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我社の未来を築く

新商品や新事業という言葉ほど心を引きつけるものはない。それは、会社の利益を大きく伸ばし、未来の繁栄を手にする希望を秘めているからだ。だからこそ、多くの企業がこの挑戦に力を注いでいる。

しかし、実際に成功を収めている企業はどれほどあるだろうか。その数は驚くほど少ない。多くの企業を訪れる中で目の当たりにするのは、成功が見込めそうにない新商品や新事業に、限られた資源を惜しげもなく注ぎ込む姿だ。それは現実の厳しさを浮き彫りにしている。

その原因は、新商品や新事業に関する知識や経験が圧倒的に不足していることにある。新商品や新事業には、思いもよらない盲点が無数に潜み、予期せぬ落とし穴があちこちで待ち構えている。それを見抜く目を持たないまま進むことが、失敗の大きな要因となっている。

しかし、そうした失敗のリスクを具体的に教えてくれるセミナーや文献はほとんど存在しないと言っていい。他社の成功事例や散発的なヒントだけでは、実際の役には立たないことが多い。成功の影に隠れた失敗の要因や、真の課題に目を向けるための知見が圧倒的に不足しているのが現状だ。

そこで、新事業を模索する経営者たちのために、開発における正しい姿勢や考え方、具体的な進め方を体系的に解説し、指針となる一冊を提供したいとの思いから本書を書き上げた。この本が、新たな挑戦に立ち向かう際の実用的な手引きとなることを願っている。

特に強調したいのは「販売」の重要性だ。新商品や新事業の販売は、多くの人が抱く楽観的な期待とは裏腹に、決して容易なものではない。むしろ、そこにこそ最大の困難が潜んでおり、成功の鍵を握る要素が集約されているといっても過言ではない。

だからこそ、販売に関しては本書だけでなく、「販売戦略・市場戦略」編の併読を強く勧めたい。

というのも、新商品の販売における重要なポイントの中には「販売戦略・市場戦略」編に記した内容が含まれており、それらは本書では触れていない部分もあるからだ。

両カテゴリーをあわせて読み、十分に研究を重ねることで、確かな成功をつかみ取ってほしいと願っている。

S社は家庭用品を製造するメーカーだ。同社の主力商品であり、10年以上にわたって売上トップを維持してきたホームバーセットが、徐々に売上を落とし始めた。S社にとってこの商品は収益の柱であり、状況を打開すべくあらゆる売上回復策を講じたものの、期待した成果を得ることはできなかった。

原因は、流通業者が商品の扱いに飽きてしまい、販売意欲を失った結果、各地の売場から商品が外されていったことにある。S社は流通業者に対し、「これほど売れる商品をなぜ売場から外すのか」と説得を試みたものの、返ってきた答えは「それは理解しているが、そろそろ新しいものに切り替えたい」というものだった。

経営者は、どんなに強い商品でも永遠に売れ続けるとは考えていないが、「まだしばらくは売れるから問題ない」と安易に思い込む傾向があるようだ。

かつての日産が出していたダットサンがその典型例だ。他社が次々と新型車を投入する中、日産の経営者はダットサンのモデルチェンジに積極的な姿勢を見せず、時代遅れのデザインの車を売り続けていた。

このダットサンのモデルチェンジは、経営側の動きではなく、ついには我慢の限界に達した労働組合の強い要求によって実現したと言われている。

富士重工の「スバル360」も同様の例だ。「日本のフォルクスワーゲン」としての地位に固執した技術者的な発想から、長年モデルチェンジが行われず、その結果、売上は完全に頭打ち状態となった。しかし、東洋工業や本田技研が軽自動車市場に参入し、急速に売上を伸ばす姿を見て、ようやく重い腰を上げてモデルチェンジに踏み切ることになった。

アサヒペンタックスも同じ状況に陥った。優れた性能に依存するあまり、他社が次々と新型モデルを投入する中でも、頑なにモデルチェンジを避け続けていた。その結果、オリンパスやミノルタに追い上げられる事態となり、ようやく慌てて重い腰を上げることになった。

優れた商品力を持つ商品ほど、経営者はその斜陽化の兆しを見逃しがちになる。しかし、どんなに優れた商品であっても、やがて斜陽化する運命から逃れることはできない。この現実を認識することこそ、経営者にとって最も重要な責務だ。この認識を土台として、自社の将来を見据え、具体的な戦略を描いていくのが経営者の役割である。

商品が斜陽化する以上、現在の商品が将来の収益を保証することは不可能だ。したがって、将来の収益を生み出す新たな商品は、現行の商品がまだ収益力を持っているうちに開発しておく必要がある。この準備を怠り、既存の商品が収益力を失ってから慌てて動き出しても、手遅れになるのは明白だ。

どんな商品であっても、開発には最低でも3年はかかる。中には、5年や10年を要する商品もある。そして、商品を市場に投入してからも、収益の柱となる売上を確保するまでには2〜3年は必要と考えるべきだ。つまり、新商品が本格的に収益を生み出すまでには、長期的な視野と計画が欠かせない。

だからこそ、社長という立場にある者は、現在の好調さに安住することなく、常に自社の商品や事業を冷静に見直し、長期的な視点で次の一手を考え続けなければならない。短期的な成功にとらわれず、未来を見据えた戦略を立てることが求められる。

M社は石油販売業を営む会社だ。M社長は私に会うたびに、「一倉さん、10年後の世の中はどうなっているのでしょうか」と問いかけてくる。

M社長の関心は常に10年先を見据えている。10年後にも自社が高収益を維持するためには、今何をすべきか——それがM社長自身が自らに課している命題だ。

M社長の経営に対する考え方は、次の言葉に端的に表れている。「一倉さん、僕の経営の考えを話すので批判してほしい。我社を一升枡に例えるなら、その中にある瓦を取り出して、代わりに金を入れるのが社長の仕事だと思っています」と彼は言う。その通りだ。経営とは、既存の無駄や不要なものを見極め、それを取り除いて価値を生み出す資源に変える作業そのものだからだ。

そして、社長室の壁には各ガソリンスタンド(SS)の売上推移を示す資料と地図が貼られ、M社長はそこを指しながら自らの構想を語る。「このSSはもう売上増の見込みがないから、1〜2年のうちに売却するつもりだ——これを買う人はどんな人になるだろう。来年はここに、そしてここに新たなSSを開業する。再来年はここだ。その次は、このエリアとこのエリアをターゲットに用地を探している」と。具体的で緻密な計画を描くその姿勢こそが、未来を見据えた経営の真髄といえる。

M社長のこのような構想は、指示を受けた企画課が収集した情報をもとに、徹底的に検討を重ねる中で生まれる。そして、「ここだ」と思える場所については、必ず自ら足を運び、自分の目で現地を確認してから構築されるものだ。その実行力と現場主義が、構想の確実性と実効性を支えている。

M社の企画課の実体は、「外部情報収集課」といえる。表向きは、社長の構想に基づく新規SSの開店企画を担当する部署だが、その本質的な役割は、経営判断のために必要な外部の情報を徹底的に収集し、分析することにある。企画という名を冠しつつも、その基盤は情報収集にあると言っても過言ではない。

未来に向けた製品開発戦略 ―― 企業の持続的成長のために

多くの企業が持続的な成長を目指している一方で、市場の変化に対応し、次世代に向けた準備を怠らない姿勢が求められています。ここでは、家庭用品メーカーS社や石油販売業のM社の事例から、収益力のある商品が斜陽化した場合にどう向き合うべきか、さらに新たな収益源を確保するための取り組みについて考察します。

S社:ヒット商品に頼らない未来への布石

S社は、長年ヒット商品であるホームバーセットを中心に高い売上を維持していました。しかし、販売が鈍化し始めたとき、流通業者から「新しい製品が必要」との声が聞こえても、S社はモデルチェンジに積極的になれませんでした。その結果、商品は徐々に売場から外され、売上が下降線をたどることになりました。ここから学ぶべきは、いかに優れた商品であっても市場は変わり続けるという事実です。

例えば、S社が行ったように「現行モデルが売れているから安心」と考えるのではなく、顧客のニーズや市場の変化を予測し、未来に向けた革新的な製品開発を進める姿勢が不可欠です。

長期視点での製品開発と収益確保

S社のケースに学ぶべきことは、強力な収益を生み出す商品に頼り切らず、未来の収益基盤を構築する商品を先回りして開発する必要があることです。製品開発には3年から10年の時間を要し、収益が確保されるにはさらに2年程度が必要であることを理解することが重要です。

たとえば、モデルチェンジを行う際には、単なるデザイン変更にとどまらず、消費者の潜在ニーズやライフスタイルの変化に合わせた新機能や価値を付加することが求められます。新しい商品が生まれれば、社内の意識改革も進み、S社のように一度確立された商品の勢いを持続し続けることができます。

M社の戦略的な未来予測と収益管理

一方、石油販売業を営むM社の社長は、常に10年先の市場環境を見据えた収益の確保を意識しています。M社の社長は、各ガソリンスタンドの売上動向を自ら確認し、将来的な収益の見込みが低い場合にはその売却を検討し、新たな市場への進出や用地の確保を進めるといった戦略的判断を行っています。このような長期的な視野を持ち、時には投資リスクを負う姿勢が、事業の持続的な成長を支えています。

M社のように、情報収集課を持ち、外部情報を徹底的にリサーチして活用することは、戦略的判断の重要な土台となります。未来を見据えて準備を重ねることで、どんな変化があっても安定した収益基盤を築くことが可能です。

持続的成長に向けた経営者の役割

長年のヒット商品や確立されたブランドに安住せず、常に「次の一手」を考える経営者の姿勢が、企業の将来を左右します。社内外の情報を駆使し、顧客ニーズや市場の変化に対応することで、未来に向けた競争力を養うことができるのです。

企業が繁栄を続けるためには、現在の成功に甘んじることなく、長期的な視点で新しい価値を提供する準備を続けることが必要です。市場環境が大きく変動する今こそ、S社やM社の事例に学び、次世代へ向けた戦略的な企業活動を実践していくべきではないでしょうか。

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