――揺れぬ心は、どこにあっても青山緑樹のごとし
心に風や波が立たなければ、
たとえ喧騒の中にあっても、そこはまるで青い山と緑の木々に囲まれた静寂の世界のように感じられる。
天から授かった「性(せい)」――本来の天性が、万物を育てるような温かさをもっていれば、
たとえどこにいても、そこには魚が水に躍り、鳶が空を飛ぶような、生命の躍動が感じられる。
心が穏やかであれば、外界は清らかに映る。
心に温かさがあれば、どんな環境にも喜びが宿る。
それは、心の静けさと天性のあたたかさが調和したときに訪れる、
真に自由で、のびやかな生き方である。
引用(ふりがな付き)
心地(しんち)の上(うえ)に風濤(ふうとう)無(な)ければ、在(あ)るに随(したが)いて、皆(みな)青山(せいざん)緑樹(りょくじゅ)なり。
性天(せいてん)の中(なか)に化育(かいく)有(あ)れば、処(ところ)に触(ふ)れて、魚(うお)躍(おど)り鳶(とび)飛(と)ぶを見る。
注釈
- 風濤(ふうとう):風と波。心がざわめき、乱れることのたとえ。
- 青山緑樹:心が澄んでいれば、どこにいても自然のような安らぎが得られるという象徴。
- 性天(せいてん):天から授かった本性。儒教における「天理」「本然の性」とも重なる。
- 化育(かいく):万物を育み、活かす力。仁愛や慈しみの心にもつながる。
- 魚躍り鳶飛ぶ:自由自在に生き生きとした状態。天地の恵みに応じた、自然でのびやかな在り方。
関連思想と補足
- 『論語』にも「仁者は山を好む。智者は水を楽しむ」とあり、自然と心の在り方の関係性は儒教でも重視されています。
- 『老子』では、「無為自然」――無理せず、あるがままに生きることの尊さが説かれます。
本項は、外の状況ではなく、内なる静けさと天性の温かさこそが、自分の世界を決めるという思想です。 - **「鳶飛び魚躍る」**の句は、静けさのなかに動きがあり、自然の中にこそ真の自由と喜びがあるという深い示唆に富んでいます。
原文
心地上無風濤、隨在、皆靑山綠樹。
性天中有化育、觸處、見魚躍鳶飛。
書き下し文
心地(しんち)の上に風濤(ふうとう)無ければ、在るに随いて、皆、青山緑樹(せいざんりょくじゅ)なり。
性天(せいてん)の中に化育(けいく)有れば、処(ところ)に触れて、魚(うお)躍り鳶(とび)飛ぶを見る。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
「心の中に波風が立っていなければ、どこにいようと、すべての場所が青山緑樹のように穏やかに感じられる」
→ 心が静まっていると、外の世界もすべて美しく、落ち着いて見える。
「人の本性の中に自然の生成力(=化育)があるならば、どこにいても、そこに魚が飛び跳ね、鳶が空を舞うような生き生きとした世界を見ることができる」
→ 本来の純粋な心と自然の調和があれば、日常のあらゆる場面に生命の躍動を見出せる。
用語解説
- 心地(しんち):心の状態、精神の基盤。
- 風濤(ふうとう):風と波。ここでは心の波立ち、動揺の象徴。
- 性天(せいてん):人間本来の清らかで純粋な本性。「天性」とも通じる。
- 化育(けいく):自然の生成・発展・育成の力。天地自然が持つ命の営み。
- 魚躍り鳶飛ぶ(ぎょやくえんひ):魚は水中で飛び跳ね、鳶は空に舞う。自然の自由で躍動的な生命の象徴。
全体の現代語訳(まとめ)
もし心の中に波風(不安や怒り、妄想)がなければ、どこにいても、そこがまるで青々とした山や緑に囲まれた楽園のように感じられるだろう。
そして、もし人間本来の自然な本性に、天地自然の命を育む力が備わっていれば、どんな場所でも、魚が躍り鳶が飛ぶような、生き生きとした美しさを発見できるのだ。
解釈と現代的意義
この章句は、「心の内面と世界の見え方は連動している」という深い真理を説いています。
- 外界が荒れて見えるのは、実は内面の風濤=心の動揺の反映である。
- 一方、心が穏やかで自然と一体になれば、世界のどこにも命の美しさと調和が見えてくる。
この考え方は、東洋思想における「内観・静観・一体感」の根本であり、現代ではマインドフルネスやウェルビーイングの核心とも重なります。
ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
1. 「心の状態が職場の景色を決める」
心がざわついていると、同じ業務も、同僚の言葉も、すべて否定的に見えてしまう。
逆に心が落ち着いていれば、問題も機会に見え、人も信頼できる存在に感じられます。
2. 「自然な心が、創造力と共感力を呼び起こす」
「性天中有化育」とは、人間本来の創造力や成長力のこと。自然な心を保てば、柔軟で豊かな発想や、他者への思いやりが湧いてくる。
3. 「風濤なき心がリーダーの資質」
リーダーの心が波立っていると、チームにも不安や混乱が波及します。
だからこそ、「心に風濤無きこと」が穏やかで信頼されるリーダーシップの根本なのです。
ビジネス用の心得タイトル
「心が静まれば、世界は楽土──内面の整いが外界を変える」
この章句は、「環境を変える前に、まず自分の心を整えること」の大切さを、詩的かつ力強く語っています。
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