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外の寒暖よりも、内なる動揺を鎮めよ

四季の寒さや暑さ――
それは衣を替えたり、暖をとったりすることで、比較的容易に対処できる。

けれども、人の世の「情の熱さ冷たさ」、
つまり、人間関係の移り気や冷酷さ・厚情には、なかなか心が揺さぶられてしまうもの。

たとえそれらの人情の変化をある程度受け流すことができても、
なお難しいのは、自分の内にある“心の氷炭”――すなわち動揺と激情をどう鎮めるかである。

もしこの「心の寒さや熱さ」を取り除くことができたなら――
胸の内は一面、なごやかで温かい“和の気”に満たされ、
どこにいても、まるで春風の吹く場所に身を置いているような心地になれる。

それは、外の環境ではなく、
**内なる調和によって実現する“真の安らぎ”**である。


原文とふりがな付き引用

天運(てんうん)の寒暑(かんしょ)は避(さ)け易(やす)きも、
人世(じんせい)の炎涼(えんりょう)は除(のぞ)き難(がた)し。
人世の炎涼は除き易きも、吾(われ)が心(こころ)の氷炭(ひょうたん)は去(さ)り難し。
此(こ)の中(なか)の氷炭を去り得(え)ば、則(すなわ)ち満腔(まんこう)皆(みな)和気(わき)にして、
自(おの)ずから地(ち)に随(したが)って春風(しゅんぷう)有(あ)り。


注釈

  • 炎涼(えんりょう):人の情けの厚さと冷たさ、交際の変化。
  • 氷炭(ひょうたん):心の動揺・感情の起伏。氷のような冷たさと炭のような熱さ。
  • 満腔(まんこう):胸中いっぱい、心の中全体。
  • 地に随って春風有り:どこにいようと、心が和らいでいれば、あたたかな春の風を感じられるというたとえ。

関連思想と現代的な解釈

  • 『ロビンソン・クルーソー』:どんな逆境にも「感謝に値するなにものか」を見つける態度は、まさに心の動揺を超える姿勢。
  • 『孫子』九変篇:「智者の慮(おもんばか)りは、必ず利害に雑う」。感情に流されず、常に利害両面から冷静に判断すれば、動揺を防ぎ、本来の行動に戻れる。
  • マインドフルネスや情動調整(emotional regulation):現代心理学においても、自分の内面に注意を向け、心の反応に距離を取る力は幸福の鍵とされている。

パーマリンク案(英語スラッグ)

calm-heart-in-stormy-world
→「騒がしい世界でも、心を静める」という本条の本質を象徴。

その他候補:

  • inner-peace-everywhere(どこにいても心は安らか)
  • melting-inner-ice(内なる氷を溶かす)
  • peace-from-within(内から湧く平和)

この章は、まさに「静けさを生きる」ための核心に触れています。
環境がどうであれ、自分の心を整えることこそが、本当の幸福への道。

1. 原文

天運之寒暑易避、人世之炎涼難除。人世之炎涼易除、吾心之氷炭難去。去得此中之氷炭、則滿腔皆和氣、自隨地有春風矣。


2. 書き下し文

天運の寒暑(かんしょ)は避け易(やす)きも、人世の炎涼(えんりょう)は除き難(がた)し。
人世の炎涼は除き易きも、吾(わ)が心の氷炭(ひょうたん)は去り難し。
此(こ)の中の氷炭を去り得(え)ば、則(すなわ)ち満腔(まんこう)皆(みな)和気(わき)にして、自(おの)ずから地に随(したが)って春風(しゅんぷう)有(あ)り。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「自然の寒さや暑さは、避けることは比較的簡単だ」
  • 「だが、人間関係の冷たさや温かさ(炎涼)は、簡単に避けることができない」
  • 「いや、実は人間関係の冷たさも工夫次第で避けられるが、自分の心の中にある“氷や炭のような感情”こそ、最も取り去りにくい」
  • 「この心中の氷炭(=偏見・怒り・執着など)を取り除くことができれば、胸の中には和やかな気が満ち、自然とどこにいても“春風”のような心地よさが生まれる」

4. 用語解説

  • 天運の寒暑:自然界の季節変化。暑さ寒さ。
  • 人世の炎涼:人間関係における情の冷暖。冷遇・厚遇・裏切りなど。
  • 吾心の氷炭:心の中にある冷たさ(嫉妬・憎しみ)や熱さ(怒り・執着)。
  • 満腔(まんこう):胸の中、心の奥。感情の器。
  • 和気:穏やかで調和の取れた心の状態。
  • 自随地有春風:どこにいても、自分の中に“春風”のような快さがある状態。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

自然の暑さや寒さは避けようと思えば避けられるが、人間関係における情の冷たさ・温かさは、なかなか避けることができない。
それでも、外の人間関係は工夫で避けられるかもしれないが、自分の心の中にある“冷たさや熱さ”──つまり偏見・怒り・執着といった感情こそが、もっとも手強い。
しかし、その氷や炭のような心の重荷を取り除くことができれば、心の中は調和と温かさに満たされ、どこにいても春風のような安らぎを感じられるようになる。


6. 解釈と現代的意義

この章句が説くのは、“内なる感情のコントロール”の重要性です。

  • 外部環境(季節や他人の態度)に振り回されるよりも、自分の心の中にある“冷熱”を制御することが肝要
  • 心の“氷と炭”とは、嫉妬・怒り・自己執着・恨み・過剰な情熱や不安など、エゴに根ざした感情のこと
  • それを解消できれば、たとえ環境が厳しくとも、心の中に“春風”を感じることができる

これは、ストア哲学やマインドフルネス、心理的レジリエンスの考え方とも合致します。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「外的環境ではなく、内的反応を整える」

  • 部下の態度、顧客の言動、上司の無理解……これらに左右されるのではなく、「自分の内なる反応」をまず整える

✅ 「職場の“氷と炭”を溶かすのは、自分の感情の整理から」

  • 不満・怒り・焦り・対人関係の冷えなどがあるとき、まずは**“自己の胸中を掃除する”**視点が必要
  • 感情の“温度差”を放置せず、整理していくことで、空気が変わる

✅ 「どこにいても“春風のような人”になる」

  • 組織における理想のリーダー像は、「自分の感情を制御し、他者に和らぎを与える存在」
  • 技術・能力より、安らぎを与える空気を持てる人が真のキーパーソンになる

8. ビジネス用の心得タイトル

「心の氷炭を溶かせ──“和気満腔”が真のリーダーを育てる」


この章句は、マインドフルネス研修、感情知能(EQ)教育、リーダーの内省指導に極めて有効です。

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