新市場進出は、企業にとって成長の大きなチャンスである一方、非常に多くの課題を伴います。本稿では、広島市のL社のケースを基に、新市場開拓の本質的な難しさと成功への道を整理します。
1. 新市場進出の基本戦略:一点集中
新規市場に参入する際、広範囲に浅く展開するのではなく、特定の地域やセグメントにリソースを集中させる「一点集中戦略」が鍵となります。広島市のL社の事例でも、以下の戦略方針が採用されました。
段階的戦略の展開
- 第一次作戦
- 地域:広島市およびその周辺地域。
- 目標:占有率目標を設定せず、市場の基盤を固めることに注力。
- 第二次作戦
- 地域:広島県全域。
- 開始条件:第一次作戦で占有率25%を達成。
- 留意点:第一次作戦地域の戦力は維持し、新たなリソースを投入する。
- 第三次作戦
- 地域:山口県または岡山県。
- 開始条件:第二次作戦地域で占有率25%を達成。
- 留意点:既存地域の戦力を削らない。
2. 課題と対策:新規市場における現実
新規市場では、既存の強固な競合の存在が大きな壁となります。この現実を無視した楽観的な計画は、失敗の元となります。
課題1:競合の存在と市場の壁
既存市場には、長年にわたり地元で信頼を築いた先発業者が存在します。この壁を突破するには、単なる努力だけでなく、緻密な戦略と長期的な視点が必要です。
- 対策:市場調査を徹底し、競合の弱点を見極め、そこにリソースを集中する。
課題2:リソースの分散
広範囲に戦線を広げると、リソースが分散し、既存市場での競争力を失うリスクがあります。
- 対策:地元での基盤を完全に固めるまで新たな地域への進出を控える。一点集中を徹底。
課題3:短期成果への過剰な期待
新市場進出では、半年や1年で目に見える成果を出すことは難しいですが、多くの経営者は結果を急ぎ、戦略を崩してしまいます。
- 対策:目先の成果に一喜一憂せず、3~5年単位で基盤を築く長期的な覚悟を持つ。
課題4:販売の厳しさの軽視
特に製造業者では、「商品を作れば売れる」という甘い見通しが根強く、販売の現実を軽視しがちです。
- 対策:セールス活動に注力し、地道な訪問と関係構築を優先する。
3. 成功への道:粘り強さと計画的実行
広島市のL社は、初めての市場参入にもかかわらず、半年で累計100台を売り上げる成果を達成しました。しかし、社長や担当者は「成果が不十分」と感じ、戦略を逸脱する行動を取ったことで、計画全体が揺らぎました。
成功のための要諦
- 地道な基盤構築
3年は「冷飯を食う」覚悟を持ち、短期的な失敗を恐れない。 - 集中と分散のバランス
基盤が固まるまで他地域への進出を控え、リソースを一点に集中する。 - 現場との連携
社長自ら現場を視察し、顧客や競合の動向を把握する。 - 戦略の一貫性
一度決定した戦略を、途中でぶらさず、粘り強く実行する。
4. ケーススタディ:地元市場の活性化
A社の例では、地元市場の「ゼロ」状態を改善するため、以下の手法が取られました。
- 戦略:半径10キロメートル以内に限定した一点集中。
- 実行:専任セールスマンが販工店を週1回訪問。
- 結果:1年半後に売上が急上昇し、3年目には月間売上500万円を達成。
このケースは、粘り強い努力が市場での成果を生む典型的な例です。
5. 社長の役割:戦略の中心に立つ
新市場で成功するには、経営者自らがリーダーシップを発揮し、戦略の中心に立つことが必要です。
- 現場視察と情報収集:市場の状況を直接確認し、競合の弱点を見極める。
- 社員の士気向上:戦略の意図を社員に理解させ、共通の目標を共有する。
6. まとめ:成功の条件
新市場進出は、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で計画を実行することが成功への鍵となります。
- 一点集中による基盤構築。
- 現実に基づいた段階的な戦略。
- 粘り強さとリーダーシップ。
これらを徹底することで、新市場での持続可能な成長を実現することができます。成功とは、緻密な計画と地道な努力の積み重ねによるものであることを忘れてはなりません。
コメント