、大きな建物が長く安定して存在することなどできない。
また、「心のあり方」は子孫や後継者の成長を支える根である。根が張っていなければ、枝葉が立派に茂ることはない。つまり、目に見える成果や繁栄の前に、見えない基盤の充実が不可欠である。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「徳と心こそが、成果や繁栄の根源である」**という、極めて本質的な教えです。
現代社会では、スキルや実績、数字による成果が強調されがちですが、『菜根譚』は逆に、「人間の中身」「価値観」「品格」という目に見えない要素の重要性を語ります。
- 徳がなければ、事業は長続きしない。
- 心が整っていなければ、未来の世代は育たない。
このように、**“内なるものが外なるものを支える”**という根本原理を再認識させてくれる章句です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「経営の“徳性”が企業文化を築く」
- 利益や成長より先に、「誠実」「信頼」「共感」といった価値観を重視する組織は、長く繁栄する。
- カスタマーサクセスや従業員満足など、“見えない基盤”が事業の寿命を決める。
●「人材育成は“心の根”から始まる」
- 知識やスキル以前に、「目的意識」「使命感」「倫理観」を育てることが、持続可能な人材を生む。
- 社員教育では、自己理解や価値観の形成を優先すべき。
●「成果主義の落とし穴に陥らないために」
- 表面上の数字だけを追うと、組織の土台が崩壊するリスクがある。
- 短期成果より、長期的な信頼の蓄積に焦点を当てた経営姿勢が必要。
8. ビジネス用の心得タイトル
「“徳”は組織の地盤、“心”は未来の根──内なる基盤が真の繁栄を生む」
この章句は、**経営者・リーダー・親・教育者すべてに通じる“原理原則”**を語っています。
どんなに華やかな成果も、それを支える徳と心がなければ、一時の幻にすぎません。逆に、見えない部分をしっかりと築くことこそが、将来の真の成果と継承を可能にします。
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