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静かに備え、静かに動く ― 平常心こそ最上の生き方

天地は静かに見えて、その内では陰陽の気が絶え間なく働いている。
日と月は昼夜を問わず休まず進みながらも、その動きは常に正確で明らかだ。
これに倣い、君子は平穏なときにも心を引き締めて油断せず、
多忙や混乱の中にあっても、慌てず騒がず、ゆったりと構える。
真に優れた人とは、備えと余裕を同時に持つ者である。


「天地(てんち)は寂然(じゃくねん)として動(うご)かずして、而(しか)も気機(きき)は息(や)むこと無(な)く停(と)まること少(すく)なり。
日月(じつげつ)は昼夜(ちゅうや)に奔馳(ほんち)して、而も貞明(ていめい)は万古(ばんこ)に易(か)わらず。
故(ゆえ)に君子(くんし)は、間時(かんじ)には喫緊(きっきん)の心思(しんし)有(あ)るを要(よう)し、
忙処(ぼうしょ)には悠間(ゆうかん)の趣味(しゅみ)有るを要す。」


注釈:

  • 気機(きき)…陰陽の気の働き。表面には現れないが、すべての根本にある活動の仕組み。
  • 貞明(ていめい)…正しく、明らかなこと。変わらぬ真理や秩序。
  • 喫緊の心思(きっきんのしんし)…さし迫った状況を想定した心がまえ。静けさの中にある緊張感。
  • 悠間の趣味(ゆうかんのしゅみ)…あわただしい状況でも失わない落ち着き、ゆとりある姿勢。
  • 奔馳(ほんち)…激しく走る。日月の絶え間ない動きを表す。

1. 原文:

天地寂然不動、而氣機無息少停。
日月晝夜奔馳、而貞明萬古不易。
故君子、閒時有喫緊心思、忙處有悠閒趣味。


2. 書き下し文:

天地は寂然として動かず、而(しか)も気機(きき)は息(や)むこと無く停(とど)まること少なし。
日月は昼夜に奔馳(ほんち)すれども、而も貞明(ていめい)は万古に易(か)わらず。
故に君子は、閒時(かんじ)には喫緊(きっきん)の心思(しんし)有るを要し、忙処(ぼうしょ)には悠閒(ゆうかん)の趣味(しゅみ)有るを要す。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「天地は寂然として動かず、而も気機は息むこと無く停まること少なし」
     → 天地は静かに動かぬように見えるが、その内部の気(エネルギー)の働きは絶え間なく動いている。
  • 「日月は昼夜に奔馳すれども、而も貞明は万古に易わらず」
     → 太陽と月は昼夜問わず走り続けているが、その清く明るい本質は永遠に変わることがない。
  • 「故に君子は、閒時には喫緊の心思有るを要し、忙処には悠閒の趣味有るを要す」
     → だからこそ、君子は暇なときにも緊張感のある思慮を持ち、忙しいときにもゆったりとした楽しみを見出すことが求められる。

4. 用語解説:

  • 氣機(きき):自然界や人間の内に働く気の動き。生命エネルギーや天地の運行力。
  • 貞明(ていめい):清く正しく明るいこと。変わらぬ本質、道理。
  • 喫緊の心思(きっきんのしんし):緊急・切迫感を持った真剣な思慮。
  • 悠閒の趣味(ゆうかんのしゅみ):心の余裕と風流、楽しみ。余裕ある心で味わう内面的な喜び。

5. 全体の現代語訳(まとめ):

天地は静かに見えるが、その内には常に気の動きが満ちている。
太陽と月は絶えず動き続けているが、その清らかな本質は永遠に変わらない。
このように、表面の動静と内面の働きは一致しないことを理解すべきである。
ゆえに君子たる者は、暇なときにも真剣な思慮を忘れず、忙しいときにも心の余裕と楽しみを持って行動すべきである。


6. 解釈と現代的意義:

この章句は、**「表面上の静と動にとらわれず、内面の緊張とゆとりを両立させよ」**という高度な精神統一の境地を説いています。

暇なときに緩みすぎれば惰性に流れ、忙しいときに心を失えば、混乱や疲弊に陥る。
真に成熟した人物とは、静かなときにも気を緩めず、忙しいときにも平常心を保ち、自己を律しつつも自然体で生きる者だと説いています。

この考え方は、現代のストレス社会や情報過多の時代において、心のバランスを保ち、持続的に成果を出すための指針となります。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):

  • 「暇なときほど、未来への備えを怠らない」
     プロジェクトの谷間やオフシーズンに、思考を止めず、次の価値創造やスキル習得に取り組む姿勢が、優れたビジネスパーソンの条件。
  • 「忙中に閑あり──多忙でも“心の余裕”を持つことがプロの証」
     忙しさに追われると視野が狭くなりがちだが、その中でも冗談やユーモア、ちょっとした趣味・遊び心を持てる人が、周囲の空気を柔らかくし、リーダーとしての信頼を得る。
  • 「静かな環境にこそ、内なる動きを絶やさず」
     いわゆる“待機期間”でも、学び・構想・改善といった目に見えない価値を積み上げることが、後の成果に繋がる。

8. ビジネス用の心得タイトル:

「忙中に閑あり、閑中に志あり──“動中の静”と“静中の動”で自己を磨け」


この章句は、「外面の状況に左右されず、内なる意志と余裕を保てる人間が真の君子である」ことを教えています。

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