各企業の課題と構想事例
T社:偏りある事業構造の打開
T社のビジネスは特定業界に依存し、季節変動の波が大きいのが特徴だった。特に9月から翌年2月は売上が大きく落ち込む一方、6月から8月の繁忙期は目が回るほどの忙しさとなる。しかし、ピーク時に得た利益も、閑散期の経費によって消失し、業績は長期にわたり低迷していた。
この課題を克服するため、T社は事業を他業界へ拡大することを決断。特に収益が落ち込む9月~2月に新事業を展開する方針を打ち出し、長期計画に着手した。現行事業だけに頼った場合、3年後には市場の飽和が予想され、売上は停滞し、経営は赤字に転落するという試算結果が出た。この危機感が新事業の必要性と緊急性を浮き彫りにし、T社は新たな成長戦略へと舵を切ることとなった。
G工業:季節変動の克服とグローバル展開
G工業の商品は家庭雑貨に特化していたが、繁忙期は10月から翌年2月まで。その後の2月~9月は売上が半減し、業績が不安定な状況だった。
G社長は「自社製品を世界50か国に届けたい」という壮大な夢を持っていたが、計画が伴っていなかった。そこで、長期計画の策定が始まり、最初の課題として「季節変動の緩和」が挙げられた。具体的には、通年で売れる業務用商品を開発し、2~3年以内に市場投入する目標が設定された。さらに、季節が逆になる南半球市場への進出も決定し、繁閑差を大幅に縮小する戦略が立案された。
国内市場については、小売店への直販方式への切り替えを段階的に進め、輸出に関しては代理店方式を採用し、地域ごとに優先順位をつけて展開する方針が確立された。供給体制については、国内製造に依存する限界を見越し、台湾や南米、北米への新工場建設、ヨーロッパでのノックダウン生産方式を視野に入れた体制強化計画がまとめられた。
B建材:市場占有率の向上と顧客基盤強化
B建材は、既存事業を発展させ、市場での占有率向上を長期目標に掲げた。まず、商品ごとの県内市場でのシェア目標と達成期限が設定され、次に三県にわたる地方経済圏でのシェア目標が明確化された。
この戦略の根幹には「信頼関係の強化」がある。単なるシェア拡大ではなく、商品ラインナップの充実と顧客サービス向上によって、持続可能な成長を目指す方針が打ち出された。
L社:複数事業の発展と統合戦略
L社は洋菓子・喫茶事業とラーメン専門店事業という二つの柱を持つが、今後の成長戦略については、事業ごとの独立成長か、シナジー効果を狙った統合的な戦略かが焦点となっている。各事業の発展方向を見定め、長期的な構想を策定中である。
K社:自社工場の設立に向けた覚悟
K社は創業期を乗り越えたものの、現在の工場は手狭であり、将来的な事業拡大の障害となっていた。そこで、社長は「3年後に自社工場を持つ」という決意を固め、事業計画の立案に着手した。
最大の課題は資金調達であった。敷地面積や建設コストを現在の価格で試算し、インフレを考慮した3年後の必要金額を割り出した。これをもとに、資金調達と返済計画の策定が進められた。単なる資金の問題ではなく、事業成長の基盤を築くための長期的な構想が求められたのだ。
「書き表す」ことで進化する未来像
社長が描く未来像は、頭の中だけに留めず、書き出すことで具体的なビジョンへと進化する。書くことによって考えが整理され、行動の指針が明確になる。そして、現実と照らし合わせながら何度も見直し、軌道修正を重ねることで、未来像は真に実現可能なものへと近づいていく。
長期経営計画とは、この「書き表す」プロセスそのものだ。それは単なる記録ではなく、企業の未来を切り拓くための第一歩であり、経営の羅針盤とも言える重要な作業である。
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