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真に改めるには、己を変え、先例を超える覚悟が要る

伝統に挑むときこそ、学びと志が問われる

父の死に際して「三年の喪」を行おうと決意した太子(後の文公)。
しかし、その意志に対して一族の長老や役人たちは反対した。
「これまでの君主もやらなかった。宗国・魯の先例にもない。先祖のやり方に背くのは不敬だ」と。

それに対し、太子はこう応じた――
「これは私の独断ではない。孟子の教えを受けてのことだ」と。

かつては学問もせず、剣と馬ばかりを好んだ自分に対し、誰もが信を寄せていない。
だが、今は違う。大切な父の弔いを前に、ただ形式に従うのでなく、心から礼を尽くす道を選びたい。
孟子の教えに立ち返り、その道をもう一度確かめたい――
それが、太子が然友に二度目の訪問を頼んだ理由だった。

伝統や先例を改めるのは容易ではない。
だが、過ちを受け継がぬことも、真の孝であり、勇気である。
誠の志があれば、変革は礼を失わずして可能になる。


引用(ふりがな付き)

父兄(ふけい)百官(ひゃっかん)皆(みな)欲(この)まずして曰(いわ)く、吾(わ)が宗国(そうこく)魯(ろ)の先君(せんくん)之(これ)を行(おこな)う莫(な)く、吾(わ)が先君(せんくん)も亦(また)之(これ)を行(おこな)う莫(な)きなり。子(し)の身(み)に至(いた)りて之(これ)に反(はん)するは、不可(ふか)なり。且(か)つ志(し)に曰(いわ)く、喪祭(そうさい)は先祖(せんぞ)に従(した)がう、と。


簡単な注釈

  • 喪祭は先祖に従う:「儀礼や形式は、先祖が守ってきたものに準じるべき」という保守的な原則。
  • 吾れ之を受くる所有り:太子は、孟子の教えを受けた正統な考えであると反論する。
  • 足れりとせざるなり:人々が自分をまだ信頼していないと自覚している表現。
  • 馬を馳せ剣を試む:若き日の武を誇った自らの過去を恥じ、今は礼と学を求めているという変化の象徴。

1. 原文

然友反命。定為三年之喪。父兄百官皆不欲曰、「吾宗國魯先君莫之行,吾先君亦莫之行也。至於子之身而反之,不可。且志曰、『喪祭從先祖』。」
曰、「吾有受之也。」
謂然友曰、「吾他日未嘗學問,好馳馬試劍。今也父兄百官不我足也,恐其不能盡於大事,子為我問孟子。」


2. 書き下し文

然友、命を反(かえ)す。定(てい)して三年の喪を為(な)す。
父兄・百官、皆欲(ねが)わずして曰く、
「吾が宗国たる魯の先君、これを行えること無し。吾が先君もまたこれを行わず。
子の身に至りてこれを反するは、不可なり。
且(か)つ『喪祭は先祖に従う』と志に曰(い)えり。」と。

(世子は)曰く、「吾れこれを受くる所有り。」

然友に謂いて曰く、
「吾れ他日(かつて)未だ嘗(かつ)て学問せず。好んで馬を馳(は)せ剣を試(ため)せり。
今や父兄・百官、我を足(た)れりとせず。
恐らくはそれ大事に尽くす能(あた)わざらん。子、我がために孟子に問え。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「然友反命。定為三年之喪」
     → 然友が報告に戻り、世子は三年の喪に服することを決めた。
  • 「父兄百官皆不欲曰、吾宗國魯先君莫之行、吾先君亦莫之行也」
     → 父兄や役人たちは皆反対して言った。「我が国・魯の歴代の君主はこれを行った者がいない。我が先代の君も行っていない。」
  • 「至於子之身而反之、不可」
     → 「それを今さらあなたの代で変えるのは許されない。」
  • 「且志曰、喪祭從先祖」
     → 「しかも記録には『喪や祭祀は祖先の方式に従うべし』とある。」
  • 「曰、吾有受之也」
     → 世子は言った。「私にはそれを(孟子から)受けた理由があるのだ。」
  • 「吾他日未嘗學問、好馳馬試劍」
     → 「私はこれまで学問に励まず、馬を走らせ剣を試すことばかりしていた。」
  • 「今也父兄百官不我足也」
     → 「今、父兄や家臣たちは、私を信頼に足る者と見てくれていない。」
  • 「恐其不能盡於大事、子為我問孟子」
     → 「このままでは大切な務めに全力を尽くせないかもしれない。あなた、私の代わりに孟子に問うてくれ。」

4. 用語解説

  • 然友:世子の家臣であり信頼厚き人物。孟子との仲介役。
  • 三年之喪:親を亡くした際に行う最も重い喪礼。
  • 宗国・魯:世子が統治する国。儒教の本拠地でもある。
  • :ここでは古典的な礼の規定を記した文献を指す。
  • 吾有受之也:孟子から聞いたことであり、信念として受け取ったという意。
  • 馳馬試劍:武術や武技に熱中していたことの比喩。
  • 父兄百官:長老や親族、役人全体。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

然友が孟子の言葉を伝えると、世子は三年喪を行うと決意した。
しかし父兄や家臣たちは猛反対し、「我が国の歴代君主は誰も三年喪を行っておらず、あなた一人の代で変えるのはよくない。古典にも『喪祭は先祖に従え』とある」と言った。

それに対して世子は、「私は孟子の教えを受けた。かつては学問にも励まず、武術ばかりに没頭していた。今、皆が私を認めてくれないのはそのせいだ。
私はこの大切な場面で全力を尽くせないかもしれない。だから、どうか孟子にもう一度意見を聞いてほしい」と然友に頼んだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、信念の実行と組織文化の壁に悩む若きリーダーの葛藤を描いています。

  • 革新と伝統の間で揺れる決断
     世子は孟子の教えに従って三年喪という誠実な決意をしたが、伝統・慣習に固執する周囲から強く反対される。
  • 過去の自分への反省と、変わろうとする意志
     「学問を怠っていた」と自省し、周囲からの信頼を得るために自らを律しようとする姿が示される。
  • 若者の自己成長への渇望と師の存在の大きさ
     自信がないからこそ、信頼する師の確認を求める。ここに「倫理の支柱」としての孟子の役割が強く現れています。

7. ビジネスにおける解釈と適用

「正しいと信じたことを、組織が否定するとき──“信念”と“慣習”の衝突」

  • 過去に誰もやっていない、新しい改革に挑むリーダーは、必ず“前例主義”にぶつかる。
  • 「伝統を破ること」が即ち「誤り」ではない。
  • 「それをする根拠」が重要──つまり“学び”と“信念”。

「過去の自分を悔い、変化しようとする者を支援せよ」

  • 若手が「過去の過ちを認め、真摯に変わろうとする」姿勢は、最も評価されるべき成長の兆し。
  • その努力に蓋をしてはならない。

「メンターは、悩めるリーダーの“拠り所”である」

  • 自信を失いかけた時、“価値観の基準軸”としての存在が必要。
  • ビジネスにおける孟子=メンター、外部コンサル、師匠、信頼できるアドバイザー。

8. ビジネス用心得タイトル

「慣例に屈するな、信念に従え──変革は“誠実な反逆”から始まる」


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